建設業においては、正確な積算が非常に重要です。
積算が適切に行われなければ、適正価格での受注が難しくなり、結果として会社の収益にも悪影響を及ぼします。
積算の中でも特に重要な役割を果たすのが労務費です。
労務費の見積りや計算を誤ると、正確な積算ができなくなってしまいます。
この記事では、建設業における積算での労務費について、その内容や計算方法をわかりやすく解説します。
労務費とは?
労務費とは、一つの工事に関わる労働者の賃金や手当、会社が負担する社会保険料などの費用のことです。
近年では、オートメーション化によって一人で作業できる工場や店舗が増えてきていますが、建設現場では人の力が不可欠です。
納期に向けて、長期間にわたる工事の中で多くの人々が関わり、工程ごとに労働者が入れ替わるため、労務費は細かく積み上げる必要があります。
労務費は単に「時給 × 労働時間」で計算できるものではありません。
労働者の技術や経験によって作業の進み具合が異なるためです。
例えば、熟練の職人が3日で終える工事でも、経験の浅い職人では5日かかることがあります。
このように、どの職人を起用するかによっても労務費に差が生じます。
一般的な労務費の内訳と計算方法
一般的に労務費は、直接労務費と間接労務費の二つに分けられます。
直接労務費は直接工事費の一部を構成し、これに対して間接労務費は間接工事費の一部となります。
直接工事費
直接工事費とは、工事の施工に直接かかる費用のことです。
工事の材料費や職人の労務費、機械費、水道光熱費などが含まれます。
また、直接工事費は「材料費」「労務費」「直接経費」の3つで構成されています。
それぞれの計算方法は以下の通りです。
- 材料費 = 所要数量(設計数量 × (1+ ロス率)) × 材料単価(購入単価 + 運搬費)
- 労務費 = 所要人数(設計作業量 × 該当作業の歩掛) × 労務単価(基本日額 + 割増賃金)
- 直接経費 = 特許使用料 + 水道光熱電力料 + 機械経費
間接工事費
間接工事費とは、建築物としては残らないが、工事に必要な間接的な費用のことです。
足場や養生の費用をはじめ、工事現場に携わる労働者の現場までの移動費用、通勤手当なども間接工事費にあたります。
間接工事費の計算には、主に以下の2つの方法があります。
- 国土交通省が定めた「公共建築工事共通費積算基準」を利用する
- 共通費の比率で計算する
1つ目の方法では、「公共建築工事共通費積算基準」を使用することで、公共工事の入札がスムーズに進み、入札資格も取得できます。
この基準は国が定めたもので、精度が高く、適切な計上が可能です。
2つ目の方法では、過去実績などに基づく間接工事費比率で算出する方法で、以下の3つの比率で計算します。
共通仮設費率は、「Kr=Exp(a + b × Loge P + c × Loge T)」で計算できます。
共通仮設費率(Kr)は、直接工事費(P)や工期(Tか月)を表しており、計算には、ExcelのEXP関数とLN関数を使用します。
現場管理費率は、「Jo=Exp(a′+b′×Loge(Np)+c′×Loge(T))」で計算できます。
Joは現場管理費率、Npは純工事費、Tは工期(月数)を表しており、計算には、ExcelのEXP関数とLN関数を使用します。
一般管理費率は、「Gp=a′′+b′′×Log10(Cp)」で計算できます。
Gpは一般管理費率、Cpは工事原価、「a”,b”」は、各工種等の個別の定数を表しており、計算には、ExcelのLOG10関数を使用します。
建設業における労務費
積算は建設工事の原価を決定する重要な作業であり、積算の精度が低いと利益が出ず、会社の収益や業績に影響を及ぼす可能性があります。
特に、労務費は大きな割合を占めるため注意が必要です。
納期までに条件に合った品質の建物や工事を完成させるためには、必要な技術や経験を持つ職人を確保する必要があります。
ただし、施工のために労働者を増やすと積算価格が上がり、見積もりが高くなって他社に勝てない可能性があります。
逆に、人手不足でコストを抑えるために人数を少なく見積もると、納期に間に合わない、品質が低下するなどの問題が生じることもあります。
そのため、建設業における労務費は、工事の内容に沿って高い精度で積算することが大切です。
社会保険料も労務費に含める
建設業における労務費とは、特定の工事に関わる労働力に対する費用です。
労務費の内訳には、以下の項目が含まれます。
- 賃金や給与: 従業員に支払う基本的な給与や賃金
- 雑給:アルバイトやパートタイマーへの給与
- 社会保険料:従業員の社会保険料、健康保険、労災保険などの負担額
- 労働時間外手当:残業や深夜勤務など、労働時間外に支払う手当
- 交通費:従業員の通勤や出張にかかる交通費
- 休日出勤手当:休日に働いた従業員への手当
- その他手当:特別手当や資格手当など
建設業における労務費では、労災保険料など社会保険料もしっかり含めなくてはなりません。
工事現場は労災事故のリスクが高いため、すべての現場従事者の労災保険料を支払い、労務費に含める必要があります。
労災保険料を計上せずにコストを抑えると、事故発生時に大きな問題を引き起こす可能性がありますので、十分な注意が必要です。
積算に関する記事はこちら
積算での労務費の計算方法
積算での労務費の計算方法は、以下の計算式で求められます。
労務費 = 所要人数(設計作業量 × 作業の歩掛)× 労務単価(基本日額 + 割増賃金)
歩掛とは、1つの作業を行うために必要な作業手間を数値化したものです。
どのくらいの作業の手間がかかるかは、職人の熟練度によっても変わります。
そのため、一般的には国土交通省が毎年公表している標準歩掛を用います。
