デジタル技術の進化があらゆる産業を変革している中、建設業界においても「建設DX(デジタルトランスフォーメーション)」が急速に広がりを見せています。
従来の労働集約的な現場作業に、先進技術を組み合わせることで、生産性や安全性の向上を図り、コスト削減や工期短縮を実現している企業が増加しています。
本記事では、日本企業の成功事例を13つ紹介し、建設DXの導入がもたらすメリットと課題について深掘りします。
建設DXとは?
建設DXとは、建設プロジェクトにおけるデジタル技術の導入を通じて、業務の効率化とプロセスの最適化を図る取り組みを指します。
これにより、これまで依存していた経験や勘に頼ることなく、正確なデータに基づいて意思決定を行うことが可能になります。
建設DXに用いられる技術
建設業のDXに用いられるデジタル技術を3つ紹介します。
- BIM(Building Information Modeling): 建物の設計から施工、維持管理までを3Dモデルで一元管理する技術。設計段階での変更が現場にリアルタイムで反映されるため、無駄な手戻り作業を削減できる。
- IoT(モノのインターネット): 現場の作業員や重機、資材などの位置や稼働状況をリアルタイムで把握することで、効率的な作業管理を実現。
- AI(人工知能): 施工スケジュールの最適化や建物のメンテナンス予測に活用され、効率的なプロジェクト進行が可能となる。
建設DXの背景
建設業界は、長らく労働集約的な構造に依存してきましたが、慢性的な人材不足や生産性の停滞、安全面での課題などが浮き彫りになりつつあります。
こうした背景から、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)などを導入することで、プロジェクトの効率化を図る動きが加速しています。
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建設DXが進まない理由
建設DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない理由は、業界特有の課題や環境によるものが要因としてあげられます。
以下で詳しく見ていきましょう。
保守的な業界文化
建設業界は伝統的な慣習に依存しており、新しい技術への適応が遅れがちです。
現場では経験則に基づく手法が長年にわたって成功を収めてきたため、デジタル化に対する抵抗感が強い傾向があります。
特に、管理職層やベテランの技術者が新しいツールやシステムに対して消極的な場合、改革が進みにくいです。
この文化的な壁を越えるためには、デジタル技術の重要性を理解し、少しずつ実績を積み上げることが重要です。
高い初期投資コスト
DXを実現するためには、ハードウェアやソフトウェア、トレーニングなど、多大な初期投資が必要です。
特に中小規模の建設会社では、このコストが大きな負担となり、導入をためらう原因となります。
資金調達の難しさやリソースの不足が、DX推進の障害となることが多く、特に経営層がROI(投資対効果)を即座に見込むことができない場合、導入に消極的になります。
現場のデジタル化対応の難しさ
建設現場はその性質上、状況や場所が異なるため、デジタル化の適用が一律に進みにくいです。
作業員のスキルレベルにばらつきがあり、デジタルツールの操作に習熟するまで時間がかかります。
また、現場の環境が過酷であるため、機器の運用が難しく、最新技術が現場に適用できないこともあります。現場ごとの対応方法を検討し、柔軟な導入戦略が求められます。
データの統一性と共有の難しさ
建設業界では、複数のサプライヤーや業者が関わり、異なるシステムやツールを使用しています。
これにより、データの互換性や標準化の問題が発生し、デジタルツールを活用するための足かせとなります。
例えば、BIM(Building Information Modeling)などのデータを共有し、統一するには、多くの関係者が同じプラットフォームを使用する必要があります。
この統一が取れないと、データが分断され、効率的な情報共有ができなくなります。
人材不足とスキルギャップ
建設業界では、デジタル技術を活用できる人材が圧倒的に不足しています。
特に現場作業員や中堅社員は、新しい技術に触れる機会が少なく、デジタルスキルが限られています。
また、企業の経営層もその重要性を認識していない場合が多く、教育・研修の機会も十分に提供されていません。
このスキルギャップを解消するためには、デジタル教育の強化と、適切な人材の採用・育成が不可欠です。
建設DXのメリット
建設DXに取り組むメリットは主に3つあります。
- 生産性向上
- コスト削減
- 安全性の向上
以下で詳しく説明していきます。
生産性向上
建設DXの導入により、現場の進捗状況や作業効率をリアルタイムで把握できるようになりました。
これにより、計画の遅延や無駄な作業を削減し、プロジェクト全体の生産性を大幅に向上させることが可能です。
コスト削減
