近年、老朽化した空き家の解体をはじめ、2020東京オリンピック開催に向け建物を建て替える動きや再開発などが行われた影響もあり、解体工事の案件が増加傾向にありました。
さらに2023年以降は、再開発計画やインバウンド復活によるホテル建て替え、災害復旧工事の増加などが加わり、解体工事の需要は2025年現在も高水準で推移しています。
解体工事業者は、ビルなどのRC造の大規模建建物も解体できる業者もあれば、木造家屋解体のみを請け負う小さな業者などもあります。
解体業界はこれからどうなるのか、M&Aの動向や将来性も含めて詳しく解説していきます。
解体業界とは
解体業界は木造家屋やビル、マンションなどのRC建物、店舗や商業施設や工場などの解体をはじめ、内装解体など、幅広い解体工事を担う業界です。
解体する工事だけでなく多くの工程があり、どの工程を担うかでも必要な許可に差が出ます。
解体業の業態を詳しく見ていきましょう。
解体業の業態
解体業というと建物を壊す業態のイメージがありますが、それだけにとどまりません。
解体した廃棄物を収集運搬することや最終処分前に中間処理するなども必要な作業です。
解体工事の工程
- 事前調査(アスベスト調査)
- 近隣対応(騒音・振動・粉じん対策)
- 分別解体
- 廃棄物運搬・最終処分
- 中間処理(破砕・圧縮・焼却など) 等・・・
それぞれ必要な許可があるとともに、車両や設備の完備や人材の確保、技術や資格なども求められるので、すべての工程をワンストップで担える業者ばかりではありません。
どのような業態があるか見ていきましょう。
解体工事の業態
- 解体工事専門業者
- 収集運搬のみ
- 解体工事から中間処理まで
- 解体工事から収集運搬まで
- 元請け企業による下請けへの丸投げ
解体工事専門業者
解体工事を専門に行う業者です。
といっても、規模や解体できる構造に違いがあります。
木造家屋のみを引き受ける業者、鉄骨造やRC造の建物解体にも対応できる業者があります。
規模などにより、解体業の登録や建設業の許可が必要です。
また、2024年の建設業法改正により、現場管理体制・専任技術者要件の強化 が進み、小規模業者には負担が増加。
収集運搬のみ
解体で出た廃棄物を処理場まで収集運搬する業務です。
不法投棄などが行われないよう、産業廃棄物の収集運搬処理業の許可が必要です。
収集運搬ができる車両や人員の確保などが求められます。
解体工事から中間処理まで
中間処理とは最終処分場に持ち込む前に、可能な限り、産業廃棄物の量や容積、体積を小さくすることです。
埋め立て処分を行う最終処分場は数も限られ、能力や規模的にも限界に達しているところが少なくありません。
ゴミの量が増えたからといって、簡単に増やせる施設ではありません。
そのため、中間処理を通じて廃棄物を可能な限り焼却、脱水、乾燥、中和、破砕などを行って容量を減らすことや小さくすることが必要です。
解体工事から中間処理まで行える業者は、収集運搬も手掛けるので、ほぼすべてのプロセスをワンストップ対応できます。
解体工事から収集運搬まで
解体工事をした廃棄物を自ら運べ、中間処理業者に引き渡すところまで行う業者です。
元請け企業による下請けへの丸投げ
工務店やハウスメーカー、マンションやビルのディベロッパーなどに多いケースですが、建設業の許可などを保有しているので、自ら解体工事を手掛けることも可能で、解体関連業務はすべて下請業者に丸投げします。
解体が済んだところで、建て替えなどの工事を行うようなケースが少なくありません。
解体業界の構造
解体業は解体工事だけで終わるケースは少なく、その後に建て替えが行われたり、更地を駐車場に利用したり、売却されるケースも多いです。
そのため、建物所有者が直接、解体業者に依頼するのではなく、建て替えを依頼した業者から下請けが出されるなどのケースが多く見られます。
また、小規模な木造解体などは建設業の許可がいらなかった状況もあり、小規模で人材も少ない会社などの参入も多く見られました。
こうした会社が窓口となって、建設業の許可を持つ協力会社などに外注するケースも少なくありません。
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解体業界の現状

2025年時点の解体業界は、依然として高い需要が続いています。
高度成長期に建てられた建物が一斉に老朽化のタイミングを迎え、都市部では再開発、地方では空き家の増加が顕著です。
