新築やリフォームに限らず、多くの住宅工事は施主にとって「一生に一度の買い物」です。
施主がご自身やご家族の希望を生かして建築を依頼する注文住宅ならば思い入れもより大きいものでしょう。
ところが、素晴らしい買い物であるはずの住宅工事にも関わらず
様々なクレームがあとを絶たないのも事実です。
ひどい時には、工務店やハウスメーカーが訴えられる事も珍しくありません。
施主と工務店がトラブルにやりやすいポイントはいくつかありますが、
今回は工期に関わる「工程表」について考えてみましょう。
工程表とは
工程表とは工事の作業過程と期間を示した表です。
施工管理者はこれをもとに各作業の人員配置や作業時間を把握しています。
施主においても、「工事がちゃんと進んでいるか」「予定通り出来ているか」を判断し、家の進捗を見守るために工程表を確認します。
工程表を作成する目的
工程表の作成は、工事の全体を把握するために必要な作業です。
ここでは、工程表を作成する目的をより具体的にご紹介します。
納期を守るため
どの工事でも納期を守るために細かなスケジュール管理が必要になります。
適切な機械や人員の手配、日程調整を行うことでできるだけ工期を短縮できるようにしましょう。
工程ごとの適切な手配はコスト削減にもつながります。
業務の効率化
工程表によってタスクの優先順位が分かるため、すぐに取り掛からなければならない作業を知ることができます。
作業員も進捗状況を知ったうえで作業できるため意識向上にもつながり、業務の効率化を図ることができます。
イレギュラーの対応
工事中のトラブルは天候不良や作業員の欠員、機械の故障など様々なものが考えられます。
急なトラブルに対応するために全体のスケジュールを把握しておくことが重要となります。
工程表の種類
工程表にはいくつも種類が存在し、目的によって使い分けます。一つずつ紹介していきます。
バーチャート工程表
バーチャート工程表とは、建築工事(新築・リフォーム工事など)のスケジュールを共有するために作られる標準的な工程表です。
横軸には「日時」が表記されているので、いつ・どの作業が完了する予定なのかが一目でわかるようになっています。
施主様と共有するには非常に分かりやすい仕組みですね。
ガントチャート工程表
ガントチャート工程表は、各作業の「進捗」を把握するために作られた工程表です。
最終的な締め切りや日時などは記載されていないので施主様とのスケジュール共有に利用するのは難しいでしょう。
どちらかというとシステム開発やその他販促プロジェクトなど、期限や作業内容の説明が不要なチーム内共有資料として、進捗の遅れが無いか等を確認するために使われます。
曲線式工程表(グラフ式工程表)
曲線式工程表(グラフ式工程表)は、縦軸に進捗率(出来高比率)、横軸に日時(工期)を表示することでバーチャート工程表とガントチャート工程表どちらの情報も確認できるようにする工程表です。
手軽に作成でき、各工事の開始・終了、進捗スケジュールなどが確認できるものの施主様と共有するには伝わりづらく作業間の繋がりも見えないので誤解が生まれやすい点に注意が必要です。
工程管理曲線(バナナ曲線工程表)
工程管理曲線は、曲線式工程表・バナナ曲線工程表などと呼ばれることもある所内共有によく使われる工程表です。
工事全体の工期や進捗状況を把握しつつ、工事の遅れや許容範囲がすぐに分かるので工事担当者同時で共有するのに適しています。
ネットワーク工程表
ネットワーク工程表は監理技術者など複数の工種を扱う工事の工程を調整する立場の人が利用する工程表です。
各工事・作業との繋がりと、「この作業を行う前には前工程のどの作業を完了させておく必要があるのか」というスケジュール感が見やすいのが特徴です。
しかし、この工程表も施主と共有するのは厳しいでしょう。
読み方を間違える可能性も高く、施主と共有する工程表はバーチャートが無難です。
各工程表の違いと工程表ソフトを見るならこちら
【施工管理】工程表の作成の基本
工程表の作成方法としては、手書き、ワード、エクセル、そして工程表の作成に適したシステムを活用する方法があります。
システムやエクセルを利用し工程表を作成することで、各工程を変更する場合や情報共有が効率的に行うことができます。
ここでは、工程表を作成する手順について具体的に見ていきましょう。
①施工手順・範囲を決める
