請負契約をする際に契約書に加えて工事請負契約約款を添付することでトラブルを防ぐことができます。
一般的に国土交通省によって作成された標準約款を使うことが多いですが、実は落とし穴が存在します。
本記事では工事請負契約約款の概要と注意点について紹介していきます。
目次
工事請負契約約款とは
工事請負契約約款とは工事請負契約書では示しきれていない、より詳細な条項が書かれた取り決めのことです。
契約者間で合意があって工事請負契約書で契約が成立しますが、その合意内容に不備や不明な点があった場合に解釈の違いからトラブルに発展する可能性があります。
また、注文者と請負者の間で請負者が弱い立場になりやすく、注文者に有利な契約である「片務契約」が結ばれることがあります。
これらのトラブルを防ぐために工事請負契約書とは別に工事請負契約約款を作成し、権利義務をより詳細に取り決めています。
中央建設業審議会(中建審)とは
建設業に関し中立的で公正な審議会である中央建設審議会によって当事者間の公平で具体的な工事請負契約約款を作成し、実施を勧告しています。
「建設業法」と「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」などに基づいて以下の事項について審議を行います。
- (1)経営事項審査の項目と基準について(建設業法第27条の23第3項)
* 公共工事を受注しようとする建設業者の経営の規模と経営状況を審査する経営事項審査において、その項目と基準の制定において意見を述べること。 - 建設工事の標準請負契約約款について(建設業法第34条第2項)
(2)* 公正な立場から、請負契約の当事者間の具体的な権利義務関係の内容を律するものとして標準請負契約約款を決定し、当事者にその採用を勧告すること。 - (3)工期に関する基準について(建設業法第34条第2項)
* 著しく短い工期による請負契約の締結を禁止するため、工期に関する基準を作成し、請負契約の当事者に勧告する。 - (4)公共工事の入札・契約に関する「適正化指針」について(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律第17条第5項)
中央建設業審議会は、建設工事の標準請負契約約款、入札の参加者の資格に関する基準、予定価格を構成する材料費及び役務費以外の諸経費に関する基準並びに建設工事の工期に関する基準を作成し、並びにその実施を勧告することができる。
工事請負契約書のクーリングオフに関する記事はこちら
工事請負契約約款の種類
公共工事標準請負契約約款 (公共工事用)
国の機関、地方公共団体、政府関係機関が発注する工事の請負契約を対象とします。民間企業が発注する電力、ガス、鉄道などの工事も含みます。
民間建設工事標準請負契約約款(甲) (民間工事用)
民間の比較的大きな規模の工事を発注する者と建設業者との請負契約を対象とします。
民間建設工事標準請負契約約款(乙) (民間工事用)
個人住宅などの民間の比較的小さな規模の工事を発注する者と建設業者との請負契約を対象とします。
建設工事標準下請契約約款 (下請工事用)
公共工事や民間工事に関係なく、建設工事の下請契約全般を対象とします。
その他の工事請負契約約款
民間(七会)連合協定工事請負契約約款
住宅金融公庫融資住宅工事請負契約約款
日弁連住宅建築工事請負契約約款
工事請負契約書の電子化に関する記事はこちら
建設工事の請負契約の必要書類
建設工事の契約を口頭で行うとトラブルにつながりかねません。
そのため建設業法第19条では「建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。」と定められており、書面での契約書を作成する必要があります。
工事請負契約では契約書に加えて設計図面、見積書、工事請負契約約款を添付することで詳細な条項を定め、認識の違いによるトラブルを防ぎます。
工事請負契約書の作成方法に関する記事はこちら
工事請負契約書で義務付けられている16項目
建設業法第19条で16項目の記載が義務付けられています。
2020年10月の建設業法改正によって「工期を施工しない日・時間帯」、「その他国土交通省令で定める事項」の項目の記載義務が加わりました。
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期及び工事完成の時期
- 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
- 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
- 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
- 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
- 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
- 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
- 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
- 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