さらに、2023年以降の空き家法改正やアスベスト事前調査の義務化、災害復旧工事の増加など、社会全体で「解体が必要となる状況」が急速に広がっています。
一方で、人材不足や廃棄物処理の厳格化、施工単価の上昇など、業界構造は以前より複雑かつ高負荷な方向に向かっています。
ここでは、現状の需要増に影響を与える主要な要因を最新のデータとともに整理します。
建物の老朽化に伴う需要増加
日本では高度経済成長期以降に大量の建築物が建てられ、これらが築40〜60年を迎える2020年代後半は「老朽化建築物のピーク期」に突入しています。
特にマンション、商業施設、公共施設、企業のオフィスビルなど、中〜大規模建築の寿命が一斉に到来し、建て替えの判断を迫られています。主な増加の要因は以下の通りです。
解体工事増加の要因・背景
- 耐震性能の不足
- 設備の老朽化
- 断熱性能の低さ
- 維持管理コストの増加
さらに、最新耐震基準(1981年)を満たしていない建物は、資産価値の低下や地震リスクの増大が懸念され、建て替え需要を押し上げています。
近年は、都市部での再開発プロジェクトや老朽マンションの建て替え事業(マンション建替円滑化法の改正)も増加し、解体工事の案件は大型化・複雑化の傾向にあります。
これらの建物は構造が強固で、アスベスト含有の可能性も高く、専門性の高い解体技術が必要なケースが増え続けています。
自然災害による需要増加
日本は地震大国であり、近年は気候変動による豪雨・台風・洪水・土砂災害などが増加しています。
こうした自然災害によって住宅や商業建築が損壊した場合、建物の撤去・解体は災害復旧の第一段階として不可欠です。
特に地震では倒壊・半壊した住宅の解体需要が一気に増加し、自治体の災害廃棄物処理計画に基づく「公費解体」が発生します。
また、浸水した建物は基礎や設備の損傷が激しいため、修繕よりも解体・建て替えが選ばれるケースが増加しています。近年の豪雨災害では、床上浸水や土砂流入によって居住継続が困難になり、解体工事の依頼が短期間に集中する傾向があります。
さらに、災害廃棄物の量が膨大になることから、分別解体・収集運搬・中間処理など解体事業者が担う役割は拡大する一方です。
結果として、災害が深刻化するほど、解体業界には安定した需要が発生し続ける構造が形成されています。
空き家の増加による解体需要増加
2025年の日本では、空き家数が900万戸を超え、空き家率は過去最高となっています。
少子高齢化と都市部への人口集中、地方の過疎化、相続放棄の増加などが主な要因です。
特に、管理不十分な空き家は倒壊の危険性や景観悪化、防犯上の問題から社会課題として深刻化しています。
2023年の「空き家対策特別措置法」改正では、新たに管理不全空家が設定され、自治体が指導・勧告しやすくなりました。
勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例(最大1/6)が解除され、税負担が一気に増えるため、所有者が解体を選択するケースが急増しています。
また、自治体による強制代執行(行政代執行)も増え、空き家解体の公費負担制度が活用される場面も多くなっています。
さらに、不動産価値向上のために「更地にして売却したい」という需要が増え、不動産業者や土地活用会社を通じて解体工事の依頼が継続的に発生しています。
このように空き家問題は構造的に深化しており、解体業界にとって長期的・継続的な需要源となっています。
コロナ禍の解体業界
近年は、需要は増加傾向にありましたが、コロナ禍で一時的に解体業界にも影響が出ました。
どのような影響が出たのでしょうか。
売上減少傾向
コロナ禍で先行きが見込めなくなり、建て替えての新規事業をあきらめる場合や延期するケースが増え、解体工事にも待ったがかかり、売上が減少したケースがあります。
工事減少に伴う競争激化
近年の需要増を見込んで、解体業に参入した業者が多い中、コロナ禍による需要減は想定外の出来事でした。
そこで、工事減少に伴う競争激化が起こり、仕事が取れない業者などは経営体力が減少する場合や廃業や統廃合に追い込まれているケースもあります。
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解体業界のM&A動向
需要増大傾向の中で、コロナ禍による想定外の売上減少や競争激化が起こったことで、解体業界ではM&Aの動きも起こってきました。
M&Aとは
M&Aとは買収や合併などを通じて、企業規模を拡大することや事業の多角化を図ることで、生き残りを図ることやより大きな企業へと成長を遂げる目的で行われる経営戦略です。
