建設業界では、人手不足や高齢化、長時間労働といった課題が長年指摘されてきました。
こうした状況を背景に、建設業を持続可能な産業とするため、建設業法を中心とした法制度の見直しが進められています。
その中核となるのが、2024年6月に公布され、2025年12月12日に全面施行される建設業法改正です。
本記事では、建設業法改正の背景から主な改正ポイント、企業に求められる対応までを、実務目線でわかりやすく解説します。
建設業法改正の背景・目的
今回の建設業法改正は、単なるルール変更ではなく、建設業界が抱える構造的な課題に対応するための制度見直しです。
まずは、なぜこのタイミングで大きな改正が行われたのか、その背景と目的を整理します。
建設業界が抱える課題
建設業は社会インフラを支える重要な産業である一方、次のような課題を抱えてきました。
- 技術者・技能労働者の高齢化
- 若年層の入職者減少
- 長時間労働が発生しやすい現場環境
- 元請と下請の力関係による価格や工期のひずみ
特に問題視されてきたのが、労務費が適正に確保されにくい取引慣行です。
資材価格や人件費が上昇しても工事価格に反映されず、現場や労働者に負担が集中するケースが少なくありませんでした。
この状況が続けば、人材確保がさらに難しくなり、将来的な建設需要にも影響を及ぼす恐れがあります。
働き方改革と法制度見直しの必要性
もう一つの大きな背景が、働き方改革の流れです。
建設業では長時間労働が常態化しやすく、時間外労働の是正が長年の課題となっていました。
労働時間を是正するには、単に残業を減らすだけでなく、
- 無理のある工期設定を見直す
- 適正な請負金額を確保する
- 現場管理や事務作業の効率を高める
といった、取引や業務の仕組みそのものの見直しが必要です。
そこで国は、建設業法を中心に関連制度を改正し、業界全体の体質改善を図ることにしました。
業界の持続可能性向上
今回の改正は、企業を過度に規制することが目的ではありません。
適正な労務費と工期を確保し、建設業を将来にわたって維持できる産業にすることが狙いです。
適切な契約と働き方が実現すれば、品質や安全性の向上にもつながります。
企業にとっても、人材確保や経営の安定につながる可能性があり、
法対応を「守り」だけでなく、経営改善の機会として捉えることが重要です。
建設業法に関する記事はこちら
建設業法改正の施行スケジュールと全体像
建設業法改正は、一度にすべての内容が変わるわけではありません。
現場や企業への影響を考慮し、段階的に施行される仕組みが取られています。
まずは、いつから何が変わるのか、全体像を整理しておきましょう。
改正法は段階的に施行される
今回の改正法は、2024年6月公布された後、複数のタイミングに分けて施行されます。
最終的には2025年12月に全面施行となり、すべての新ルールが適用されます。
段階的施行が採用されている理由は、建設会社が契約や業務フローを見直すための準備期間を確保するためです。
施行スケジュールの考え方
細かい条文レベルでは複数の施行日がありますが、実務上は次のように整理すると分かりやすいでしょう。
- すでに影響が出始めている内容
- 2025年に向けて準備が必要な内容
- 全面施行後に本格的に適用される内容
特に、労務費や契約の考え方は、全面施行を待たずに「望ましい取引」として求められるケースが増えています。
元請企業だけでなく、下請・専門工事業者にとっても、今後の契約交渉や見積対応に影響する点は少なくありません。
今のうちに意識しておくべきこと
施行スケジュールを踏まえると、今の段階で重要なのは、条文を丸暗記することではありません。
- どんな考え方に変わるのか
- これまでの慣行の何が問題とされているのか
- 自社の業務や契約に影響しそうな点は何か
こうした視点で整理しておくことが、後の対応を楽にします。
建設業法改正の主なポイント

今回の建設業法改正では、建設業界の取引慣行や働き方に深く関わる点が見直されています。
労務費の扱いや請負契約、工期設定など、現場実務や経営判断に直結する内容が盛り込まれています。
具体的には、不当に低い請負金額での契約や、著しく短い工期設定を問題とする考え方が明確になりました。
また、見積書の記載内容や契約条件についても、これまで以上に透明性が求められるようになります。
ここでは、重要な改正ポイントを整理します。
労務費の適正化と価格転嫁の明確化
今回の改正で最も重要なポイントの一つが、労務費の適正な確保です。
これまで建設業界では、資材価格が上昇しても請負金額に十分反映されず、人件費が圧迫される構造が問題となってきました。
改正後は、労務費について「適正に確保されるべきもの」として、契約や見積の段階で明確に扱うことが求められます。
発注者や元請が一方的に低い金額で契約を押し付ける行為は、是正の対象となる可能性があります。
この改正は賃上げを直接義務付けるものではありません。
労務費が削られる前提の取引慣行を見直すことが目的です。
今後は、次のような対応が重要になります。
- 見積書の内訳をこれまで以上に丁寧に示す
- 労務費の算出根拠を説明できるようにする
- 値下げ要請があった場合の社内判断基準を整える
不当に低い請負金額や短い工期の是正
次に重要なのが、請負金額と工期の適正化です。
従来は、発注者や元請の立場が強く、無理のある金額や工期でも受けざるを得ないケースが見られました。
しかし、こうした契約条件は長時間労働や安全管理の低下につながります。
結果として、品質や現場の安全性にも悪影響を及ぼします。
今回の改正では、著しく短い工期や不当に低い請負金額での契約を問題視する考え方が明確になりました。
書面上は問題がなくても、実態として無理がある場合は是正対象となる可能性があります。