IoTやAI技術を活用した資材管理や予測メンテナンスの導入により、無駄な資材の浪費や余計なメンテナンスコストを削減できます。
BIMを活用することで、設計段階でのミスが減り、手戻り工事の回避が実現しています。
安全性の向上
リアルタイムデータに基づいた危険予知や作業員の動態管理が可能になり、現場の安全性が飛躍的に向上しました。
特に、危険エリアへの立ち入りを防ぐIoTセンサーや、AIによるリスク予測が有効に働いています。
建設DXの成功事例10選
ここからは、建設DXの成功事例を10社紹介していきます。
ぜひ、参考にしてください。
鹿島建設のIoT活用による現場効率化
鹿島建設は、建設現場での生産性向上と安全管理を目的に、IoT技術を積極的に導入しています。
特に、作業員の動態管理や機械の稼働状況をリアルタイムで把握するシステムを開発し、これにより現場での作業効率が大幅に向上しました。
たとえば、現場に設置されたIoTセンサーが作業員の位置情報を取得し、危険箇所に近づいた際にアラートを発することで、安全性が確保されます。
さらに、現場で収集されたデータをクラウド上に蓄積し、それをもとにリアルタイムで進捗状況をモニタリングすることで、プロジェクト全体の可視化が実現しました。
これにより、作業のボトルネックが迅速に特定され、全体の生産性が向上しました
大林組のBIMを活用した施工管理
大林組は、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を中核に据えたDX戦略を展開しています。
BIMは、設計から施工、維持管理までのプロセスを3Dモデルで一元管理する技術です。
これにより、プロジェクト全体で共有される情報の精度が向上し、コミュニケーションが円滑に進むようになりました。
具体的には、大林組はBIMを使って現場での施工管理を最適化するだけでなく、設計段階からの変更点をリアルタイムで現場に反映することで、無駄な手戻り作業を削減しています。
また、BIMと連携したIoTセンサーが機械の稼働状況や建設材料の消費量をモニタリングし、資材の無駄使いを防ぎます。
大林組は、施工現場における効率性の向上だけでなく、建物の長期的な維持管理にもBIMの活用を広げ、ライフサイクル全体でのコスト削減を目指しています。
清水建設のAI活用によるメンテナンス予測
清水建設は、AIを活用して建物の維持管理の最適化に取り組んでいます。
同社が開発したシステムでは、建物のセンサーから集められたデータを基にAIが解析し、メンテナンスのタイミングを予測します。
これにより、従来の定期点検に比べ、必要な時に最適なタイミングでのメンテナンスが可能となり、余分なコストを削減することができました。
さらに、清水建設は「デジタルツイン」技術も導入し、建設現場のリアルタイムデータを基に仮想空間でのシミュレーションを実施しています。
これにより、リスクの高い作業や天候の影響を考慮した計画が立てられ、現場での安全性が高まっています。
大成建設のIoT活用による機械管理
大成建設は、建設機械にIoTセンサーを取り付け、稼働状況や機械の状態をリアルタイムで監視するシステムを導入しています。
このシステムにより、機械の故障予知やメンテナンスの最適化が実現しました。
また、無駄なコストを削減し、機械の稼働率を向上させるとともに、現場での作業の効率化にもつながっています。
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三井住友建設のVR活用による設計確認
三井住友建設は、VR(仮想現実)技術を使用して、設計段階での建物の視覚的確認を行っています。
設計図をVRで立体的に再現することで、クライアントや現場監督が実際に現場に立っているかのように確認することができます。
これにより、設計ミスや認識の食い違いを事前に防ぐことができ、より精度の高い設計が実現しています。
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竹中工務店のクラウド管理システムの活用
竹中工務店は、クラウドベースの工事管理システムを導入し、現場の進捗状況や材料の在庫、作業員の配置などを一元管理しています。
これにより、各部署間の情報共有がスムーズになり、作業効率が大幅に向上しました。
さらに、現場監督がリアルタイムでデータにアクセスできるため、迅速な意思決定が可能になり、プロジェクトのスムーズな進行が支援されています。
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プレハブ建設の自動化施工技術の活用
プレハブ建設は、ロボットや自動化された建設機械を活用して、施工現場の作業を自動化しています。
特に、鉄筋の組立やブロック積みの作業をロボットに任せることで、作業員の負担を軽減し、施工速度を向上させました。
また、自動化により、品質の均一化が図られ、作業の安全性も向上しています。
住友林業の木材加工のデジタル化
住友林業は、木材加工におけるデジタル技術を活用し、施工現場での効率化を進めています。