工程表を作成する場合、まずは工事に該当する施工法や順序をもとに、施工手順・範囲を決めます。
あらかじめ施工手順を決めておくことで、作業内容を明確化し過不足のない適切な工程表を作成できます。
従って施工手順は、作業単位別に細かく確認し、設定しておくとよいでしょう。
また、各作業で必要な資材や設備、労務などがある場合は、手順とともに設定しておきましょう。
②施工期間を設定する
続いて、各工事にかかる施工期間を設定します。
施工期間は、短く設定すれば日々の作業に追われ、ミスやトラブルの要因となり得ます。
反対に、長く設定すれば万が一トラブルが発生した場合に、納期に間に合わない可能性があがります。
つまり施工期間は、工事内容や現場の環境、人員などをふまえ適切に設定することが重要です。
③各工事の配分・調整を行う
次に、全工事が納期までに完了できるよう工事の配分・調整を行います。
その際は、万が一のトラブルに備え、余裕を持った計画を立てましょう。
また、資材や機材などの使用期間が、ある期間に集中してしまわないよう調整することも重要です。
なお、それ以前の工事を終えなければ着手できない工事のように、関連性の高い工事の流れをふまえた配分・調整を行うと良いでしょう。
④種類を選択する
工事の内容が確定したら、工程表の種類を決めます。
上述したように、工程表と一口に言っても、横線式工程表(バーチャート・ガントチャート)や曲線式工程表(グラフ式・出来高累計曲線)、ネットワーク式など種類は豊富です。
用途や現場に適した工程表を選択すると良いでしょう。
⑤作成方法を選択する
種類を決めたら、工程表の作成方法を選択します。
工程表の作成方法には、「順行法」「逆算法」「重点法」の三種類あります。
- 順行法:施工の順番に沿って行う作成方法
- 逆算法:完了日からさかのぼって計画を行う作成方法
- 重点法:重点時期を定め、その前後を順行法・逆算法を用いて計画を行う作成方法
作成方法を選択したら、ワードやエクセル、システムなど自社に適したツールを活用し、実際に工程表を作成しましょう。
工程表の書き方についてはこちら
工程表がない!そんな時に施主に与える影響
管理上必須といわれる工程表ですがハウスメーカーの下請けや一部の工務店では作っていなかったり、作っていても施主と共有していないケースは多いようです。
業務形態上工程表が出せなかったり、施主とのやり取りにおいてあえて工程表を作らないという選択をしている工務店もあるようですが、施主にはどんな印象を与えるでしょうか?
工務店への不信感
あらゆるクレームは、施主と工務店・施工業者との信頼関係の問題から発生します。
施主が工務店に対して少しでも不信感を抱いていると、本来なんでもないようなことでさえ敏感に反応してしまうものです。
工程表が施主に提出されないという事態は、工務店(リフォーム会社)に対する不信感を作る最も大きな要因になり得ます。
「ちゃんと工事をしてくれるのだろうか?」という不安は、次第に「何か言えない隠し事があるから工程表を提出しないのではないか?」という疑心に変わります。
結果、施主は工程表以外の部分にも「不信の目」を向けてしまうことになり、様々なクレームを誘発してしまう可能性を生むのです。
リピート率の低下
リピート率は、初回契約時の満足度によって上下します。
工程表が無いことによって不信感を与えていれば満足度は当然下がってしまう為、リピート率も低下してしまいます。
実は、ハウスメーカーからの下請けを主事業とする工務店でもリピート率の低下は大きく影響します。
ハウスメーカーの下請け工務店によるクレームは、直接ハウスメーカーの営業側に送られることが多いものです。
その結果、同じ地域で工事があった場合でもハウスメーカーから発注が来なくなってしまう危険性があります。
本来なら工程表の提出は、施主と直接契約を交わすハウスメーカー側の問題ですが、往々にして工務店が「とばっちり」を受けてしまうこともあり得るのです。
工程管理に関する記事はこちら
工程表作成のポイント
とはいえ、工程表があればいいというわけでもありません。
工程表最大の目的である「施主が工事進捗をはっきり把握できる」を達成できる作り方が必要です。
ポイント① 簡単に編集・共有できること
工程表を作っているにも関わらず工期に関するクレームが来る原因は、「予定通りに進んでいない」ことがはっきりと施主に分かってしまうからです。
