建設工事には、建物そのもの以外にも工事を進めるために必要な「仮設物」が欠かせません。
これらの仮設物を設置するには当然、費用が発生しますが、その費用は「共通仮設費」として工事全体のコストに組み込まれています。
しかし、この共通仮設費が具体的に何を指し、どのように積算されるのかを正確に理解している方は少ないかもしれません。
今回は、共通仮設費の定義やその内訳、積算における個別の計算方法について詳しく解説します。
共通仮設費とは
建物を建てる際には、多くの作業員が必要ですが、同時に彼らの作業環境も整える必要があります。
具体的には、作業員が使用できるトイレや、電気のある休憩スペースなどを用意しなければなりません。
ただし、これらの仮設トイレや仮設事務所といった設備は、工事が完了すればすべて撤去することになります。
このように、建築に欠かせないけれど、工事が終われば役目を終える設備を「仮設物」といいます。
そして、共通仮設費とは、これらの仮設物を設置・撤去するためにかかる費用のことを指します。
共通費との違い
工事の会計には、共通仮設費とは別に共通費という項目も存在します。
この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。
結論から言えば、共通仮設費は共通費の一部に含まれるものです。
共通費とは、実際に建設する建物以外にかかる費用全般を指します。
仮設物の設置にかかる共通仮設費以外にも、管理職の給与や福利厚生費などが共通費に含まれる主なコストです。
建設工事費に関する記事はこちら
共通仮設費の内訳
一つの工事を完了させるためには、多くの仮設物を設置しなければなりません。
そのため、共通仮設費は比較的高額になることが多いです。
では、共通仮設費は具体的にどのような項目で構成されているのでしょうか。
ここから詳しく見ていきましょう。
準備費
工事現場はいつも更地というわけではありません。
雑草が生えていたり、地面に石が混ざっていたり、廃棄物が放置されていることもあります。
工事を進めやすい環境に整備するための費用は、準備費として共通仮設費に含まれます。
仮設建物費
前述の通り、仮設事務所や仮設トイレの設置費用は、共通仮設費の代表的な項目です。
しかし、仮設物は設置するだけではなく、工事が終われば撤去しなければなりません。
これらの仮設物の解体・撤去費用も、共通仮設費に含まれています。
工事施設費
高層ビルを建設する際には、足場の設置が不可欠です。これらの足場は工事が終われば撤去されるため、共通仮設費に含まれます。
さらに、工事現場と一般道を隔てるための仮囲いや、作業員同士が連絡を取るための通信設備なども、工事施設費として共通仮設費に含まれる項目です。
環境安全費
工事現場では、火災が起こる危険性が常に存在します。
そのため、建設会社は火災が発生した際にすぐ消火できるような設備を整える義務があります。
こうした消火設備の設置にかかる費用が、環境安全費として共通仮設費に含まれます。
動力用水光熱費
工事は、時には夜遅くまで続くことがあります。
そのため、工事現場には電気設備を整える必要があります。この費用も共通仮設費に含まれます。
もちろん、電気代も発生します。また、作業員への給水や建築物の洗浄のために、水道設備も設置しておかなければなりません。
動力用水光熱費は、工事に必要なエネルギーや水にかかる費用を指します。
屋外整理清掃費
工事現場では、常にごみや廃棄物が発生します。
これらの廃棄物を適切に処理するためには、一般的にトラックでの輸送が必要です。この輸送費も共通仮設費に含まれます。
さらに、工事現場を安全かつ清潔に保つためには、定期的な清掃作業が求められます。これには清掃道具の購入や、清掃業者への委託費用が含まれる場合があります。
したがって、屋外整理清掃費は、工事の進行をスムーズにするために欠かせない費用となります。
機械器具費
工事をスムーズに進めるためには、さまざまな機械や器具が欠かせません。 これらの機械や器具は、一見すると直接工事費に含まれるように思えるかもしれません。
しかし、これらの機械器具も工事が終わった後に現場から回収されるため、共通仮設費に含まれます。