特に、デジタル技術による精密な木材の加工と、AIを活用した資材の最適化により、現場での無駄を削減した上で、自動化された木材加工ラインを導入し、精度を高めるとともに、施工時間の短縮を実現しています。
この取り組みによって、環境への配慮とコスト削減を両立させています。
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東京建物のAIによる安全管理システムの活用
東京建物は、AIを活用した現場安全管理システムを導入しています。
AIが作業員の動きや周囲の状況をリアルタイムで監視し、危険を予測して警告を出すシステムです。
これにより、事故や安全問題のリスクを大幅に減少させることができました。
AIの監視により、作業環境が改善され、従業員の安全意識も向上しています。安全性を強化し、労働災害の発生率を低下させています。
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JFE建設のデジタルツインによる施設管理
JFE建設は、デジタルツイン技術を活用して、建物や施設の運用管理を行っています。
デジタルツインは、物理的な建物の3Dモデルをリアルタイムで更新し、施設の状態を監視することができます。
これにより、設備の故障予兆や劣化部分を事前に検出し、効率的なメンテナンスが可能になりました。
施設管理の最適化を進めるとともに、エネルギー管理やコスト削減にもつながっています。
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中小企業における建設DXの成功事例3選
これまで、建設DXの事例をご紹介しました。
この章では更に中小企業における建設DXの事例を3つご紹介します。
株式会社岡田建設のドローンを用いた現場管理
岡田建設は、愛知県に本社を構える中小建設会社で、ドローンを使った現場管理を導入しています。
ドローンを活用することで、現場の空撮データを集め、進捗状況や現場の安全管理を効率化しています。
特に、現場の広さや複雑さにより人手での確認が難しい場所をドローンでスキャンし、データを即座にリアルタイムで解析しています。
岡田建設の強みに関するページはこちら
田中建設のドローンによる現場監視
田中建設は、ドローンを活用して建設現場の進捗状況を空撮し、遠隔で監視しています。
ドローンによって、現場の状況を短時間で把握でき、従来の人力による巡回が不要になりました。
これにより、現場監督は現場を訪れる回数を減らし、作業効率を向上させるとともに、現場の安全性を強化。
特にコストを抑えながらも、先進的な技術を導入することで競争力を高めています。
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株式会社白石建設(BIMを活用した設計から施工管理のデジタル化)
白石建設(宮城県)は、BIM(Building Information Modeling)を導入し、設計から施工管理までのプロセスをデジタル化しました。
BIMを使って建物の3Dモデルを作成し、設計ミスを減らすとともに、施工現場での問題を事前に発見しやすくなりました。
これにより、現場での作業効率が向上し、納期短縮にもつながりました。
株式会社白石建設のDXの取り組みに関するページはこちら
建設DXの課題
ここまで、DXの成功事例を紹介してきましたが、コストや技術のハードル、セキュリティなど課題も存在しています。
これらの課題とどう向き合うべきか考えていきましょう。
導入コスト
最初のハードウェアやソフトウェアの導入コストが高いことがDXの大きな課題の一つです。
特に、中小企業にとっては多額の投資が負担となることがあります。
この問題を解決するために、クラウド技術を活用し、初期コストを抑えたスケーラブルなシステムが求められています。
技術の習得
新しい技術の導入には、現場の作業員や管理者がその技術を習得する必要があります。
しかし、従来のやり方に慣れた人材にとっては、ICT技術の使用に対する抵抗感がある場合があります。
これに対しては、教育プログラムや研修を通じてスムーズな移行をサポートすることが重要です。
データのセキュリティ
建設現場で集められるデータは膨大であり、それを適切に管理しなければなりません。
特に、クラウド技術を活用する場合、サイバーセキュリティのリスクが増すため堅牢なセキュリティ対策が必要です。
まとめ
建設DXは、単なる一時的なトレンドではなく、今後の建設業界を支える重要な要素となるでしょう。
IoT、BIM、AI、デジタルツインなどの技術は、建設プロジェクトの効率を劇的に向上させるだけでなく、コスト削減や安全性の向上にも貢献します。
企業がこれらの技術をうまく活用し、さらに発展させることで、持続可能な建設業界が実現されることでしょう。
建築業向けの管理システム「アイピア」
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