解体工事や改修工事を行う際、「アスベスト(石綿)」という言葉を耳にする機会が増えています。現在では、建築物などの解体・改修工事を行う施工業者(元請事業者)に対し、石綿含有有無の事前調査と、その結果の報告が厳格に義務付けられています。
2022年4月からは、一定規模以上の解体・改修工事について、石綿の有無にかかわらず「石綿事前調査結果報告システム」を通じた電子報告が義務化されました。
報告先は自治体および労働基準監督署であり、従来の書面提出ではなく、電子システムでの報告が必要となっています。
アスベスト(石綿)について詳しくみていきましょう。
アスベスト(石綿)とは?

アスベスト(石綿)は、自然に産出する鉱物繊維の総称で、その耐熱性、耐薬品性、強度、絶縁性などの優れた特性から、かつては建築材料や工業製品に広く使用されてきました。
主な種類には、以下の6種類があります。
- クリソタイル(白石綿)
- クロシドライト(青石綿)
- アモサイト(茶石綿)
- トレモライト
- アクチノライト
- アンソフィライト
現在の規制では、「6種類」であることだけでなく、含有率0.1%を超えて石綿を含む建材は規制対象となることが重要な基準です。わずかな含有であっても基準を超えていれば、法令に基づく措置が必要となります。
また、2006年以前に建築された建物については、原則として石綿が使用されている可能性があるものとして調査を行うのが実務上の基本です。
設計図書だけで判断せず、現地確認や必要に応じた分析調査を行うことが求められます。
アスベストは微細な繊維状の形態をしており、これが空気中に浮遊すると吸入されやすく、人体に有害な影響を及ぼします。特に健康への影響は深刻で、次のような疾病を引き起こすことが知られています。
アスベストによる健康被害
- アスベスト症(石綿肺):長期間にわたりアスベストを吸入することにより、肺に繊維が蓄積し、肺組織が硬化する疾患です。呼吸困難や咳などの症状を引き起こします。
- 肺がん:アスベスト曝露が原因で発生する肺の悪性腫瘍です。
- 中皮腫:胸膜や腹膜などの中皮に発生する悪性腫瘍で、アスベスト曝露が唯一の明確な原因とされています。
- 石綿による胸膜プラーク:胸膜に繊維状の石綿が付着して硬化することにより、胸膜が厚くなる疾患です。
アスベストの使用は多くの国で規制されており、日本でも2006年に原則として製造・使用が禁止されました。
しかし、それ以前に使用された建材は現在も多くの建物に残存しています。
そのため、解体・改修時には事前調査、電子報告、適切な除去・飛散防止対策までを含め、法令に沿った厳格な対応が求められています。
アスベストに関する厚労省のページはこちら
解体に関する記事はこちら
アスベスト(石綿)はどのようなところで使われる?
アスベスト(石綿)は、その優れた耐熱性、絶縁性、耐薬品性、強度などの特性から、建築材料や工業製品など幅広い用途で使用されてきました。
現在では製造・使用は禁止されていますが、既存建築物や工作物には今も残存している可能性があります。
とくに近年の法改正(大気汚染防止法および石綿障害予防規則の改正)により、従来よりも規制対象が広がり、建材の種類や作業内容に応じた厳格な対応が求められています。
建築材料
- 断熱材・吹付け材(レベル1建材)
建物の壁や天井、鉄骨部分などに吹き付けられた石綿は、飛散性が非常に高く、現在も最も厳しい管理対象となっています。 - 耐火材
耐火壁や耐火被覆材として使用されました。解体時には隔離や湿潤化など、厳重な飛散防止措置が必要です。 - 石綿含有成形板(いわゆるレベル3建材)
屋根材(スレート)、外壁材、ビニル床タイル、ケイ酸カルシウム板などに広く使用されました。
従来は「比較的飛散しにくい」とされてきましたが、現在は切断・切り込み・破砕・研磨などを伴う作業は飛散リスクがある行為として厳しく規制されています。電動工具の使用や破砕解体を行う場合には、作業基準の遵守や事前調査結果に基づく適切な措置が必要です。
工作物への使用
法改正により、対象は建物だけでなく工作物にも明確に拡大されています。
たとえば、配管設備、ボイラー、焼却炉、煙突、化学プラント設備などにも石綿含有材料が使用されてきました。これらの解体・改修時にも、建築物と同様に事前調査と飛散防止措置が義務付けられています。
工業製品・その他
- ブレーキライニング・クラッチフェーシング
自動車などの摩擦材として使用されました。 - ガスケット・パッキン
各種機械や配管の接合部に使用され、耐熱性・耐薬品性が求められる箇所で活用されました。 - 電気製品の絶縁材・電線被覆材