もちろん、自社が使用する職人に合わせて変更してもかまいません。
人件費との違い
人件費は、労務費を含めたより広い費用を指す概念です。
労務費は、工事期間中、工事に関わる労働者にかかる費用です。
これに対して人件費には、営業や販売、総務や人事スタッフの費用、人材採用のためにかけた費用なども含まれます。
労務費のように、一定期間の特定の工事には限られません。
歩掛に関する記事はこちら
労務費率とは
労務費率とは、建設業の請負工事において、労災保険料を計算する時に用いられる比率です。
建設業以外の一般的な業界では、労災保険料の計算は、「賃金総額 × 労災保険率」で求めるよう定められています。
これに対して、建設現場では下請構造が複雑化しており、賃金総額の正確な算出が困難な実情があります。
そこで、労災保険の保険料に関しては、元請負人が全体の事業についての事業主となり、事業に関わるすべての労働者の労災保険の保険料を納付するという仕組みが構築されました。
元請事業者は、工事全体の支払賃金総額を正確に把握することが難しいので、請負金額に労務費率をかけたものを賃金総額とすることが認められています。
労務費率の計算方法
建設業における労務費率とは、工事の請負金額に占める賃金総額の割合です。
つまり、「労務費率 = 工事の請負金額 ÷ 賃金総額」です。
もっとも、労務費率は元請事業者が工事全体の賃金総額を求めるために用いるものとなります。
「請負金額 × 労務費率 = 賃金総額」となり、これに労災保険率をかけて、元請事業者が納付すべき労災保険料を求めます。
そのため、厚生労働省が工事の内容によってあらかじめ労務費率を定めています。
厚生労働省が定める労務費率
厚生労働省が定める労務費率は以下の通りです。
- 水力発電施設、ずい道等新設事業:19%
- 道路新設事業:19%
- 舗装工事業:17%
- 鉄道又は軌道新設事業:19%
- 既設建築物設備工事業を除く建築事業:23%
- 既設建築物設備工事業:23%
- 機械装置の組立て又は据付けの事業のうち組立て又は取り付けに関するもの:38%
- 組立て又は取り付け以外のもの:21%
- その他の建設事業:23%
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【建設業】労務費の管理が重要な理由とは?
建設業での労務費の管理は、単なるコスト管理だけではなく、業界の健全な運営や持続可能な成長に大きく関わっています。
労務費をしっかり管理することで、法令を守り、労働環境を改善し、見積もりの精度を上げ、健全な経営体制を築くことができます。
ここでは、なぜ労務費の管理が建設業において重要なのか、その理由を詳しく解説します。
改正労働基準法への対応
労務費管理は、改正労働基準法への対応にも重要です。
2019年4月に施行された「改正労働基準法」により、時間外労働の上限が設定されました。
建設業には5年間の猶予がありましたが、2024年4月からは他の業種と同様に規制が適用されます。
改正労働基準法の具体的な規制内容は以下の通りです。
- 時間外労働は「年間720時間以内」
- 時間外労働と休日労働の合計は「1か月で100時間未満」
- 時間外労働と休日労働の合計について、2か月から6か月のいずれの平均も「月80時間以内」
- 1か月の時間外労働の延長は「45時間以内」、1年間では「360時間以内」
- 月45時間を超える時間外労働ができるのは「1年間で最大6か月まで」
これらの規制を守るためにも、労務費の適切な管理が必要です。
長時間労働の改善
工事原価で労務費を正確に把握することは、コスト削減だけでなく、労働環境の改善にも役立ちます。
例えば、働き方改革関連法で是正が求められている長時間労働は、建設業界が直面する大きな課題のひとつです。
長時間労働を減らすためには、各現場で正確な労務費を算出し、作業工程に適した人員を適切に配置することが重要です。
適切な人員配置は、現場の無理や無駄を減らし、長時間労働を防止することにつながります。
また、労務費を管理して賃金体系や手当制度を整えることで、労働環境の改善が図られ、従業員の満足度も向上します。
見積りの精度向上
労務費を徹底的に管理することは、正確な見積もりを行うために非常に重要です。
見積もりの精度が低いと、実際の工事費用と大きな差が生じ、予算が合わなくなったり、利益率が低下する恐れがあります。
そのため、見積書を作成した後は何度も確認することが大切です。
過去のデータを活用して労務費をしっかり管理することで、見積書の精度をさらに向上させ、予算と実際の費用の差を最小限に抑えることが可能になります。
健全な経営体制の整備
建設業では、労務費が工事原価の大部分を占めることが多いです。
労務費をしっかりと管理し、労働条件の見直しや適切な人材配置を行うことで、労務費を削減し、費用対効果を高めることができます。
これにより、より健全な経営体制を築くことが期待されます。
まとめ
労務費は建設業における人件費で、直接工事に関わる労働者の費用と、事務など間接業務に関わる労働者の費用に分かれます。
直接工事に関連する費用が労務費であり、営業、販売、総務、人事などのスタッフ費用や人材採用の費用を含む「人件費」とは異なります。
また、労務費率は建設業の請負工事で労災保険料を計算するために使用される比率で、請負金額に対する賃金総額の割合で計算されます。
これは厚生労働省が事業ごとに詳細に定めています。
労務費の正確な計算と管理は、建設業のコスト管理と業績向上にとって不可欠です。
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