「契約後に資材の値段が急激に上がり、工事が終わる頃には利益が吹き飛び赤字になってしまった…」
近年の建設業界では、鋼材や生コンクリートなどの建設資材の高騰、円安、そして深刻な人手不足による労務費の上昇が続いており、見積・契約時の金額のままでは利益を出すことが非常に困難な市況となっています。
このような「工期中の予期せぬ物価・賃金の変動リスク」に対して、適切な価格転嫁を行うための重要なルールが「スライド条項」です。特に自社でコスト上昇分を吸収しきれない下請企業にとっては、急なコスト増リスクを抑え、連鎖倒産を防ぐための生命線となる重要な制度です。
本記事では、スライド条項の本来の目的から、3つの種類(全体・単品・インフレ)の違いや適用条件、さらに「実際に申請・適用するまでの具体的な流れ」をわかりやすく解説します。
また、実務で陥りがちな「民間工事での適用の壁」や「活用できていない企業のリアルな課題」、そして、スライド条項を机上の空論で終わらせないために不可欠な「原価管理体制の作り方」までをシステムベンダーの視点から徹底解説します。
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スライド条項とは?(本来の目的と歴史)
スライド条項とは、工事の請負契約を締結した後、工期中に賃金水準や物価(建設資材の価格)が予期せず大きく変動した場合に、発注者と受注者が協議の上で請負代金額(契約金額)を変更できるルールのことです。
実務においては、単に資材が上がったから使えるというものではなく、「一定以上の価格変動があること」と「工期が一定期間以上残っていること」が大前提となります。
一方的な「業者救済」ではなく「公平なリスク分担」
よく「受注者(業者)を守るための制度」と表現されがちですが、厳密には少し異なります。
建設工事は契約から完工までに長い期間を要するため、世界情勢などで予期せぬコスト増が発生することがあります。そのリスクを受注者だけに押し付けるのは不公平である一方、発注者が青天井で負担するのも不当です。
スライド条項の本来の目的は、「発注者と受注者の公平性を確保し、変動リスクを双方で適切に分担する仕組み」にあります。後述しますが、受注者側にも一定の「自己負担」が求められます。
最近できた制度ではなく「昭和25年」から存在する
昨今の物価高のニュースとともに注目されているため「最近できた新しい制度」と誤解されがちですが、実は昭和24年の建設業法制定を受け、翌昭和25年に策定された「建設工事標準請負契約約款」の当初から存在する歴史あるルールです。
長らく物価が安定していたため使われる機会が少なかった「昔からある制度」が、近年の急激な資材高騰によって「最近また頻繁に使われるようになった」というのが正しい認識です。
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スライド条項の「3つの種類」と違い・適用条件
公共工事におけるスライド条項には、物価変動の状況や期間に応じて主に「全体」「単品」「インフレ」の3つの種類が存在します。それぞれの特徴と適用条件を確認しておきましょう。
1. 全体スライド条項
【概要】
工期が長期にわたる工事において、時間の経過に伴う一般的な物価や賃金水準の変動に対応し、契約金額全体を見直すための条項です。
【主な適用条件】
- 契約締結日から「12ヶ月(1年)」を経過していること。
- 残工期に対応する請負代金額が、物価変動等により「1.5%以上」変動していること。
※工期が1年を超えるような大規模な土木・建築工事が主な対象となります。
2. 単品スライド条項(※近年最も重要!)
【概要】
「特定の主要な建設資材」の価格が短期間で急激に高騰した場合に適用される条項です。契約から1年を待たずに適用できるため、昨今の激しい資材高騰において最も活用されている条項です。
【対象となる主な資材】
以前は鋼材類と燃料油が中心でしたが、現在は運用が柔軟化され、アスファルト類、生コンクリート、木材、さらにはその他価格急騰が認められる主要な建設資材全般へと対象が拡大されています。
【主な適用条件】
- 特定の資材価格の急変動であること。
- 対象となる資材の価格変動額(上昇分)が、対象工事費の「1%」を超えること。
注意:全額補填ではありません(1%は自己負担)
ここが非常に重要なポイントです。「1%を超えた分」が発注者からの増額対象となるため、裏を返せば「対象資材費の高騰分のうち、対象工事費の1%までは受注者の自己負担(リスク分担)」となります。高騰した全額が無条件に支払われるわけではありません。
最新の運用改定ポイント:
国土交通省の運用見直しにより、現在では「物価資料の単価」よりも「実際の購入価格」の方が高い場合であっても、それが適当な金額であると証明書類で示せれば、「実際の購入価格」をベースに変更金額を算定できるようになり、より現場の実態に即した運用が可能になっています。
3. インフレスライド条項
【概要】
予期することのできない急激なインフレーション(物価水準全体の急激な上昇)やデフレーションが発生した場合に、残りの工期分の代金を変更する条項です。全体スライドとは異なり、契約から12ヶ月を待たずに適用を請求できる「中間修正的」な役割を持ちます。
【主な適用条件】
- 予期せぬ急激な物価変動が発生していること。
- 残工期に対応する請負代金額が「1%以上」変動していること。(同じく1%は自己負担ルールあり)
