建設業法と下請法は、どちらも請負契約の適正化を目的に定められた法律です。
そのため、建設業や建築業において請負契約を結ぶ場合、どちらの法律が適用されるのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、建設業法と下請法の違いや類似点を整理します。
建設業法、下請法それぞれの概要も確認しますので、請負契約を結ぶ際は是非ご参照ください。
建設業法とは
まず、建設業法の概要を確認していきましょう。
建設業法は、次のような目的のため、1949年に制定されました。
第一条 この法律は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによつて、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。
引用元:建設業法 第一章 総則
「建設工事の請負契約の適正化等を図る」という点は、下請法の目的と共通しています。
建設業法の適用対象
では、建設業法において請負契約の適正化を図るべき「建設工事」とは、いったい何を指すのでしょうか。
建設業法では、次の29種の工事を建設工事と定めています。
これらの工事に該当しない場合、取引内容によっては下請法が適用されます。
- 土木一式工事
- 建築一式工事
- 大工工事
- 左官工事
- とび・土工・コンクリート工事
- 石工事
- 屋根工事
- 電気工事
- 管工事
- タイル・れんが・ブロック工事
- 鋼構造物工事
- 鉄筋工事
- 舗装工事
- しゅんせつ工事
- 板金工事
- ガラス工事
- 塗装工事
- 防水工事
- 内装仕上工事
- 機械器具設置工事
- 熱絶縁工事
- 電気通信工事
- 造園工事
- さく井工事
- 建具工事
- 水道施設工事
- 消防施設工事
- 清掃施設工事
- 解体工事
建設業法に関する記事はこちら
下請法とは
建設業法の定める建設工事に当たらない取引の場合、その内容によっては下請法が適用されます。
ここでは、下請法の概要をみていきましょう。
下請法の目的は次の通りです。
第一条 この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。
引用元:下請代金支払遅延等防止法 第一条
建設業に特化した建設業法と違い、下請法の対象となる取引は広範にわたります。
そのため、下請取引に該当するかどうかは、次の二点から判断できるようになっています。
- 対象となる取引
- 資本金区分
それぞれ詳しくみていきましょう。
下請法の対象となる取引
下請法の対象となる取引は、次の4つに分けられています。
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
①製造委託
製造委託とは、物品を販売・製造しいる事業者が、規格や品質、デザインなどを指定して他の事業者に物品の製造や加工を委託することです。
家屋などの建築物は、「物品」に含まれないため、下請法の対象外となります。
ただし、例えば、建設資材を販売している建設業者が、その建設資材の製造を他の事業者に委託する場合は、製造委託に該当します。
つまりこの場合、建設業者であっても下請法が適用されます。
②修理委託
修理委託とは、物品の修理を行っている事業者が、他の事業者に修理を委託することです。
また、自社で使用する物品を自社で修理している場合、その修理の一部を他の事業者に委託することも修理委託に含まれます。
③情報成果物作成委託
情報成果物作成委託とは、情報成果物を提供・作成している事業者が、その作成作業を他の事業者に委託することです。
情報成果物には、次のような作成物が含まれます。
- プログラム
- 影像、音声、音響などから構成されるもの
- 文字、図形、記号などから構成されるもの
また、建設業に関係のある情報成果物には、次のようなものがあります。
- 建築物の設計
- 内装設計
- 工事図面の作成
これらを他の事業者に委託する場合、情報成果物作成委託に該当し、下請法の適用対象となります。
④役務提供委託
役務提供委託とは、運送やビルメンテナンスなどのサービスを提供する事業者が、その役務の提供を他の事業者に委託することです。
ただし、建設工事は役務には含まれません。
下請法の対象となる資本金区分
下請法の適用範囲を判断する、もう一つの基準を確認しましょう。
下請法の対象となる取引の資本金区分は次の通りです。
A | 自社の資本金が3億1円以上で、資本金3億円以下の事業者に上記①~④の取引内容を外注している。 |
---|---|
B | 自社の資本金が1千万1円以上、3億円以下で、資本金1千万円以下の事業者に上記①~④の取引内容を外注している。 |
C | 自社の資本金が5千万1円以上で、資本金5千万円以下の事業者に上記③または④の取引内容を外注している。 |
D | 自社の資本金が1千万1円以上~5千万円以下で、資本金1千万円以下の事業者に上記③または④の取引内容を外注している。 |
CとDにおける③は、プログラム以外の情報成果物の作成を指します。
同じく、CとDにおける④は、運動・物品の倉庫保管・情報処理以外の役務の提供を指します。
請負契約に関する記事はこちら
建設業法と下請法の違い
建設業法、下請業法それぞれの概要を確認しました。
ここでは、両法の内容の違いを見ていきましょう。
契約内容に関する書面交付について
建設業法、下請法どちらにおいても、契約内容に関する書面の交付が義務付けられています。
建設業法では第19条「建設工事の請負契約の内容」、下請法では第3条「書面の交付等」に明記されています。
ただし、書面の記載項目と書面の交付者が異なります。
建設業法
