業務において、できることなら避けたい状態の代表例が「属人化」です。
Google検索してみても、様々な方法で改善方法の提案がされていますね。
御社でも経営者やコンサルタントから1度くらい「属人化した現状を改善する!」「誰にでも仕事が出来るようマニュアルを作るように!」など指摘されたことがあるのではないでしょうか。
でも、ちょっと一度立ち止まって考えてみましょう。
本当に「属人化=悪」なのでしょうか?実は属人化が有利に働くケースがあるかもしれません。
今回は「属人化」という言葉を改めて振り返ります。
目次
そもそも「属人化」ってどういう意味?
ぞくじん【属人】
その人に属すること。法律などで、人を基本として考えること。(⇔属地)出典:デジタル大辞泉(小学館)
ビジネスの現場においては、業務がある特定の個人に属してしまい、その人しかやり方が分からない状態を指します。
多くの場合は批判的に用いられるようです。
もともとシステム開発におけるプロジェクト管理や、運用保守などの現場で使われることの多かった言葉ですが、最近は業種を問わず、
「この業務は○○さんじゃないと出来ない!」
「今日は○○さんが休みだからこの業務には対応できない!」
というようなケースを指して属人化と言われます。
なぜ、「属人化してはいけない」と言われるのか?
属人化は言葉のとおり、「業務が特定の誰かにしか分からない状態」を作り出します。
その業務に関する情報やスキルを一部の担当者だけが持っていることになるので、様々な問題が発生します。
業務効率が下がる
属人化してしまった業務は、担当者の不在によってすべてストップします。
業務が進まなくなることは当然のこと、その担当者が急に退職してしまったら対処のしようがありません。
業務の品質を管理できない
属人化している業務のことは他の社員には共有されていないので、担当者以外詳しい状況が理解できません。
そのため、業務評価を下す上司や、同じプロジェクトを連携してサポートする社員が業務の品質を確認することができなくなります。
社内コミュニケーションの悪化
属人的な業務をしてしまっている場合、その担当者に対する不満があっても業務が分からないために伝えることが難しくなります。
結果として部署全体の風通しが悪くなってしまうケースがあるので、マネージャーにとってあまり良い状態とはいえません。
なぜ属人化してしまうのか?
様々な悪影響が考えられる属人化ですが、分かっていながらもなかなか解決できない理由が各社様々あります。
弊社にご相談いただく際にはこんなケースでお声がけいただきます。
理由① 高度な業務であるため対応できる人が限られる
お客様へのクレーム対応や緊急メンテナンスなどの業務は、素早い対応が求められるので「分かる人」が対応せざるを得ないことがあります。
その都度情報を蓄積できればある程度までは対応できますが、内容がテンプレート化できないような高度な知識が必要な場合、やむをえず属人化するケースがあります。
理由② 多忙のため振り返る時間がない
担当者が多忙であるため、結果として属人化しているケースがあります。
時間さえあればマニュアル作成等も出来るのですが、業務量から考えて「自分でやったほうが早い」状態です。
理由③ 属人化することで地位を守りたい
稀に相談をいただくケースですが、自身の業務をあえて属人化することで現時点の立場・地位を守ろうとする担当者がいるのも確かです。
こういったケースが横行している会社はその担当者を中心に「限界集落」にも似た非効率な環境が生まれてしまいます。
新しい社員を育てることもできませんし、もし出来ても優秀な社員は住みよい職場を求めて退職してしまいます。
属人化しているために担当者のミスも見えづらく評価が下がりにくい点ので、担当者自身が属人化を改善しようとはしない悪循環に陥ってしまいます。
そもそも、「属人化」はすべて変えてしまうべきなのか?
ここまで属人化による弊害や、そこに至る理由を紹介してきました。
様々な経営者やコンサルタントはこれらの情報をもとに「もっと標準化すべき!」と説きます。
様々なマニュアルを用意したり、特定の社員に業務が集中しないようマネジメントしたり、次世代が育ちやすい社内教育制度を充実させたりと、やれることはたくさんあります。
でも、属人化された業務は本当にすべて「標準化」してしまうべきなのでしょうか?実のところ、属人化にも良いものと悪いものがあり、良いものは標準化を試みればむしろ業務効率が下がってしまうことがあります。
属人化が効果を発揮するケース
良い属人化とは?