- 残工期が基準日から「2ヶ月以上」あること。
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【重要】スライド条項は「万能な救済制度」ではない
「資材が上がったらスライド条項を使えば安心だ」とポジティブに捉えられがちですが、実務においてそれは非常に危険な認識です。実際には手続きの手間から活用されていないケースも少なくありません。以下の点に十分注意してください。
- すべてのコスト増が補填されるわけではない: 単品スライド条項などでは、前述の通り「対象工事費の1%」等の部分は受注者の自己負担(リスク分担)となります。高騰した全額が損失カバーされるわけではありません。
- 申請しても必ず認められるわけではない: 請求すれば自動的に適用されるわけではなく、最終的には発注者との厳密な協議が必要です。
- 手続きが煩雑でタイミングを逃す: 発注者を納得させるだけの証拠資料(見積書、納品書、物価データ)を揃える手続きが面倒で、工期末になってから気づき、タイミング遅れで使えない会社が後を絶ちません。
これらの厳しさを踏まえた上で、適切に制度を活用するための「申請の流れ」を見ていきましょう。
スライド条項を「申請・適用」するまでの具体的な流れ
受注者側からアクションを起こし、発注者と合意を形成するまでの一般的なフロー(4ステップ)を解説します。
ステップ①:受注者からの請求(協議の申し入れ)
材料費の高騰などにより契約金額が不適当になると判断した場合、受注者から発注者に対して、書面にて「スライド条項の適用に基づく請負代金額変更の請求」を行います。この際、請求の根拠となる大まかな状況を伝えます。
ステップ②:協議開始・残工期の確認
請求を受けた発注者は、請求日から一定期間内(通常14日以内)に協議の開始日を定めます。協議開始日を基準として「残工期(※ここで期間が短すぎると弾かれる場合があります)」を確定し、その後の価格変動額を算定するための基準とします。
ステップ③:対象資材や価格変動額の算定・証明
ここが最も重要なフェーズです。受注者(下請け業者)は、契約時の単価と現在の単価の差額、および搬入数量を証明する書類(見積書、納品書、請求書、物価資料など)を発注者に提出します。発注者はこれを審査し、スライド条項の条件を満たしているか、自己負担分を除いて増額負担すべき金額はいくらかを算定します。
ステップ④:協議の合意・契約の変更
変更金額の算定結果について双方が合意に達した場合、変更契約(増額)を締結します。一般的に、増額分の支払いは工期末(完工時)の精算と合わせて行われます。
民間工事への「スライド条項」適用の扱い(一番のズレに注意)
ここで最も注意すべきなのが、「公共工事」と「民間工事」での扱いの違いです。「スライド条項は(どんな工事でも)使える」と広く認識されがちですが、実態は明確に分かれています。
- 公共工事: 国土交通省などの約款に基づき、制度として明確に整備されています。
- 民間工事: 完全に「契約次第」です。契約書にスライド条項(物価変動による代金変更)の記載がなければ、原則として基本NG(適用不可)となります。
民間工事で広く使用されている「民間(七会)連合協定工事請負契約約款」の中には、物価変動に伴う請負代金額の変更が明記されています。自社の契約書や注文請書のひな形を確認し、もし記載がない場合は、資材高騰リスクに備えて「予期せぬ物価変動が生じた際は、協議の上で代金を変更できる」旨の条項を事前に必ず追加しておく必要があります。
「改正建設業法」が価格交渉の強力な後ろ盾に
「民間工事では、元請けや施主に値上げを言い出しにくい」というのが下請け業者のリアルな声でしょう。しかし、契約に条項を組み込みやすくするため、受注者の強力な後ろ盾となるのが「改正建設業法(2024年成立・2025年12月完全施行)」です。
- おそれ情報の通知義務: 受注者は、資材高騰の影響で請負代金が不適当になる「おそれ」がある場合、速やかに注文者にその情報を通知しなければならない(契約前だけでなく契約後・施工中も含む)。
- 誠実な協議の努力義務: 注文者(元請け・発注者)は、受注者から価格変更の協議を申し入れられた場合、誠実に応じる努力義務がある。
法律が整備された今、客観的な値上がりデータを提示して価格交渉を行うことは、決してわがままではなく正当な権利となっています。
具体的な「交渉トーク・例文」
改正建設業法と客観的なデータを武器に、民間工事での価格交渉を進めるための例文をご紹介します。
- 「おそれ情報」の通知:
「大変心苦しいのですが、現在主要資材の価格が著しく高騰しており、当初の想定と状況が大きく変わっております。改正建設業法の指針に基づき、資材高騰の影響による契約金額の変更のおそれをご通知させていただきます。今後価格高騰がさらに進んだ際は、価格変更の協議を申し入れさせていただく場合がございますが、その際は誠実なご協議をお願いできますでしょうか。」 - 協議の申し入れ(申請):
「施工中の〇〇邸におきまして、添付書類にある通り、特定の建設資材価格が急激に高騰しております。改正建設業法の努力義務および公共工事の単品スライド条項に準拠し、双方が納得できる形で品質を確保して工事を完了させるため、恐れ入りますが価格変更の誠実な協議を申し入れさせていただきます。適正な原価管理データを用意しておりますので、ご協議をお願いできますでしょうか。」
紙管理が引き起こす現場の「限界」と「リスク」
