DXが推進される時代に、契約関係の書類を電子化すべきか悩まれている企業が増えています。
建築業において注文を受ける際のカギを握る見積書を電子化するとどうなるでしょうか。
従前通り、紙で保管し続けるメリット、デメリットと電子化した場合にどんなメリット、デメリットがあるのかを解説していきます。
あわせて、電子化にあたっての注意点も確認していきましょう。
目次
見積書とは
見積書は新築工事や改修工事などの相談や依頼を受けた際に、希望条件に合った内容や提案する内容で工事を行うといくらになるかを提示する書類です。
工事の合計費用だけでなく、費用の内訳が示されるのが基本です。
作業の種類や工賃、資材や設備の単価や数量などが示され、工事を検討している取引の相手方にとって、重要な判断資料となります。
見積書の内容で発注者と受注者で、工事内容に関する認識が一致し、後日トラブルを防ぐ役割も果たします。
万が一トラブルが発生した場合も、見積もりの内容が証拠となり、トラブル解決にも役立つ重要な位置づけの書類です。
小規模な業者や比較的小規模な工事を請け負う場合、契約書を取り交わすことなく、見積書に合意を得て依頼が入ったことで工事が行われるケースも少なくありません。
契約は双方が合意すれば成立し、必ずしも書面を取り交わさず口頭でも良いためです。
この場合、見積書は契約内容を担保する重要な書類です。
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見積書の保管義務
見積書は取引上、契約内容を示し、取引額を明確にする重要な書類です。
国や地方自治体などへ補助金申請を行う場合など、契約書や請求書、領収書などと並び、見積書が取引の存在を示す書類として認められることがあります。
税務申告などのうえでも、見積書は売上や経費の発生を示す証拠書類です。
このように、見積書は重要な書類であることから、一定期間の保管が義務付けられています。
なお、見積書を発行しても契約に至らなかった場合は法制度上の保管義務はありません。
取引があった証拠的な役割を果たすものなので、契約が成立しなかった場合は税法上保管の義務は生じません。
保管期間は法人か、個人事業主かで異なるので注意しましょう。
法人の場合
法人の場合は、法人税法により原則7年です。
これは、法人に対する追徴課税ができる期間が7年であるためです。
その間に税務調査がなされた場合、見積書などの書類のチェックをすることを想定しています。
気を付けたいのは、赤字決算の場合は10年になることです。
赤字の年の損失は3年間繰り越しができるため、その年数がプラスされています。
この点、赤字の年か否かで保管期間を変更すると管理が煩雑になります。
そのため、法人の場合最低10年は保管するようにするのがおすすめです。
気を付けたいのは、いつから10年かです。
見積書の発行日ではなく、各事業年度の確定申告書の提出期限の翌日が起算点とされます。
月ごとに管理して10年経過で廃棄してしまうと、保管期間が不足するおそれがあります。
見積書の保管は各法人の事業年度ごとに管理しましょう。
個人事業主の場合
個人事業主の場合も保管期間は2つのパターンがあります。
前々年度の課税売上高が1,000万円を超え、消費税の課税対象事業者となる場合は7年間の保存が必要です。
前々年度の課税売上高が1,000万円を超えておらず、消費税の課税対象事業者とならないなら5年間です。
その年によって売上に大きな変動があり、課税売上高が1,000万円を前後している方は、1年分を一律7年保管しておくと安心です。
見積書の有効期限に関する詳しい記事はこちら
見積書の保管方法
見積書は5年から10年にわたって保管が必要で、かなりの長期にわたります。
見積書の発行枚数が多いほど、1年分でも大量の枚数になり、保管や管理も大変です。
従来は、取引の相手方に発行したのと同じ見積書をプリントアウトするかコピーしたうえで、ファイリングするなどして保管されていたでしょう。
これから電子化して保管するとなるとどうなるのでしょうか。
これまで通り、紙で保管するメリットデメリットと電子で保管するメリットデメリットを確認していきましょう。
紙で保管するメリットデメリット
DX化が進んでいない既存の多くの企業や個人事業主は、紙ベースで保管されているのではないでしょうか。
これまで当然のように行っていて、紙で保管するメリット、デメリットについて考えたことはなかったかもしれません。