工事期間に変更がある場合には、どの工事がどれくらい延期になったのかという点が予定していた期間と比較して分かるようにしましょう。
変更点がすぐ共有できるように、紙での提出ではなくクラウドツールを使うのも手段の一つです。
同時に、「当初結んだ契約工期に変更があるかどうか」も分かるようにします。
このペースで工事してちゃんと完工予定日に間に合うのか?という施主の不安に寄り添えるかが重要です。
ポイント② 工事の場所毎に進捗が分かること
工務店サイドの施工管理資料として作成する工程表は、工務店や施工業者が分かりやすいように工事種類ごとに並んでいることが多いものです。
ところが建築知識の無い施主の場合、工事種類ごとに並んでいる工程表を見ても「この工事が何を意味するのか?」が理解しにくく、伝えたいことが伝わらない可能性があります。
施主に提出する工程表は工事場所ごとに並ぶよう作成しましょう。
ポイント③ どの誰が工事するのか明確にする
工事によっては下請けの施工業者に発注をかけるケースもあります。
その際、工程表には「どの業者が工事するのか=誰が来るのか」を明記しましょう。
リフォームなら多くの場合、施主は住まいながら工事を請けることになるので知らない誰かが来るという不安をなくすことにつながります。
また、万が一工事トラブル等があった場合でも直近でどの業者が現場にいたのかが明確になりますし、新築工事等であとから問題に気づいても業者の確認が容易になります。
工務店や業者からすればトラブル時の犯人探しを容易にするリスクを抱えるようなものですがそこまでして初めて施主は「包み隠さずやってくれている」「信用に足る」と判断するのです。
ポイント④ 誰が見ても同じように理解できる表示にする
場合によっては工事資材など専門用語が飛び交う可能性のある工程表ですが、施主にも分かりやすい表現を使いましょう。
最近では施主側も様々な勉強をしてくるのが住宅工事の常識になってはいますが、「施主が勉強不足で分からないから伝わらない」は施主に通用しません。
必要に応じて業者用と施主用の2種類を用意するなど、理解レベルに応じた表示を心掛けましょう。
工程表の選び方に関する記事はこちら
工程表作成に最適なツールの選び方
工程表を作成する方法は上述したようにいくつかありますが、ここではおすすめされる3つの方法に関して詳しく見ていきましょう。
工程表の作成方法
- エクセルテンプレートを活用して作成する
- 工程表を作成するための専用ソフトを利用する
- 工程表作成を含めた一元管理システムを利用する
①エクセルテンプレートを活用して作成する
今すぐに作成する必要があるなら①がおすすめです。
無料でダウンロードできるエクセルテンプレートがネットを探せばいくらでも出てきますし、ひとまず今すぐ用意するぶんには問題ないでしょう。
ただしエクセルテンプレートによる工程表作成は、長期的に続けていると管理面でトラブルが起こりがちです。
エクセルデータは基本的に個人のパソコンに保存されていく仕組みであるため、
- 過去のデータが検索しにくい
- データの流用が難しく毎回1から作成しなければならない
- 関連する他の情報と紐づいていないので情報の食い違いや更新の手間が発生する
これらの問題を解決し作業時間を短縮するためには、後述する②専用ソフトまたは③一元管理システムいずれかの導入がおすすめです。
②工程表を作成するための専用ソフトを利用する
工程表を作成するための専用ソフトを導入するのか、あるいは工程表作成を含めた多くの業務をまとめて管理できる一元管理システムを導入するのかは、「どのような工程表を作る必要があるのか」によって変わってきます。
例えば短期的・小規模なリフォーム工事であれば、10個程度の作業行程を簡単なバーチャートで管理するだけで十分です。
フルリフォーム、新築工事など規模の大きな工事の場合には作業工程が増えるほか、前後の工程との繋がりが複雑であるため様々な操作や機能が求められます。
一元管理システムの場合はそのような高度な工程表作成に対応できる機能が備わっていないケースもあるので、専用の工程表作成ソフトを検討しましょう。
③工程表作成を含めた建築業(リフォーム業)に特化した一元管理システムを利用する
