建築業においては、工事を行う際に作業にかかわる作業員の情報を記載する、作業員名簿の作成が求められます。
作業員の安全を守るためにも作業員名簿は重要な書類です。
ここでは作業員名簿の意義や目的、書き方や注意点を徹底解説します。
作業員名簿とは
作業員名簿とは、建築業の工事で求められる安全書類のうち、労務安全のための書類の一つとして位置付けられたものです。
名簿には、工事に携わるすべての作業員について記載しなくてはなりません。
作業員名簿の目的
作業員名簿の作成は、基本的に作業員を雇用する企業が行います。
元請業者がいる場合、各社が作成したものを提出しまとめるのが一般的です。
企業によっては、元請会社が下請企業の同意を得て、すべての作業員の名簿を作成するケースもあります。
作業員名簿の目的は、大きく分けて3つあります。それぞれ詳しく解説します。
作業員名簿の3つの目的
- 安全対策と社会保障の促進を図ること
- 医療機関や家族への連絡手段として使用すること
- 社会保障制度や健康診断の実施を促すこと
安全対策と社会保障の促進を図ること
1つ目の目的は、安全対策と社会保障の促進を図ることです。
建設現場では様々なリスクが存在し、安全対策を行っていても事故の発生は避けられない場合があります。
こうした事態に備え、作業員名簿には従事する全ての作業員に関する詳細な情報を正確に記載する必要があります。
事故が発生した場合、誰が現場にいたかを明確にし、素早く効果的な対応が可能になります。
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医療機関や家族への連絡手段として使用すること
2つ目の目的は、医療機関や家族への緊急連絡手段です。
作業員名簿には、電話番号や血液型などセンシティブな情報が掲載されています。
もし事故が発生した場合、家族や医療機関への迅速な通知とともに、適切な医療対応を行うための正確な健康情報を提供する役割を果たします。
社会保障制度や健康診断の実施を促すこと
3つ目の目的は、社会保障制度や健康診断の実施を促すことです。
作業員名簿には、社会保障の加入状況や最近の健康診断結果、資格や免許の情報が含まれています。
これにより、従業員の健康と社会保障に関する情報を正確に管理し、必要な対応を取ることができます。
同時に、資格や免許の取得をサポートし、促進することも目的としています。
作業員名簿の作成は義務か?
作業員名簿の作成は、令和2年10月1日に改正建設業法が施行され、実質的に義務化されました。
この法改正により、安全管理や事故時の迅速な対応が求められ、作業員名簿はその重要な一環とされています。
作業員名簿は、万が一の事故やトラブルが発生した際に、迅速かつ的確な対処が可能となり、作業員の生命を救済する役割を果たします。
法的な要件を満たすだけでなく、安全確保やリスク管理の観点からも重要な文書であるため、必ず作成・更新を徹底しましょう。
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記入例を用いた作業員名簿の書き方
多くの企業が、一般社団法人全国建設業協会が作成し市販している「全建統一様式第5号」を用いて名簿を作成しています。
ここでは、記入例をもとに項目や書き方などについてご紹介していきます。
作業員名簿の参考サイト
作業員名簿【欄外の項目】の書き方
欄外には、以下のように事務所の名称、所長名などを記載します。
欄外の書き方1:【事業所の名称】
工事を行う場所または工事名称を記入しましょう。
たとえば、「〇〇作業所、××新築工事、××改修工事」などです。
欄外の書き方2:【現場ID】
現場IDとは、建設キャリアアップシステムへ登録した際に、現場情報に採番される14桁のIDです。
元請業者が建設キャリアアップシステムへの登録を行っている場合、現場IDを記入してください。
登録していない場合は、記載はいりません。
欄外の書き方3:【所長名】
元請業者の現場管理者名を記入します。
自社の代表者などではないので注意しましょう。
欄外の書き方4:【作成日】
作業員名簿の作成日を記入します。
欄外の書き方5:【一次会社名】
作業員名簿を作成する一次請けの会社名を記載してください。
欄外の書き方6:【事業者ID】
建設キャリアアップシステムに登録済みの一次請け会社は、事業者IDを記入してください。
未登録の場合は記載不要です。
欄外の書き方7:【提出日】
提出日が確定している場合にはその日付を記入します。
確定していない場合は、実際に提出する際に忘れないように追記しましょう。
作業員名簿【欄内の項目】の書き方
欄内には、氏名や生年月日などの基本的な情報から、最新の健康診断日まで詳しく記述する必要があります。
欄内の書き方1:【現場ID】
現場IDとは、建設キャリアアップシステムへ登録した際に、現場情報に採番される14桁のIDです。
元請業者が建設キャリアアップシステムへの登録を行っている場合、現場IDを記入してください。
登録していない場合は、記載はいりません。
欄内の書き方2:【ふりがな・氏名】
身分証明書と合致するよう、正確に記載してください。
作業員が建設キャリアアップシステムに登録している場合は、技能者IDも記入しましょう。
技能者登録を行う際に発行される技能者カードに記載されている14桁の番号が技能者IDです。
登録していない場合は、記載はいりません。
欄内の書き方3:【職種】
どのような役割かが分かるように、とび工・重機オペレーター・塗装工などと記入します。
欄内の書き方4:【雇入年月日】