売り手のメリット
- 赤字経営を脱却できる
- 後継者がいない企業の存続が図れる
- 人材や機械、設備などを無駄にせずに済む
買い手のメリット
- 事業を丸ごと手に入れることができる
- 人材や技術、ノウハウなどを手早く得られる
- 顧客や取引先を継承できる
- 事業の多角化やリスク分散ができる
- 一から新規事業を起こすより低コストでスピーディー
M&A件数は増加傾向
解体工事の需要は増していても、少子高齢化で人材も不足する中、M&Aの件数は増加傾向にあります。
どのような業者がM&Aを行っているのでしょうか。
関連事業者によるM&Aが活発
建て替えに伴い解体工事が必要なことも多いため、建て替え工事を担う工務店やハウスメーカー、マンションやビルのディベロッパーをはじめ、不動産の有効活用を提案する不動産会社や不動産コンサルティング会社などが解体業者をM&Aするケースが増えています。
収集運搬のみを行ってきた業者が解体業者をM&Aして、ワンストップ対応するようなケースもあります。
元請けから下請けへのM&Aも
建設事業の元請けとなるゼネコンが、下請けとなる解体業者をM&Aするケースも少なくありません。
自社に取り込むことで、より低コストかつスピーディーに解体工事を担えるようになるためです。
解体業界の将来性
では、今後解体業界はどうなるのでしょうか。
解体業界の将来性を見ていきましょう。
少子高齢化による空き家の増加
少子高齢化がますます進んでいく中で、今後も空き家が増加し、解体のニーズは増えます。
放置されて、倒壊のリスクが高まることや地域の防災や防犯、景観などの観点から問題ありとみなされると特定空き家として、罰則や強制解体などの対象になります。
ペナルティを課される前に解体をする所有者の依頼をはじめ、放置空き家を自治体が強制代執行をかけるための依頼が増える可能性が高いです。
高度な専門業種へ
需要増を見込んで、高度なスキルやノウハウや経験も未熟な業者の参入が増えた影響か、空き家解体にあたっての事故も増えています。
空き家解体は住宅密集地など、狭い場所での高度な解体ノウハウが必要になるため、より高度な技術が求められる専門業者へレベルアップさせないと、信頼が得られず、依頼がもらえなくなるかもしれません。
また、解体をするだけでなく、解体後の土地の活用法をコンサルティングしたり、建て替え工事を行ったり、売却や賃貸の仲介を担える宅建事業を担えるなど、業務の多角化が必要になっていく可能性があります。
建設業法の改正
2016年の建設業法改正により、建物の解体工事を行うためには建設業許可が必要になりました。
それまでは、一定規模以上の解体工事を行うには、とび・土工工事業で建設業の許可があればできるとされていましたが、改正後は解体工事業の許可が必要となります。
許可を得るには、専門資格を持つ技術者や管理者の配置や一定年数以上の経験を持った責任者などが必要です。
こうした人材の確保をするためにも、とび・土工工事業で建設業の許可を得ていた業者や建設業の許可がなかった関連業者などが、専門資格を持つ人材がいる解体業者のM&Aを行う可能性もあります。
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まとめ
解体業の業態には、解体工事専門、収集運搬のみ、解体工事から中間処理まで、解体工事から収集運搬までなどプロセスごとに分かれるほか、下請けに丸投げしているような業者も少なくありません。
解体業界の現状ですが、全体的に需要が増加しています。
その理由としては、建物のサイクルや耐震基準が現行法の基準を満たしていないケースの建て替えなど建物の老朽化に伴う需要増加、地震や水害、土砂崩れなど自然災害による需要増加、少子高齢化や過疎化などに伴う空き家の増加による解体需要増加が挙げられます。
もっとも、コロナ禍の解体業界は売上減少傾向にあり、工事減少に伴う競争激化が問題になりました。
これに伴い、解体業界のM&Aも増加傾向にあります。
関連事業者によるM&Aが活発で、元請けから下請けへのM&Aも増えています。
解体業界の将来性ですが、少子高齢化による空き家の増加により依頼は増えるので、将来性は悪くありません。
ただし、解体だけにとどまらず、その後の建て替えやリフォームなどを行うなど、より高度な専門業種へシフトしないと、競争に勝てないかもしれません。
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