具体的には、クレーンやブルドーザー、発電機などが代表的な機械器具にあたります。
これらは工事の効率を高めるために必要であり、適切な使用と管理が求められます。
また、機械器具の使用に伴う保守点検やメンテナンスの費用も、共通仮設費に含まれることがあります。
その他
建物を建てる際には、鉄材や鋼材などの材料が必須です。
しかし、こうした材料を現場に搬入したからといって、すぐに使うのは軽率です。
実際に、これらの材料が適切に使用できるかどうか、品質をチェックする必要があります。この品質検査にかかる費用も、共通仮設費に含まれます。
さらに、検査に伴う管理や手続きのための人件費、必要な機器のレンタル費用なども考慮する必要があります。
これらの費用は、全体の工事費用に影響を与えるため、適切な予算計画が重要です。
原価管理に関する記事はこちら
共通仮設費の計算方法
工事を円滑に進めるためには、共通仮設費の正確な把握が不可欠です。しかし、これを計算する方法は一つではありません。
具体的な項目ごとに細かく費用を積み上げる方法から、効率的に全体を見積もるための共通仮設費率の活用まで、多様なアプローチがあります。
ここでは、これらの計算方法を詳しく解説し、自社の工事計画に役立つ実践的な知識を提供します。
方法① 8項目それぞれの費用を積み上げる
共通仮設費は、おおまかに分けて8項目に分類されます。
これらの項目をそれぞれ具体的に算出していく必要があります。
例えば、準備費はこのくらい、仮設建物費はこのくらいといった具合に、各項目の費用を詳細に計算してください。
すべての項目の計算が終わったら、それらをすべて足し合わせます。
これによって、全体の共通仮設費が導き出されるでしょう。
方法② 共通仮設費率を活用する
先ほどのすべての仮設費を足し合わせる方法は確実で間違いありませんが、各項目を逐一確認して計算するのは手間がかかります。
もしこの方法が面倒だと感じる方は、共通仮設費率を利用した計算方法が便利です。
共通仮設費は、直接工事費に共通仮設費率をかけて、その後にその他の雑費を加えることで簡単に算出できます。
ただし、共通仮設費率はすべての工事に一律ではなく、工事の種類によって異なるため、注意が必要です。
【工事別】共通仮設費の計算式
工事を成功させるためには、適切な予算管理が欠かせません。その中でも、共通仮設費は重要な要素の一つです。
しかし、工事の種類によって必要な費用は大きく異なるため、それぞれの工事に特化した計算方法を理解することが重要です。
そこで、新営建築工事から昇降機設備工事まで、各工事ごとの共通仮設費の計算式を詳しく解説します。
正確な計算方法を理解することで、無駄なコストを削減し、効率的な工事計画を立てる手助けとなるでしょう。
新営建築工事
新営建築工事とは、建物を一から組み上げていく工事のことです。
この工事における共通仮設費は、建設現場の運営に必要なさまざまな仮設物や設備を含む重要な費用です。
新営建築工事の共通仮設費率は「Kr = Exp(3.346 – 0.282 × loge P + 0.625 × loge T)」です。
ただし、直接工事費Pが1,000万円〜50億円の範囲を外れる場合は共通仮設費を別途定めることができます。
※国土交通省「公共建築工事共通費積算基準(令和6年改定)」から引用
改修建築工事
改修建築工事は、既存の建物を残しながら部分的な改修を施していく工事のことです。
改修建築工事の共通仮設費率は「Kr = Exp(3.962 – 0.315 × loge P + 0.531 × loge T)」です。
ただし、直接工事費Pが300万円〜10億円の範囲を外れる場合は共通仮設費を別途定めることができます。
※国土交通省「公共建築工事共通費積算基準(令和6年改定)」から引用
新営電気設備工事
新営電気設備工事とは、新たに建設される建物に電気設備を設置する工事を指します。
この工事では、照明、電源、配線、制御装置などが含まれ、建物の機能性や安全性を確保するために欠かせない作業です。
新営電気設備工事の共通仮設費率は「Kr = Exp(3.086 – 0.283 × loge P + 0.673 × loge T)」です。