企業がその作業員を雇用した年月日を記入します。
欄内の書き方5:【経験年数】
雇入後の勤続年数ではなく、担当する職種や作業の経験年数を記載してください。
職務経歴書や本人へのヒアリングを通じて、経験年数を確認しておきましょう。
欄内の書き方6:【生年月日】
生年月日も間違えずに、正しい情報を記載します。
欄内の書き方7:【年齢】
生年月日から作成日時点での年齢を記載します。なお、18歳未満の場合、元請業者に年齢証明書として、「住民票記載事項証明書」などを提示しなくてはなりません。
欄内の書き方8:【現住所】
現住所も間違いなく記入しましょう。
欄内の書き方9:【家族連絡先と電話番号】
万が一の事故などが発生した際の緊急連絡先になります。
作業員に確認のうえ、家族や親族の名前と連絡の取りやすい電話番号を記載してください。
欄内の書き方10:【最近の健康診断日】
労働安全衛生法により、雇用時および年1回の健康診断を行わなくてはなりません。
そのため、最新の健康診断の実施日を記載することが求められます。
健康診断日を記載させることで、企業に対して義務の履行を促していると言えます。
欄内の書き方11:【血圧】
最低血圧と最高血圧を記入します。
欄内の書き方12:【血液型】
血液型を正しく記載しましょう。
ケガなどをして輸血が必要になった時など、重要な情報になりますので間違えないようにします。
欄内の書き方13:【現特殊健康診断日と種類】
有害業務の従事者の場合、半年に1回のペースで特殊健康診断を受けることが義務付けられています。
該当しない場合は空欄でかまいませんが、有害業務に従事する作業員の場合は記載が必要です。
たとえば、じん肺や有機溶剤、高気圧業務や石綿、鉛などです。
欄内の書き方14:【建設業/中小企業退職金共済制度】
加入しているほうに◯をしてください。
加入していない場合には空欄で問題ありません。
欄内の書き方15:【雇入・職長・特別教育】
雇入時教育はすべての作業員に対して行う必要があるので、記載は必須です。
職長教育を受けた作業員は、その内容を記載します。
特別教育は、フォークリフトなどの特別教育を受けた場合に記載してください。
欄内の書き方16:【技能講習】
都道府県ごとの労働局に登録されている教育機関で技能講習を受けた場合は、記載してください。
受講していない場合は「なし」でかまいません。
欄内の書き方17:【免許】
工事に関連する資格、たとえば、電気工事士などの免許を有している場合に記載します。
欄内の書き方18:【入場年月日】
新規入場者教育を行った年月日を記載してください。
欄内の書き方19:【受入教育実施年月日】
基本的に、入場年月日と同じ日付になります。
欄内の書き方20:【退職金共済手帳の所有の有無】
建退共手帳を所有の方は「建」、中退共済手帳を所有の方は「中」、その他の手帳所有の場合は「他」を選んでください。
手帳を所有していない場合、「無」を選びます。
作業員名簿作成の際の注意点
作業員名簿を作成する際、提出する際の注意点についてご紹介します。
注意点①:年齢について
18歳未満の場合、元請業者に年齢証明書として、住民票記載事項証明書などを提示しなくてはなりません。
労働基準法により、18歳未満の時間外労働や、重量物の取扱い業務・足場の組立等の業務などの危険有害業務への就労が禁止されているため、担当させる職種には注意が必要です。
中学校を卒業していない15歳(満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの児童)は土木工事や建築関連事業に従事できないので気を付けましょう。
年少者使用の際の留意点
注意点②:証明書類の添付
作業員名簿に資格や免許を掲載する場合、それを証明するための書類が必要です。
作業員名簿の提出時には、免許証や資格認定書のコピーを添付してください。
また、18歳未満の者を作業員として記載した場合は、年齢を証明するために住民票記載事項証明書などの所定の年齢証明書が必要です。
社会保険などの保険加入状況を別紙で提出する場合は、忘れずに添付しましょう。
注意点③:記入できない項目がある場合
不明な項目がある場合は、まずは該当箇所を空欄にしておきましょう。
ただし、このように空欄でも問題ない項目もありますが、最新の正確な情報や有無がわからない場合は調査が必要になります。
各作業員の人材名簿や履歴書の確認を行い、必要に応じて直接本人にヒアリングするなどして、正確な情報を記入しましょう。
また、住所や緊急連絡先、血圧、保有資格などは途中で変わることもありますよね。
引っ越した場合や緊急連絡先を変更したい時、資格を取得したなどの時は、速やかに報告するように伝えておきましょう。
報告漏れがないように、各現場に入る際の作業員名簿の作成前に、作業員に情報の更新などがないか通知し届け出てもらうことも必要です。
まとめ
今回の記事では、作業員名簿の目的や書き方について詳しく解説してきました。
作業員名簿の目的は、万が一の場合の家族などへの連絡や適切な医療が受けられるよう情報を伝達することです。
法令上、就業制限のある年齢の者を法令違反で働かせないよう管理する目的など様々な役割を果たしています。
作成の際の注意点として、免許や資格、年齢などの証明書類の添付を忘れないようにしましょう。
記入できない項目がある場合には、後から適切に調査して、なるべく漏れがないように記載することが大切です。
作業員との情報連携のもと、最新の適切な情報を記入、更新するようにしましょう。
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