今後は、次の観点での見直しが求められます。
- 工期が作業量や人員配置に対して現実的か
- 追加工事や仕様変更が発生した際の調整ルールがあるか
- 請負金額の根拠が説明でき、関係者間で共有されているか
合理的な根拠をもって契約条件を説明できるかどうかが重要になります。
見積・積算と労務費に関する記事はこちら
建設会社が実務で対応すべきポイント
建設業法改正を理解しただけでは、実務上のリスクは減りません。
重要なのは、自社の業務や契約、現場運営をどのように見直すかです。
ここでは、中小から中堅の建設会社が、現実的に取り組むべき対応ポイントを整理します。
見積・契約の進め方を見直す
今回の改正では、見積や契約内容の考え方がより重視されます。
これまで慣習的に行ってきた進め方が、今後は問題視される可能性もあります。
特に意識したいポイントは次のとおりです。
- 工事内容ごとの内訳を明確にする
- 労務費がどの部分に含まれているかを説明できるようにする
- 工期設定に無理がないかを事前に確認する
見積や契約は、単なる事務作業ではなく、後のトラブルや法令リスクを防ぐ重要な工程になります。
労務費の扱いを社内で整理する
労務費の適正化は、今回の改正の中心的なテーマです。
そのため、社内で労務費の考え方を整理しておくことが重要になります。
例えば、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
- 労務費をどの基準で算出しているか
- 見積段階で労務費が削られていないか
- 元請や発注者からの値下げ要請にどう対応するか
労務費は「最後に調整する項目」ではなく、最初から確保すべき前提条件として考える必要があります。
工期設定と現場体制を見直す
無理な工期は、長時間労働や品質低下の原因になります。
今回の改正をきっかけに、工期と現場体制の見直しも進めるべきです。
具体的には、次のような点が挙げられます。
- 工期が人員配置や作業量に見合っているか
- 突発的な変更に対応できる余裕があるか
- 技術者の兼務状況が適切か
現場ごとの状況を把握し、「なぜこの工期なのか」を説明できる状態にしておくことが重要です。
管理体制を説明できる形にする
今回の改正では、形式だけでなく実態として適正かどうかが問われます。
そのため、管理体制を第三者に説明できる状態にしておく必要があります。
例えば、
- 誰がどの現場を管理しているか
- 契約内容や見積の根拠がどこにあるか
- 労働時間や作業内容が把握できているか
といった点を、「聞かれたら答えられる」ではなく、すぐに示せる状態にしておくことが望ましいと言えます。
建設業法改正に関するよくある疑問・誤解
建設業法改正について調べていると、「結局、自社にどこまで影響があるのか」「対応しないとどうなるのか」といった疑問を持つ方も多いはずです。
ここでは、特によくある質問を整理して解説します。
- 小規模な工事や中小企業にも関係がありますか?
-
はい、関係があります。今回の改正は、大手企業だけを対象としたものではありません。
請負金額や工期、労務費の考え方は、工事規模にかかわらず影響します。
特に中小の建設会社や専門工事業者でも、元請との契約内容や見積の出し方に影響が出る可能性があります。「小さい工事だから大丈夫」と考えず、自社の取引や契約を一度見直すことが重要です。 - 元請だけが対応すればよいのでしょうか?
-
いいえ、元請だけの話ではありません。下請や専門工事業者も、改正の影響を受けます。例えば、労務費の扱いや工期設定は、下請側の見積や契約内容にも関係します。元請から提示される条件が適正かどうかを確認し、必要に応じて説明や調整を求める姿勢が、今後はより重要になります。
- 改正に対応しないと罰則はありますか?
-
改正内容すべてに直ちに罰則が科されるわけではありません。しかし、不適切な契約や取引が認められた場合、行政指導や是正の対象となる可能性があります。また、法令違反が続けば、指名停止や社会的信用の低下につながるリスクもあります。単に罰則を避けるというより、適正な取引を行うための基準が明確になったと捉えることが重要です。
- これまでの慣行をすぐに変える必要がありますか?
-
すべてを一度に変える必要はありません。ただし、これまで当たり前だった慣行の中に、今後問題視される可能性のある点が含まれていることは事実です。まずは、
- 見積や契約の進め方
- 工期設定の考え方
- 労務費の扱い
といった部分を整理し、段階的に見直していくのが現実的です。
- 今のうちに何から始めるのがよいですか?
-
最初に取り組むべきなのは、自社の契約や見積の実態を把握することです。具体的には、
- 見積書の内訳が説明できるか
- 工期や金額に無理がないか
- 管理体制が整理されているか
といった点を確認すると、どこから改善すべきかが見えてきます。制度の理解と同時に、自社の業務を振り返ることが、改正対応の第一歩になります。
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まとめ
建設業法改正は、労務費や工期、請負契約のあり方を見直し、建設業を持続可能な産業にしていくための制度改正です。
特に、労務費の適正化や無理のある契約条件の是正は、現場実務や経営判断に大きく影響します。
今回の改正で重要なのは、形式的に対応することではなく、自社の見積や契約、現場運営が合理的かどうかを説明できる状態にしておくことです。
建設業法改正をきっかけに、取引や業務の進め方を見直すことが、将来の人材確保や経営の安定につながります。
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