記載項目 | ① 工事内容 ② 請負代金の額 ③ 工事着手の時期及び工事完成の時期 ④ 工事を施工しない日や時間帯の定めをする場合は、その内容 ⑤ 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをする場合は、その支払の時期と方法 ⑥ 当事者の一方から設計変更や工事着手の延期、もしくは工事の全部か一部の中止の申出があった場合の工期の変更、請負代金の額の変更や損害の負担とそれらの額の算定方法に関する定め ⑦ 天災などの不可抗力による工期の変更や損害の負担とその額の算定方法に関する定め ⑧ 価格等の変動や変更による請負代金の額又は工事内容の変更 ⑨ 工事の施工により第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担に関する定め ⑩ 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与する場合は、その内容と方法に関する定め ⑪ 注文者が工事の全部や一部の完成を確認するための検査の時期と方法、並びに引渡しの時期 ⑫ 工事完成後の請負代金の支払い時期と方法 ⑬ 工事の目的物が契約の内容に不適合な場合の責任や、当該責任の履行に関する保証保険契約の締結などに関する定めをする場合は、その内容 ⑭ 各当事者の履行の遅滞や債務の不履行の場合における遅延利息、違約金、その他の損害金 ⑮ 契約に関する紛争の解決方法 ⑯ その他国土交通省令で定める事項 |
---|---|
交付者 | 建設工事の請負契約の当事者双方 |
下請法
記載項目 | ① 下請事業者の給付の内容 ② 下請代金の額 ③ 支払期日 ④ 支払方法 ⑤ その他の事項 |
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交付者 | 親事業者 |
受領について
受領に関する義務も、両法で定められています。
建設業法では第24条の4「検査及び引渡し」、下請法では第4条「親事業者の遵守事項」第1項に明記されています。
建設業法
元請負人は、建設工事完成の通知を受けた日から20日以内に、その工事の完成を確認するための検査を行うことが義務付けられています。
また、検査完了後は、目的物を受領しなければなりません。
下請法
親事業者は、下請事業者に非がないにもかかわらず受領を拒むことはできません。
検査については特に記載されていません。
支払期日について
次に、下請代金の支払期日に関する内容を確認しましょう。
建築業法では第24条の3「下請代金の支払」、下請法では第2条の2「下請代金の支払期日」に明記されています。
建設業法
元請負人は、請負代金の支払いを受けた日から1ヶ月以内に、その建設工事を施工した下請負人に下請代金を支払う必要があります。
このとき、下請代金うち労務費に当たる部分は、現金で支払う配慮をするよう記載されています。
また、特定建設業者が注文者となった場合の支払期日については、第24条の6「特定建設業者の下請代金の支払期日等」に明記されています。
下請法
下請法では、支払期日を定めることが義務化されています。
支払期日は、親事業者が下請事業者から完成品を受領した日から60日以内に定めなければなりません。
支払期限が定められなかった場合は、親事業者が下請事業者の給付を受領した日が期日となります。
また、60日以内という規定に違反して期日が設定された場合、受領日から60日が経過した日の前日が支払期日とみなされます。
さらに、第4条「親事業者の遵守事項」第2項においては、親事業者は期日内に下請代金を支払うよう定められています。
買いたたきについて
通常支払われるべき対価に対し、著しく低い額を下請代金として設定することを「買いたたき」といいます。
建築業法では第19条の3「不当に低い請負代金の禁止」、下請法では第4条「親事業者の遵守事項」第5項に明記されています。
建設業法
元請負人は、発注する工事に通常必要だと考えられる原価より低い金額を、請負代金の額と設定することはできません。
また、元請負人が取引上の自己の立場を利用することも禁じられています。
下請法
下請事業者の給付と同様のものに対して通常支払われる対価に比べ、著しく低い額を下請代金として設定することはできません。
正当な理由のない購入・利用強制の禁止
元請負人が下請負人に対し、特定の商品やサービスの購入・利用を強要することについても、両法で禁じられています。
建築業法では第19条の4「不当な使用資材等の購入強制の禁止」、下請法では第4条「親事業者の遵守事項」第6項に明記されています。
建設業法
元請負人は、請負契約を締結した後で、発注した工事に使用する資材や機械器具の購入先を指定したり、請負人に購入させたりしてはいけません。
下請法
親業者は下請事業者に対し、正当な理由なく指定の物を購入させたり、役務を利用させたりしてはいけません。
建設業法では「請負契約締結後」とタイミングが設定されていますが、下請法では特に言及されていません。
そのため、指定の物や役務を強制的に購入・利用させることは、契約締結の前後を問わず禁止です。
事後的な下請代金の減額について
工事の請負契約では、工事に関する諸費用を下請代金から差引く処理をすることがあります。
この事後的な減額について、両法の規定を確認していきましょう。
建設業法
建設業法には、事後的な下請代金の減額に関する直接的な規定はありません。
ただし、第19条「契約内容の書面化」や、第19条の3「不当に低い請負代金の禁止」に抵触する恐れがあります。
下請法
下請業法では、第4条「親事業者の遵守事項」第3項に明記されています。
親事業者は、理由なく下請代金を減額することはできません。
建設業に関連する法律に関する記事はこちら
まとめ
建設業法、下請業法の概要を確認しました。
建設工事の請負契約には、下請業法ではなく、建設業法が適用されます。
ただし、建設資材の製造委託や工事図面の作成委託などは、下請法の適用範囲に入ります。
つまり、建設業の事業者であっても、取引内容によっては下請法が適用されます。
建設業法が適用されるのか、下請法が適用されるのか、取引内容をしっかりと確認し、両法の規定を遵守するようにしましょう。
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