建築現場では欠かせない役割を担う工事として認識されているのが、左官工事です。
伝統的な技術を受け継ぐ職人技は、近年施主など、一般のユーザーからも見直されてきています。
左官工事とはどんな工事なのか、左官工事の必要性や役割、具体的な仕事内容などを解説していきます。
左官工事とは
左官工事は、壁土、モルタル、漆喰、プラスターなどをコテ塗り、吹き付け、はり付ける工事と定義される工事です。
以下の工事も左官工事に含まれます。
- 基礎工事
- 土間工事
- 塗り壁工事
- モルタル工事
- モルタル防水工事
- 吹き付け工事
- とぎ出し工事
- 洗い出し工事
左官と他業種との違い
左官は塗装工事やタイル工事と混同されがちですが、左官は”塗る”だけでなく、壁の表面を整える「下地処理」や「成形」が中心となります。
特にモルタルを使った塗り壁は、左官の技術がなければ実現できません。
左官工事が活躍する場面
- ビルや住宅の内外装仕上げ
- 店舗のデザイン壁面
- 伝統建築や文化財の修復
左官工事の現場「町場」「町丁場」とは?
左官工事の現場は、業界用語として町場と野丁場の2つに分けられています。
それぞれどのような現場か確認していきましょう。
町場
町場は町の中の現場といった意味合いで、一般個人の木造住宅や店舗などで行う左官工事のことです。
塗り壁工事や土間工事、コンクリート打ち放し工事など、さまざまなニーズに応えます。
野丁場
野丁場は、大規模な建築物を対象にする現場のことで、ビルや中高層マンション、大型商業施設などで行う左官工事のことです。
大規模な面積をスケジュールにもとづき、均一かつスピーディーに工事を行う必要があるため、手仕事ではなく、塗り固めるための機械を使用するケースもあります。
左官工事の必要性

左官工事が必要とされる代表的な理由は、以下の通りです。
- 床や壁の耐久性の向上
- アレルギー対策
- 質の高い仕上がり
左官工事は、日本における伝統的な工法ですが、塗り壁などの左官工事は、時代や環境の変化により減少傾向にありました。
内壁の仕上げにはクロスが用いられ、外壁はサイディングパネルなどが使用されるようになったためです。
ですが、近年、漆喰や珪藻土といった自然素材の良さが見直され、エコである、アレルギー防止になる、子どもやペットにも安心、とニーズが高まっています。
耐火性や耐久性があり、環境に優しく、左官職人の技による手仕上げの美しさが再び脚光を浴びています。
床や壁の耐久性の向上
左官工事による塗り床や塗り壁は耐火性に優れています。
自然素材のため調湿作用があり、結露もしにくいです。
カビやダニの発生も防ぎ、劣化を抑えて、床や壁の耐久性を向上させてくれます。
アレルギー対策
左官工事は城造りなどでも行われる古くから続く伝統工法であり、古くより用いられてきた土や珪藻土、漆喰などの自然素材を用います。
そのため、化学物質を使う工事に比べて、アレルギーやシックハウス症候群を引き起こす物質を含まず、安心して使うことが可能です。
質の高い仕上がり
左官工事は誰が行っても同じではなく、左官職人の技で、個性的で美しい仕上がりを楽しめます。
さざ波や連波などの伝統的な文様、トラバーチン調など現代風の文様など、コテを用いておしゃれな塗り壁に仕上げることが可能です。
左官工事の内容・種類
左官工事の仕事は多岐にわたりますが、代表的な仕事は下地造りと、仕上げ塗りです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
下地造り
建物は壁に四方を囲まれて構成されており、壁は構造躯体として欠かせないものです。
壁の下地がなければ壁造りは成り立ちませんので、左官職人による壁の下地造りは建物の建築には欠かせない工事です。
壁の仕上げがクロスやタイル、板やペンキ塗装などの場合、仕上げとしての左官技は行われません。
表に現れない工事ではありますが、壁の耐久性を高め、仕上げ材の品質を高めるために重要な工事です。
仕上げ塗り
仕上げ塗りはとは、左官職人がコテなどの道具を用い、壁などの表面を塗って仕上げる工事です。
土壁や漆喰壁の場合、左官職人が下地造りをした後で中塗りを行います。
最後に上塗りとして、漆喰や珪藻土などで仕上げ塗りを行います。
コテの動いた跡が壁の模様となって浮き出るので、世界にたった一つのオリジナルの壁となり、職人技も試される作業です。
仕上げ塗りで用いられる材料
仕上げ塗りでよく使われる材料は、自然材料を中心とした伝統的な素材が多いです。
代表的な5つの材料を見ていきましょう。
土
聚楽壁をはじめ、土を仕上げ材に用いることで、個性が出ます。
古くより和室などに利用されてきました。
砂
砂は粒子が細かいので、滑らかな仕上がりになります。
和室や茶室をはじめ、現代の住宅ではリビングや洋室にも採用されています。
漆喰
漆喰は、石灰石に砂や糊などを加えて練り上げた仕上げ材料です。
古くより城や蔵の壁などに用いられてきた伝統素材です。
調湿作用が高く、空気中の水分を吸収・放出することで、空間を快適に保ってくれます。
そのため、湿度の調整が大切となるお宝や商品などが眠る蔵に使われてきました。
漆喰の主成分である石灰石は不燃性で耐火性能に優れているため、現代社会でも安心の材料です。
シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドを吸着・除去する作用も期待されており、アレルギー対策になるとして、小さなお子様のいるご家庭の壁などでもニーズが高まってきました。