ここでいう「良い属人化」とは、業務が個人に属していることで効果を発揮するケースを指します。
【属人化が望まれる条件】
・知識やスキルに専門性があり、習得に時間がかかる業務
・個人の「個性」が効果を発揮する業務
・その場その場で対応が変わる不確定要素が多い業務【具体例】
・接客、販売
・設計
・高度な技術を要するシステム開発・保守など
これらのケースでは、標準化しようにも基本業務からイレギュラー対応まで様々な条件を洗い出す必要があるため数週間~1か月かかることもざらで、仮に標準化できたとしても業務の質が下がってしまいます。
属人化状態で生産性が上がる業務に関しては無理に標準化を試みるのではなく、属人的な業務を担当するスタッフをどうフォローするか考えましょう。
業務の引継ぎは常に意識すること
とはいえ、今担当している社員が生涯ずっと同じ業務を出来る保証もありません。
業務の質的に膨大な情報を引き継ぐことが想定されます。急なトラブル等で急な担当変更に追われないように、業務引継ぎのための情報蓄積は日ごろから行うように心がけましょう。
属人化で効率が下がるケース
業務が個人に属していることで効率が下がったり、お客様に迷惑をかけてしまうものは積極的な標準化が必要です。
そのような「悪い属人化」の条件は以下の通りです。
【属人化を改善すべき業務】
・業務手順が明確で変更の無いもの
・専門性や個性などに業務が左右されないもの
・各所の連携が必要でブラックボックス化が許されないもの【具体例】
・ルーティンワークが含まれる事務業務
・承認フロー
・固定できる見積作成など
属人化で最も気を付けるべき「ブラックボックス化」
ブラックボックスとは、一言で言えば「業務そのものは遂行できるものの”どうやって遂行しているか”が見えない状態」です。属人化することで「この業務はあの人しかやり方や状況を知らない」状態になることをブラックボックス化している状態と言います。
ブラックボックス化=情報の囲い込みこそが属人化において最も気を付けるべき事態です。これが発生してしまうと、業務によっては様々なトラブルが発生します。
ブラックボックス化した職場で起きうるトラブル
・社内情報の共有不足による、お客様への対応スピード低下
・経理処理の遅延
・サービス提供内容や品質が担当者毎に違ってしまう
ブラックボックス化現象を発生させないためにも、属人化を防ぐ取り組みは大いに有効です。
属人化を改善するには?
業務フローを「見える化」する
業務に属人的な部分がある場合、その部分は詳細が不明瞭なはずです。
まずは全体の業務フローを洗い出して、どの部分がブラックボックス化しているかを確認しましょう。
業務別にフローチャートを作成してみましょう。
マニュアルを作成する
業務フローの明確化すれば、どの業務が標準化可能なのかが可視化できたはずです。
標準化したい業務ごとにマニュアルを作成しましょう。
まずは簡易的なマニュアルで構いません。
業務にあたる担当者との共有方法を明確にしておけば、マニュアル初稿のブラッシュアップを通じて少しずつ業務の標準化を行うことが可能です。
マニュアル作成にはExcelなどの「活用スキルが担当者によってバラツきの生じるもの」はできる限り使わないほうが無難です。
クラウドツールなど、様々なマニュアル作成ツールを活用してみましょう。
適切な情報共有が出来るツールを用意する
マニュアルを作成しても、それが適切に行われているかをアナログで管理していては、また属人化・ブラックボックス化が再発します。そうならないように、業務に関する情報(ノウハウ・進捗状況など)を適切に共有できる管理システムを用意することをおすすめします。
責任を分散する
業務が属人化するきっかけの1つに、権限が集中しているせいで当事者しか業務が行えないというものがあります。
このケースは、同時に「権限がない社員が改善に乗り出さない」という意味でもあります。
業務の責任を分担して、半強制的に改善に乗り出しましょう。
また、業務に関わる全員で「振り返り会議」を行うことも有効です。
振り返りを行っていけば、議題は自ずと属人的な業務に関することになります。
まとめ
今回は、業務において有効に働く属人化とそうでない属人化の両方を紹介しました。
この点を知らずに属人化をすべて悪と断じてしまうと、場合によっては「現場を知らないマネージャー」の烙印を押されてしまうかもしれません。
まずは、業務をフローチャートで見える化してから、属人化しているものをあぶり出しましょう。