電子化するかどうかを検討するにあたり、従来の方法におけるメリット、デメリットを確認しておきましょう。
紙で保管するメリット
紙で保管するメリットは、現在と同じ方法であれば変化がないことがメリットの一つです。
新しい保管方法に切り替えるとシステムの導入費用がかかります。
さらに、スタッフが方法を覚えるのにも手間がかかります。
変更がなければ余計な手間やコストはかかりません。
データに比べて改ざんしにくい点もメリットです。
改ざんされたデータは本来のものか、改ざん後かわかりにくいですが、紙の場合は痕跡が残りやすいです。
紙で保管するデメリット
見積書1枚1枚は薄くても、ファイリングして1年分となれば分厚いファイルになります。
数年分となれば、必要となる保管スペースも増えていきます。
キャビネットを増設することや書庫を設けるなどコストとスペースが必要なのがデメリットです。
加えてファイリングする手間や人件費もかかります。
紛失のおそれや盗難などのリスク、火災などで燃えてしまうリスクもあります。
10年程度であれば基本的には問題ないものの、印刷状態などによっては文字が薄れるなど劣化のおそれも少なくありません。
さらに、大量の紙を使用し続けることは、SDGSや脱酸素社会といったエコ意識とは逆方向です。
企業の社会的責任の観点からも課題が残ります。
ペーパーレス化に関する詳しい記事はこちら
電子で保管するメリットデメリット
では、見積書を電子化して電子で保管する場合のメリット、デメリットを見ていきましょう。
電子で保管するメリット
紙での印刷などが不要となり、紙のコスト、印刷やファイリングの手間、保管スペースがいらなくなります。
加えて、データを適切に管理することで検索しやすくなります。
契約前の交渉段階や契約後など、見積書が必要になった時、簡単に探せるようになるのもメリットです。
紙と異なり物理的に劣化することがなく、常に明確な状態で保管し続けることが可能です。
電子で保管するデメリット
バックアップを取るなどしておかないと、データが収納されているパソコンやシステムなどが壊れた時にすべてが失われてしまうおそれがあります。
また、サーバーやクラウドサービスを利用する場合の初期費用やランニングコストがかかります。
データ流出などにより信頼が損ねられるおそれがあるため、セキュリティ対策も欠かせません。
権限設定をすることや編集できないようにしておかないと、改ざんのリスクやうっかりデータが差し替わるリスクがあります。
情報漏洩の防止に関する詳しい記事はこちら
電子化の注意点
電子化の注意点として、改ざんできないフォーマットにすること、見積書にパスワードをかけることも大切です。
改ざんできないフォーマットにする
データのデメリットは改ざんがしやすく、変更されたことがわかりにくい点です。
改ざんされてもなかなか発覚しない、気づかずに使ってしまうケースも少なくありません。
編集権限を与えない、制限する、閲覧しかできないフォーマットにするなど、改ざん対策を講じましょう。
すでに見積書としての役割を終え、保管される状態に入れば、通常編集を加える必要はないので、最終の状態をキープしていく対策が必要です。
見積書にパスワードをかける
ファイルの編集をはじめ、見積書の文面や画像をコピーする機能、印刷や開封そのものにもパスワードをかけましょう。
パスワードを知っている権限がある人のみ、利用や閲覧ができるようにする対策です。
これにより、意図しない情報漏えいや改ざんからデータが保護できます。
情報セキュリティに関する詳しい記事はこちら
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まとめ
見積書は、工事の内容や費用、合計金額などが記載される書類です。
工事を発注するかの判断材料を提供するほか、契約内容を担保するなど重要な役割を果たします。
見積書の保管義務は法人か個人事業主かや決算状況により5年から10年です。
見積書の保管方法として、紙で保管するメリットやデメリット、電子で保管するメリットやデメリットを見てきました。
いずれもメリット、デメリットがあるので、デメリット対策を講じることが大切です。
電子化の注意点として改ざんできないフォーマットにすること、請求書にパスワードをかけることで、デメリットの抑制ができます。
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