プラスター
プラスターとは、鉱物質の粉末を水で練った石灰または石膏のことで、西洋漆喰とも呼ばれています。
漆喰壁のような見た目ですが、白く美しい光沢が出るのが特徴です。
珪藻土
珪藻土とは、植物プランクトンの死骸が海や湖、川の底に堆積して化石化したものです。
自然素材なので、化学物質が含まれず、シックハウス症候群などのアレルギー予防に効果的と言えます。
吸水性も高く、耐火性や断熱性に優れているため、室内を快適に保ち、建物を火災から守り、省エネ対策にも役立ちます。
モルタル塗り
最も一般的な左官材料で、セメント・砂・水を混ぜたもの。下地調整や仕上げに使われます。
左官工事の施工の流れ
左官工事の施工の流れは以下の通りです。
下地処理
構造体やボードの接合部を補強し、下地を平滑に整える工程です。この段階でひび割れ防止のためのメッシュシート貼りや、界面処理剤の塗布などが行われます。
仕上がりの美しさや耐久性を左右するため、非常に重要なステップです。
塗り工程
左官の腕の見せ所となるメインの工程です。
- 荒塗り(下塗り):下地との密着を良くするための最初の塗り。
- 中塗り:凹凸を均し、仕上げ層の厚みを確保する。
- 上塗り(仕上げ):最終的な仕上がりとなる塗りで、模様付けや仕上材によって意匠性も演出されます。
素材に応じて道具や手法を使い分ける必要があり、左官職人の経験が反映される工程です。
養生と仕上確認
塗り終えた表面を保護し、乾燥・硬化を待つ時間が「養生」です。気温や湿度の影響を受けやすいため、現場環境に応じた調整が必要です。
最終的には仕上がりの確認・補修・清掃を行い、引き渡しに備えます。
【注目!】KY(危険予知活動)も重要
安全に作業を進めるため、作業開始前にはKY(危険予知)ミーティングを実施し、作業に潜むリスクや注意点を全員で共有することが求められます。
特に高所作業や重い材料の取り扱いが伴う左官工事では、安全意識の徹底が欠かせません。
左官工事の単価相場と見積の考え方
左官工事の単価は材料・施工面積・難易度によって変動します。
以下に代表的な単価目安を示します。
工種 | 単価(㎡) | 備考 |
---|---|---|
モルタル塗り | 2,500〜4,000円 | 下地調整含む |
漆喰仕上げ | 3,000〜5,000円 | 手間賃高め |
珪藻土仕上げ | 3,500〜6,000円 | 材料費が高い |
見積書の作成時のポイント
- 養生・足場などの別途費用も要記載
- 面積計算は実測で行う
- 材料費+手間賃+諸経費を明記
左官工事に役立つ資格
左官工事に役立つ資格として、左官技能士、建築施工管理技士の2つを見ていきましょう。
左官技能士
左官技能士は、各都道府県の職業開発能力協会が実施する国家資格です。
技能検定の左官に合格しすることで取得できます。
専門知識、技術、経験が求められます。
建築施工管理技士
建築施工管理技士は、建築工事の施工計画を作成し、現場で工事の進行を管理する能力や技術を認められた人に与えられる資格です。
鉄筋工事や大工工事、内装仕上げ工事などの施工計画を作成する必要があります。
1級は大規模工事、2級は中小規模工事までの施工管理が可能です。
左官工事に関するよくある質問
- 左官工事の施工期間はどのくらいですか?
-
建物の規模や仕上げの種類によりますが、戸建て住宅の一部屋の内壁仕上げであれば1~2日、大規模な外壁全体だと数日~数週間かかることがあります。
- 左官工事の費用はどのように決まりますか?
-
使用する材料(モルタル、漆喰、珪藻土など)や施工面積、仕上げの難易度、現場の条件によって決まります。㎡単価で見積もられることが一般的です。
- 左官工事業はどの業種に分類されますか?
-
建設業法上では「専門工事業」に属し、「左官工事業」という分類があります。
- 左官工事の耐用年数はどのくらいですか?
-
使用材料や施工環境によりますが、モルタルで15~20年、漆喰で20~30年が目安とされています。
- 左官工事の見積書には何を記載すればよいですか?
-
面積・材料費・手間賃・養生費・足場費用・諸経費などを明記します。また、施工範囲や仕様の詳細、工期なども合わせて記載します。
建築業向けの管理システム「アイピア」
アイピアは建築業に特化した一元管理システムであり、顧客情報、見積情報、原価情報、発注情報など工事に関する情報を一括で管理できるため、情報集約の手間が削減されます。
さらに、アイピアはクラウドシステム。外出先からでも作成・変更・確認ができます。
アイピアはここが便利!6つのポイント
まとめ
左官工事とは、塗り壁工事など、左官職人がコテを用いて伝統の技で仕上げる工事です。
自然素材を中心にして丁寧に仕上げることで、床や壁の耐久性が向上し、アレルギー対策にもなります。
左官職人の技術によって質の高い仕上がりが期待できます。
現場には、戸建て住宅や店舗などの小規模な町場と、ビルやマンション、大型商業施設などの大規模な野丁場があります。
左官工事の内容の代表的なものは、下地造りと仕上げ塗りです。
仕上げ塗りで用いられる材料には、土・砂・漆喰・プラスター・珪藻土など、自然素材のものが多いです。
主な工事内容として、エントランスの床仕上げ、サッシ周りのモルタル詰めも需要があります。
左官工事に役立つ資格として左官技能士、建築施工管理技士があります。
リフォーム・建築工事用語に関する記事
"社内のデータを一元管理"工務店・リフォーム会社が選ぶ!