高温環境下での絶縁性能が評価され、電気機器やケーブルに使用されました。 - 船舶・鉄道車両
防火や断熱の目的で内装材などに使用されていました。
このように、アスベストは建築物だけでなく、設備・工作物・工業製品にまで広範囲に使用されてきました。
現在は使用が禁止されているものの、既存構造物には残存している可能性が高く、解体・改修時には建材の種類(レベル1〜3)や作業方法に応じた適切な対応が法令上求められています。特に成形板であっても「壊し方」によっては厳しい規制対象となる点は、実務上の重要なポイントです。
アスベスト(石綿)の危険性とは
アスベスト(石綿)は、その微細な繊維が空気中に浮遊しやすく、吸入することで健康に深刻な悪影響を及ぼします。最大の特徴は、曝露から発症まで非常に長い潜伏期間があることです。
特に中皮腫は、曝露から30〜50年という長い潜伏期間を経て発症するケースが多く、過去にアスベストが広く使用されていた時代の影響により、現在も死亡者数は高い水準で推移しています。過去の曝露が、数十年後に健康被害として顕在化するという点が、アスベスト問題の深刻さを物語っています。
以下に主な健康被害を説明します。
アスベスト症(石綿肺)
アスベスト症(石綿肺)の概要と症状は以下の通りです。
概要
長期間にわたりアスベストを吸入することで、肺に繊維が蓄積し、肺組織が硬化する病気です。
症状
呼吸困難、慢性的な咳、胸痛などが現れ、重度になると日常生活にも大きな支障をきたします
肺がん
肺がんの概要と症状は以下の通りです。
概要
アスベスト曝露が原因の一つとなる肺の悪性腫瘍です。特に喫煙との相乗効果により、発症リスクが大幅に高まることが知られています。
症状
咳、血痰、体重減少、呼吸困難、胸痛など。進行すると転移や死亡に至る場合もあります。
中皮腫
中皮腫の概要と症状は以下の通りです。
概要
胸膜や腹膜などの中皮に発生する悪性腫瘍で、アスベスト曝露が主な原因です。発症までに30〜50年の潜伏期間を経ることが多く、現在も患者数・死亡者数が発生し続けています。
症状
胸痛、呼吸困難、腹痛、腹部膨満など。進行が早く、治療が難しい重篤な疾患です。
石綿による胸膜プラーク
石綿による胸膜プラークの概要と症状は以下の通りです。
概要
胸膜に石綿繊維が付着して硬化し、胸膜が厚くなる状態です。直接的な悪性疾患ではありませんが、過去の曝露歴を示す重要な所見とされています。
症状
多くは無症状ですが、進行すると呼吸機能に影響を及ぼすことがあります。
アスベストの危険性を低減するための対策
アスベストの健康被害を防ぐため、日本では大気汚染防止法および石綿障害予防規則の改正により、作業基準が大幅に強化されています。
使用禁止と規制
日本では2006年に原則として製造・使用が禁止されましたが、既存建物には依然として残存しているため、解体・改修時には厳格な法令遵守が必要です。
除去と管理(作業基準の強化)
現在の法令では、単なる養生だけでなく、以下のような具体的措置が細かく定められています。
- 作業区画の隔離養生
- 集じん・排気装置による負圧隔離の実施
- HEPAフィルター付き集じん機の使用
- 湿潤化による粉じん飛散防止
- 作業後の清掃・濃度測定・記録保存
特に吹付け材など飛散性の高い建材では、「負圧状態を維持しながら作業を行うこと」が法的基準として求められています。
労働者保護
作業従事者は、防じんマスク(電動ファン付き呼吸用保護具など)や防護服を着用し、定められた作業手順に従う必要があります。また、特別教育や有資格者による調査・管理が義務化されています。
健康診断と継続的監視
過去に曝露した可能性のある労働者は、定期健康診断を受け、長期的な健康管理を行うことが重要です。
潜伏期間が数十年に及ぶため、短期間で安全と判断することはできません。
アスベストの危険性は、「吸えばすぐ症状が出る」ものではなく、「数十年後に重篤な病気として現れる」点にあります。
そのため、曝露を未然に防ぐことが最も重要です。解体や改修工事において石綿の可能性がある場合は、必ず専門業者による調査と、法令に基づいた適切な飛散防止措置を講じる必要があります。
アスベスト(石綿)に関する法令とは
近年、アスベスト対策に関する法規制は大幅に強化されています。特に2021年から2023年にかけて、大気汚染防止法および石綿障害予防規則が段階的に改正され、事前調査・作業基準・記録保存・罰則のすべてが厳格化されました。
現在の実務で特に重要なポイントは、次の3点です。
有資格者による事前調査の義務化(2023年10月施行)
2023年10月より、建築物の石綿事前調査は有資格者のみが実施可能となりました。