- 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
- 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
- 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
- その他国土交通省令で定める事項
工事請負契約書のテンプレートはこちら
工事請負契約約款の注意点
国土交通省やほかの団体から標準約款や雛形が提供されていますが、きちんと確認せずにこれらのひな型を使用すると不利益な契約を結んでしまう可能性があります。
あくまで汎用的なものであるため、必要な項目が満たされていない場合には自社で作成することをお勧めします。
特定の工事に向いているわけではない
公共工事用、民間工事用、下請工事用の標準約款を国土交通省のホームページからダウンロードすることができます。
しかし民間工事と言ってもリフォーム工事と新築工事では記載すべき内容は異なってきます。また、下請け業者なのか元請け業者なのかによっても違います。
標準約款ではこれらの工事の種類による違いが考慮されていないことがあるため、不利益を被らないように自社で作成する必要があります。
標準約款は施主側に有利にできている
国土交通省があげている標準約款は工事業者ではなく施主側に有利に作られています。
建設業者が標準約款を使用するうえで注意しなければならない項目として違約金、工期の延長、近隣住人のクレーム対応などがよく上げられます。
以下で詳しく説明します。
CASE01
違約金
工事が遅延した場合に違約金が発生します。標準約款では14.6%の違約金が建設業者に対して課すことができるようになっています。
様々な原因で工事の遅延は起こってしまうと考えられるため、この数字で適しているか見直す必要があります。
CASE02
工期の延長
工期の延長についても決まりを作っておくようにしましょう。たとえ天候などの避けられない原因であったとしても違約金が発生してしまうことがあります。
標準約款第21条で「不可抗力によるとき又は正当な理由があるとき」に工期の延長を求めることができるとされています。
しかし「天候不順」や「施主側の決定の遅れ」など具体的に何が不可抗力による理由なのかは提示されていないため、請負業者側にはどうすることもできない場合であっても違約金が発生してしまうかもしれません。
また、「受注者及び発注者が協議して定める」とあるように、工期の延長は発注者の承諾が必要となります。
「不可抗力による理由」の具体的な条件と、「発注者の承諾なしで工期を延長することができる理由」を定めておくといいでしょう。
標準約款第21条
不可抗力によるとき又は正当な理由があるときは、受注者は、速やかにその事由を 示して、発注者に工期の延長を求めることができる。この場合において、工期の延長日数は、 受注者及び発注者が協議して定める。
CASE03
追加工事代金・支払義務
標準約款第20条第2項に追加工事代金が発生した時であっても「発注者と受注者とが協議して決める」とされています。
発注者が承諾をしなければ追加工事代は請求できないということです。「追加工事代金が発生した時の支払い義務」と「追加工事代金を請求する条件」に付いて言及しておく必要があります。
いざトラブルが発生してしまってからでは双方の意見を取り入れることは困難になってしまうため、あらかじめ予測されるトラブルについては備えておきましょう。
標準約款第20条2項
1 発注者は、必要によって工事を追加し、若しくは変更し、又は工事を一時中止することができる。
2 前項の場合において、請負代金額又は工期を変更する必要があるときは、発注者と受注者とが協議して定める。
CASE04
近隣のクレーム対応
近隣からのクレームが来た時であっても標準約款12条では請負業者が処理解決に当たらなければならず、また「費用は受注者の負担とし、工期は延長しない」とされています。
請負業者に非がない場合の近隣からのクレームによる追加費用は発注者に請求できるように定めておくといいでしょう。また、やむを得ず工事を止めなければならない場合には工期の延長ができるようにも定めておきましょう。
標準約款第12条
1 施工のため、第三者の生命、身体に危害を及ぼし、財産などに損害を与えたとき又は 第三者との間に紛争を生じたときは、受注者はその処理解決に当たる。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によるときは、この限りでない。
2 前項に要した費用は受注者の負担とし、工期は延長しない。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によって生じたときは、その費用は発注者の負担とし、必要があると認めるときは、受注者は工期の延長を求めることができる。
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まとめ
工事請負契約約款の説明と注意点について紹介してきました。標準約款では言及されていない項目が存在するため、場合によっては請負業者側が不利益を被る可能性があります。
事前に対策をしておけば防ぐことができるトラブルがほとんどです。
自社にあった工事請負契約約款を作成しトラブルを防ぎましょう。
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