近年、アルコールによる交通事故や職場の安全問題が深刻化する中、アルコールチェックの義務化が進められています。
これは、労働環境の安全を確保し、社会全体の安全意識を高めることを目的としています。
本記事では、アルコールチェック義務化の背景や具体的な内容、義務違反による罰則、さらに対象企業が講じるべき対策について詳しく解説します。
目次
アルコールチェックの義務化とは
アルコールチェックの義務化とは、一定の業種や企業において従業員のアルコール摂取を確認するための検査を定期的に実施することを求める法制度です。
2011年、企業におけるアルコールチェックの義務化がスタートしました。
当初は旅客自動車運送事業や貨物自動車運送事業など、緑ナンバーの車両を使用する企業が対象でした。
しかし、近年の道路交通法改正により、白ナンバーの社用車を一定台数以上保有する企業もアルコールチェックを義務化されています。
なぜアルコールチェックが義務化されたのか、その背景を見てみましょう。
アルコールチェック義務化の背景
アルコールチェックの義務化の背景には、2021年6月28日に千葉県八街市で発生した悲惨な交通事故があります。
この事故では、トラックが下校途中の児童の列に突っ込み、5人が巻き込まれました。
その結果、2名の児童が命を失い、1名は意識不明の重体、さらに2名が重傷を負うという痛ましい事態が発生しました。
この事故は、飲酒運転の危険性と、それによる社会的影響を改めて浮き彫りにしました。
この事件を受けて、政府は交通安全対策の強化を決定し、アルコールチェックの義務化に向けた動きが加速しました。
2022年4月から、社用車を使用する事業者にはアルコールチェッカーの設置が義務づけられ、運転前後のアルコールチェックとその記録が求められるようになりました。
義務化の内容とは?
ここではアルコールチェック義務化の内容についてご紹介します。
義務化された内容は、以下の通りです。
2022年、社用車を使用する事業者に対してアルコールチェッカーの設置が義務づけられ、運転前後にアルコールチェックを実施し、その結果を記録することが求められるようになりました。
この措置は、酒気帯び運転を未然に防ぐことを目的としています。
また、2023年には新たなルールが導入され、違反に対する罰則が強化され、事業者の責任が一層重視されています。
さらに、白ナンバーの車両も対象に加えられ、記録のデジタル化が推奨されるなど、安全運転の管理体制が強化されています。
白ナンバーと緑ナンバーとの違いは以下の通りです。
白ナンバー | 一般的な自家用車や社用車に付けられる |
---|---|
緑ナンバー | 事業用の運送車両に付けられる |
義務化の対象者は?
アルコールチェック義務化の対象者は、安全運転管理者を選任する必要がある事業所です。
具体的には、道路交通法第74条の3第1項に基づき、内閣府令で定められた台数以上の自動車を使用する本拠ごとに、安全運転管理者を選任することが求められています。
- 乗車定員が11人以上の自動車 1台以上使用している事業所
- その他の自動車 5台以上を使用している事業所
対象となる自動車は、社有車、レンタカー、マイカーを問わず、業務に使用されるすべての車両が含まれます。
警視庁
アルコールチェック義務の違反による罰則とは?
アルコールチェックの義務化に伴い、義務に違反した場合、厳しい罰則が科せられることとなり、これにより安全運転の確保や交通事故の防止を強化する狙いがあります。
ここでは、アルコールチェックの義務違反に対する具体的な罰則内容をご紹介します。
アルコールチェックを怠った場合
適切にアルコールチェックを実施していない場合、「道路交通法第74条の3第6項」に基づき、安全運転管理者の解任を命じられることがあります。
この命令に従わなければ、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
公安委員会は、安全運転管理者等が第一項若しくは第四項の内閣府令で定める要件を備えないこととなったとき、又は安全運転管理者が第二項の規定を遵守していないため自動車の安全な運転が確保されていないと認めるときは、自動車の使用者に対し、当該安全運転管理者等の解任を命ずることができる。
第七十四条の三(安全運転管理者等)第一項若しくは第四項の規定に違反し、又は同条第六項若しくは第八項の規定による公安委員会の命令に従わなかったときは、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。
従業員が酒酔い運転・酒気帯び運転をした場合
近年、飲酒運転や酒気帯び運転に対する厳しい規制が強化されています。
酒酔い運転と酒気帯び運転は、いずれも飲酒運転に関連する法律用語ですが、それぞれ異なる基準や条件があります。
- 酒酔い運転
運転者の血中アルコール濃度が0.25mg/L以上である状態 - 酒気帯び運転
運転者の血中アルコール濃度が0.15mg/L以上0.25mg/L未満である状態
もし従業員がこれらの行為を行った場合、運転者自身だけでなく、企業にもさまざまな罰則が科される可能性があります。
それぞれの具体的な罰則は以下の通りです。
運転者が酒酔い運転をした場合
車両等を運転した者 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
---|---|
車両等を提供した人 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
酒類を提供した者又は同乗した者 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