具体的には、「建築物石綿含有建材調査者」などの資格を有する者が調査を行う必要があります。
これにより、経験や自己判断による簡易確認は認められなくなり、専門知識を有する調査者による客観的な調査が法的義務となりました。無資格者による調査は法令違反となるため、元請事業者には資格者の配置確認義務も生じています。
大気汚染防止法改正(2021年全面施行〜2026年の最新動向)
大気汚染防止法は2021年4月に改正内容が全面施行され、アスベスト規制は大幅に強化されました。
2026年現在は、制度の整備段階から「厳格な運用・監督段階」へと移行しています。
改正の主なポイントは次の3点です。
- レベル3建材まで規制対象を拡大
吹付け材(レベル1)だけでなく、屋根スレートやビニル床タイルなどの石綿含有成形板(レベル3)も作業基準の遵守が義務化されました。切断・破砕・研磨などを行う場合には、湿潤化や集じん措置などの飛散防止対策が必要です。 - 直接罰の導入
作業基準違反に対し、行政命令を経ずに罰則が適用される「直接罰」が導入されました。違反は刑事罰や事業者名の公表につながる可能性があります。 - 2026年時点の実務上の注意点
現在は、事前調査の適正実施、電子報告の内容と現場の整合性、写真記録の保存状況などが重点的に確認されています。制度を「知っている」だけでなく、「正しく実行しているか」が問われる段階に入っています。
アスベスト法改正に関する記事はこちら
写真記録・保存の義務化(30年間保存)
改正法では、作業の透明性確保のため、作業工程ごとの写真撮影・記録保存が義務化されました。
具体的には、
- 事前調査の状況
- 隔離養生の設置状況
- 負圧除じん装置の設置状況
- 除去作業中の様子
- 作業完了後の清掃・確認状況
などを記録し、原則30年間保存する必要があります。
これは施工業者だけでなく、発注者(施主)にとっても重要なポイントです。万が一、将来的に健康被害や法的問題が発生した場合、記録が適正な施工の証拠となります。
その他関連法令
アスベスト対策は複数の法令が連動しています。
- 労働安全衛生法
労働者の安全確保、特別教育、健康診断などを規定。 - 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
石綿含有廃棄物の適正運搬・処理を規定。 - 建築基準法
建築物の安全性や材料規制を定める基礎法令。
建築基準法に関する記事はこちら
アスベストに関するよくある質問
- アスベストの事前調査は誰でもできますか?
-
いえ。2023年10月以降、建築物の事前調査は「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者のみ実施可能となっています。無資格者による調査は認められていません。
- 石綿が含まれていなくても報告は必要ですか?
-
はい。2022年4月以降、一定規模以上の解体・改修工事では、石綿の有無にかかわらず電子報告が義務化されています。調査結果を専用システムで自治体および労働基準監督署へ報告する必要があります。
- レベル3建材(スレートや床タイル)は安全ですか?
-
飛散しにくい建材とされていますが、切断・破砕・電動工具での加工を行う場合は飛散リスクがあります。
現在は作業基準の遵守が義務化されており、適切な湿潤化や集じん措置が必要です。 - アスベストによる健康被害は今も発生していますか?
-
はい。中皮腫などは30〜50年の潜伏期間を経て発症することが多く、現在も死亡者が報告されています。過去の曝露が現在の健康被害につながるため、問題は終わっていません。
- 解体工事で必要な記録はありますか?
-
あります。作業工程ごとの写真撮影や記録の保存が義務付けられており、原則30年間保存する必要があります。これは施工業者だけでなく、施主にとっても重要なポイントです。
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まとめ
アスベスト(石綿)についてみてきましたがいかがでしたでしょうか。
アスベストは、飛散した場合に吸入すると健康にリスクを及ぼす可能性が高いため、近隣住民に被害をもたらすことがあります。このため、様々な規制が設けられ、今後さらにその規制が強化される可能性があります。
法令違反を起こさないためにも、また健康への影響を最小限に抑えるためにも、アスベスト解体に関する正しい知識を身につけることが重要です。
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とは?危険性や法令について分かりやすく解説.webp)