一元管理とは、工程表以外も含めた関連業務の情報をまとめて管理する仕組みです。ここでいう工程表「以外」の情報とは以下のような業務を指します。
- 施主様の住所、連絡先、所有する物件など基本情報を管理する「顧客情報」
- 過去の施工履歴、受注金額や担当者、施工内容などを管理する「案件情報」
- 見積書の作成、印刷、修正履歴などを管理する「見積情報」
- 施工時の実行予算、発注先協力会社、完工後の請求金額を管理する「原価情報」
- 施主様からの入金予定、入金実績、請求書発行と履歴を管理する「入金情報」
基本的には書類の作成や事務処理関係の業務管理が中心ですが、記録された情報を集計・分析できたり、システムによっては施工管理や写真管理などが加わる場合もあります。
いずれの場合も業務効率を大幅に向上させる便利なツールです。
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【住宅のリフォーム工事】工程管理事例
ここではリフォーム工事において工程表作成・工程管理を行ったことで、トラブルを回避した事例をご紹介します。
ケース① 解体工事における工事遅れ
以前工事を行った際、人員管理ミスにより経験不足の職人が多く、工事が思うように進まなかった。
また、管理不足により作業員が誤った解体をしてしまい、補修作業が追加されたことで資材不足を招き、更に工期が遅れる要因となった。
こうした事態を改善すべく、工程管理を徹底し、作業員の経験値を配慮した人員配置や余裕を持った資材調達を行った。
また、工程表を作成したことで、新人でも工事手順を把握しやすくなり、格段に作業効率が向上した。
ケース② 雨天による工事遅れ
外壁塗装の工事を担当した際、梅雨でもない時期に予想外の連日雨天で工事が止まってしまった。
これにより、大幅な工事遅れとなり、納期に間に合わない事態となってしまった。
こうした事態をふまえ、工程表作成時、雨天による影響が大きい工事に関しては、大幅に余裕をもって工程を組むように注意した。
また、施主に工程表を工事前や工程変更毎に提出し確認していただくことで、やむを得ないトラブルで工期が遅れても納得していただきやすくなり、クレーム防止につながった。
ケース③ キッチンリフォーム工事における事例
自社では、徹底した工程管理と工程表の作成を行っている。
特に、余裕を持った工程を組むことで、顧客一組一組に満足していただける対応を心がけている。
以前、リフォーム工事をされたお客様にヒアリングをしたところ、「2度目のリフォームだが前回の工事後、清掃が甘く家具や洋服が汚れてしまったのが気になった」とおっしゃっていた。
そこで、余裕をもって工事を完了し、清掃を念入りに行ったことで、工事後お褒めの言葉をいただくことができた。
工程表が作成できるオススメシステム
工程表を作るだけならExcelでも可能です。
ただし、変更点をすぐ共有したり業者や施主にとって分かりやすい形を作るなど
上述したポイントを実現しようと思うと必要以上の手間と時間がかかってしまうものです。
そんな時は、工程表が作成できる工程表作成ツールがおすすめです。
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使いやすさを追求しており、エクセルから初めて管理システムを導入される方にお勧めです。
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すべての資料を一元管理できるため現場を上げることにつながります。
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体験版 | なし(無料セミナーあり) |
まとめ
今回は、工務店・リフォーム会社の皆さんに向けて、工期に関わる「工程表」に関して詳しく述べてきました。
工程表は、今回ご紹介した手順とポイントをもとに適切に作成することで、工期遅れなどのトラブル防止につながります。
しかし、工程表作成に時間をかけていては元も子もありません。
作成するツールも、行う工事によって適切に選択することで、工程表のみならず業務全体の効率が向上します。
顧客からの信頼を維持するためにも、工程表は正しくかつ効率よく作成しましょう。
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