ただし、直接工事費Pが1,000万円〜10億円の範囲を外れる場合は共通仮設費を別途定めることができます。
※国土交通省「公共建築工事共通費積算基準(令和6年改定)」から引用
改修電気設備工事
改修電気設備工事は、既存の建物における電気設備の改善や修理を行う工事です。
主な目的は老朽化した設備の更新と機能向上で、「設備点検」「配線更新」「機器交換」「新機能追加」といった作業が含まれます。
改修電気設備工事の共通仮設費率は「Kr = Exp(1.751 – 0.119 × loge P + 0.393 × loge T)」です。
ただし、直接工事費Pが300万円〜10億円の範囲を外れる場合は共通仮設費を別途定めることができます。
※国土交通省「公共建築工事共通費積算基準(令和6年改定)」から引用
新営機械設備工事
新営機械設備工事は、新しい建物に空調や給排水設備、電気機器を導入する工事です。
この工事では、配管や電気配線を新たに施工し、設置した機器の試運転を行います。
新営機械設備工事の共通仮設費率は「Kr = Exp(2.173 – 0.178 × loge P + 0.481 × loge T)」です。
ただし、直接工事費Pが1,000万円〜10億円の範囲を外れる場合は共通仮設費を別途定めることができます。
※国土交通省「公共建築工事共通費積算基準(令和6年改定)」から引用
改修機械設備工事
改修機械設備工事は、既存の建物内で機械設備の改善や修理を行う工事です。
この工事では、古くなった空調や給排水設備を更新し、機器のメンテナンスや交換を通じて機能を向上させます。
また、省エネルギー性能の向上や新しい技術の導入も目的とし、より快適で効率的な空間を提供します。
改修機械設備工事の共通仮設費率は「Kr = Exp(2.478 – 0.173 × loge P + 0.383 × loge T)」です。
ただし、直接工事費Pが300万円〜10億円の範囲を外れる場合は共通仮設費を別途定めることができます。
※国土交通省「公共建築工事共通費積算基準(令和6年改定)」から引用
昇降機設備工事
昇降機設備工事は、エレベーターやエスカレーターなどの昇降機を設置する工事です。
この工事では、安全性や効率性を重視し、設計から施工まで一貫して行います。
工事完了後には、必要な試運転や安全検査を行い、正式に運用開始されます。
昇降機設備工事の共通仮設費率は「Kr = Exp(4.577 – 0.323 × loge P)」です。
ただし、直接工事費Pが500万円〜5億円の範囲を外れる場合は共通仮設費を別途定めることができます。
※国土交通省「公共建築工事共通費積算基準(令和6年改定)」から引用
原価管理システムに関する記事はこちら
まとめ
共通仮設費は、工事を円滑に進めるために必要不可欠な費用であり、その内訳や計算方法を理解することが重要です。
正確に算出するためには、各項目の費用を積み上げる方法や共通仮設費率を用いる方法がありますが、これらの計算は手間がかかる場合が多いです。
そのため、効率よく正確な計算を行うには、会計ソフトの活用が非常に有効です。
適切な予算管理が工事の成功につながるため、これらの情報を基に、より良い工事計画を策定していきましょう。
建築業向けの管理システム「アイピア」
アイピアは建築業に特化した一元管理システムであり、顧客情報、見積情報、原価情報、発注情報など工事に関する情報を一括で管理できるため、情報集約の手間が削減されます。
さらに、アイピアはクラウドシステム。外出先からでも作成・変更・確認ができます。
アイピアはここが便利!6つのポイント
原価管理の基礎に関する記事
- 【建設業向け】原価管理とは?その目的とメリットを簡単にご紹介。
- 知っておきたい原価計算の基礎知識から計算方法まで詳しく解説!
- 原価管理をきちんと行うためのABC(活動基準原価計算)計算方法やメリットも解説
- 【リフォーム業界向け】原価計算書を作成して粗利率低下を防止
原価管理ソフト(システム)に関する記事
“社内のデータを一元管理”工務店・リフォーム会社が選ぶ!
建築業向け管理システム
Aippear(アイピア)