前述の通り、スライド条項を適用し発注者との協議を成功させるためには、客観的根拠(証明資料)を整理して提出する「非常に面倒な手続き」をクリアしなければなりません。
現場のデータを「紙とエクセル」でアナログに管理し続けていると、このハードルを超えられず、結果として「制度があっても使えない」状態に陥ります。
- どんぶり勘定による証拠不足: 手書きの資材購入書類や日報は記入漏れが多く、正確な資材の搬入数や単価が記録されていないため、発注者との協議で「どれだけ高騰したか」の証明ができません。
- 雨風や汚れによる紛失・破損: 現場監督のバインダーに挟まれた納品書や請求書は、雨や泥で読めなくなることが多々あり、協議に必要な証拠書類を紛失するリスクが生じます。
- 現場監督の残業増(計算の手間): 現場が終わった後、各業者の請求書を回収し、事務所でエクセルに打ち直して予算超過を計算する作業は膨大で、申請のタイミングを逃す(残工期要件を満たせなくなる)最大の原因となります。
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スライド条項を有効に発動するための「3つの準備」
発注者に納得してもらい、正当に代金変更の協議を成立させるためには、日頃から以下の「どんぶり勘定から脱却したデータ管理」が不可欠です。
- ① 見積の「材工分離(内訳の明確化)」:
「一式」でまとめられた見積書では、どの資材がいくら上がったのか証明できません。見積作成の段階で、「材料費」と「労務費」を明確に分け、資材の単価と数量を細かく明記しておくことが大前提となります。 - ② 客観的な「証拠資料」の整理:
申請しても必ず認められるわけではないからこそ、購入先(問屋やメーカー)からの「値上げ案内の通知書」や、実際の「仕入れ時の見積書・請求書」、建設物価調査会が発行するデータなどを整理し、説得力を持たせる必要があります。 - ③ リアルタイムな「原価管理(予実管理)」の徹底:
工事が終わってから「赤字でした」と報告しても手遅れです。「この資材が〇%高騰したため、実行予算を〇〇万円オーバーする見込みです」と進行中に素早くアラートを上げ、タイミングを逃さずに発注者と協議するスピード感が求められます。
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制度を活用して自社の利益を守るためには、精緻な見積作成と、証拠となるリアルタイムな原価管理が必須です。しかし、これをエクセルの手作業で行うには限界があり、手続きの面倒さから「活用を諦める」企業が多いのが現実です。
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この正確でスピーディな予実データこそが、面倒な手続きをクリアし、発注者との協議を有利に進めるための最も強力な「武器」となるのです。
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アイピアはここが便利!6つのポイント
スライド条項に関するよくある質問(FAQ)
- スライド条項は下請け業者(専門工事業者)でも元請けに請求できますか?
-
はい、請求可能です。国土交通省も、元請けが発注者からスライド条項による増額を受けた場合、その恩恵を適切に下請け業者へ波及させる(連鎖的な増額契約を行う)ことを強く要請しています。元請けとの下請契約書にスライド条項が含まれているか確認し、データに基づいて協議を申し入れましょう。
- 単品スライド条項の対象となる資材は決まっていますか?
-
公共工事においては、以前は鋼材類と燃料油が中心でしたが、近年では資材価格の激しい乱高下を受け、「アスファルト類」や「生コンクリート」、さらにはその他急騰が認められる主要な建設資材へと対象が拡大・柔軟化されています。
- システム導入に利用できる補助金はありますか?
-
はい。アイピアのような、見積作成から原価管理までを統合管理できるクラウドERPの導入には、国が提供する「IT導入補助金」などの対象となっているケースが多くあります。導入費用の最大半額〜数分の1が補助されるため、費用負担を抑えてDXを進めることが可能です。(※事前の審査や枠の条件があります)
スライド条項・法律・補助金に関する参照元
まとめ:公平なリスク分担と正確な原価管理で会社を守る
スライド条項は、建設業界に身を置く企業が、予期せぬ資材高騰やインフレの波から「自社の利益と社員の生活」を守るための非常に重要な防衛策ですが、決して「申請すれば全額もらえる魔法の制度」ではありません。1%の自己負担というルールを理解し、双方がリスクを公平に分担するという前提に立つこと、そして何より発注者との協議が必要であることを忘れないでください。
民間工事や下請け工事であっても、「言っても無駄だろう」と諦めるのではなく、改正建設業法というルールを背景に、適正な価格交渉を行うことが今こそ求められています。
そして、その面倒な交渉を成功させるための唯一の武器が「どんぶり勘定ではない、正確な見積と原価の証明データ」です。
手作業のエクセル管理から脱却し、「アイピア」のような一元管理システムで数値をリアルタイムに把握・証明する仕組みを作ること。それが、激動の時代において確実に利益を残し続ける強い建設会社を作るための第一歩となります。
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