運転者が酒気帯び運転をした場合
車両等を運転した者 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
---|---|
車両等を提供した人 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
酒類を提供した者又は同乗した者 | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
このようなことを防ぐために、企業は従業員に対して十分な教育と監視を行い、適切な対策を講じることが求められています。
従業員が飲酒運転を行った場合、企業のブランドイメージは著しく損なわれる恐れがあります。
メディアに取り上げられることで、社会的信頼を失い、取引先や顧客からの信頼も揺らぐことになります。
最悪の場合、飲酒運転による事故やトラブルが引き金となり、事業停止や経営破綻の危機に直面することもあります。
飲酒運転や酒気帯び運転は、従業員にとってだけでなく、企業全体にとっても深刻な問題です。
法的な罰則や企業イメージの低下、経営への影響を考慮すると、従業員に対する教育と適切な対策を講じることが企業の責務となります。
アルコールチェック義務化の対象企業が行うべきこと
アルコールチェック義務化により、企業は従業員の安全運転を確保するためのさまざまな対策を講じる必要があります。
企業が取るべき具体的な対応策は以下の通りです。
それぞれ詳しくご紹介します。
- 安全運転管理者の任命
- アルコール検知器の設置
- アルコールチェックの記録管理体制の確立
- 従業員向けの交通安全に関する教育プログラム
安全運転管理者の任命
企業が以下の条件に該当する場合、安全運転管理者を選任する必要があります。
- 乗車定員が11名以上の自動車を5台以上運用している
- その他の自動車を5台以上運用している
「条件が当てはまっているのに、安全運転管理者を選任していない」という場合、企業の経営者などの使用者には、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
このため、適切な人材を選定し、速やかに選任手続きを行うことが重要です。
アルコール検知器の設置
アルコールチェックを効果的に行うためには、信頼性の高いアルコール検知器の導入が不可欠です。
企業は、使用する機器の選定を行い、定期的なメンテナンスや校正を実施することで、正確な検知を保証する必要があります。
アルコールチェックの記録管理体制の確立
アルコールチェックの結果を記録し、適切に保管する体制を整えることも重要です。
企業は、アルコールチェックの実施日時や検知結果、実施者の情報を記載した記録簿を作成し、一定期間保管することが求められます。
この記録は、万が一の事故発生時に重要な証拠となるため、厳密に管理する必要があります。
従業員向けの交通安全に関する教育プログラム
教育内容には、アルコールの影響や飲酒運転の危険性、法律や規則についての理解を深めることが含まれます。
また、企業の方針やアルコールチェックの重要性についても説明し、従業員が自らの行動を見直す機会を提供します。
教育の実施は、社内の安全文化を醸成し、従業員の意識を高める効果があります。
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アルコールチェックの具体的な実施方法
まず、対象者である従業員に対して、信頼性の高いアルコール検査装置を使用して血中アルコール濃度を測定します。
このチェックは、作業開始前に行われるのが一般的ですが、罰則の対象となる事態を防ぐために、ランダムなタイミングでの実施も有効です。
使用するデバイスは、定期的な校正が必要であり、正確な計測が保証されるものを選択することが重要です。
次に、検査結果は厳重に記録され、一定の期間保管されます。
基準値を超えた場合には、速やかに管理者に報告し、業務の一時停止や再検査、カウンセリングの実施といった適切な措置を講じることが必要です。
さらに、従業員に対しては、アルコールの影響についての教育や意識向上のための研修を定期的に実施し、企業の安全文化を強化します。
これにより、罰則の対象となるリスクを低減し、事故の未然防止に貢献します。
アルコールチェックの義務化に関するよくある質問と回答
アルコールチェック義務化に関するよくある質問を以下にまとめました。
アルコールチェック義務化の対象業種は?
安全運転管理者を選任する必要がある事業所が主な対象者とされています。
アルコールチェックの実施頻度は?
会社の規模や業種によって異なりますが、一般的には毎日行うべしとされています。
運転前に1回、運転後に1回が、適切なタイミングであると言われています。
アルコールチェック未実施の場合の罰則は?
法令違反となり、罰則が科される可能性がありますので注意が必要です。
まとめ
いかがでしたか?
近年、アルコールチェックの義務化は企業にとって重要な課題となっています。
これは、交通事故や職場の安全問題を未然に防ぎ、社会全体の安全意識を向上させるための取り組みです。
本記事では、アルコールチェックの義務化に関する法律の背景や内容、対象企業が取るべき対策について詳しく解説しました。
従業員のアルコール管理を徹底し、安全運転を当たり前にしていくことは、企業の信頼性向上につながります。
また、適切な教育や記録管理を行うことで、法的リスクを回避し、持続可能な運営が可能となります。
企業は責任を持ってこの課題に取り組む必要があります。
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