「レジリエンス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
回復力という意味を持つこの言葉が、今建設業界の中で注目されています。
ここでは、なぜ建設業界でレジリエンスが注目されているのか、またどのような効果やメリットがあるのかなどについて詳しく見ていきます。
目次
レジリエンスとは?
『レジリエンス(resilience)』とは、もともとは外側から力を受けた時の『回復力』や『弾力(しなやかさ)』、『適応力』といった意味を持つ言葉です。
ここから転じて、ビジネス用語としては、仕事がうまくいかなかった時や精神的に大きなダメージを受けた時に、その状況を克服して立ち直るための力という意味で使われます。
ビジネスマンの中には、レジリエンスを以下でご紹介する言葉と混同しているケースも多く見られますが、レジリエンス力を高めるためにも、違いを正確に理解しておきましょう。
メンタルヘルスとの違い
心を健康に保つという意味では『メンタルヘルス』という言葉が思いつく方もいるかと思いますが、レジリエンスとメンタルヘルスとは異なります。
メンタルヘルスは、心の健康そのものを指します。
メンタルヘルスを保つには、普段からのストレスチェックや産業医による心理的負担軽減のためのサポート、職場環境の改善などがメインであり、ストレスが大きなものとなる前にいかに予防するのかが重要です。
一方、レジリエンスは大きなストレスを与えられて一度心が折れてしまった時に、どのように対応するのか、その回復力を意味します。
ストレスコーピングとの違い
『ストレスコーピング』もレジリエンスと混同されることの多い言葉です。
コーピングは、対処する・処理するといった意味の言葉で、ストレスコーピングとは『ストレスを受けた時にいかにうまく対処してストレスを軽減するか』というセルフケアの一つの方法です。
具体的には、ストレスの原因そのものに働きかけてストレスを遠ざける『問題焦点コーピング』、ストレスの原因ではなくストレスの感じ方や考え方を変えることでストレスを軽減しようとする『情動焦点コーピング』、ストレスを発散するために気分転換を図る『ストレス解消型コーピング』などがあります。
ストレスを受けた時の回復力や適応力を高めるレジリエンスとは性質が異なるストレスケアです。
ストレス耐性との違い
『ストレス耐性』とは、ある個人がストレスを感じた時に、その人が肉体的・精神的にどこまでストレスに耐えることができるのかを示すレベルのことです。
ストレス耐性が高ければより負荷の大きいストレスに耐えることができますし、ストレス耐性が低ければわずかなストレスでも心や体を病んでしまうことがあります。
このストレス耐性は、レジリエンスを構成している一つの要素ではありますが、レジリエンスとイコールではありません。
ハーディネスとの違い
『ハーディネス』とは、非常に強いストレスがかかった状況下においても、健康な肉体的・精神的状態を維持することができる性格的な特性のことです。
高いハーディネス特性を持つ人は、ストレスに対して圧倒的な防御力を有しているため、強いストレスに対しても逃げることなく立ち向かっていき、跳ね返してしまいます。
一方、レジリエンスは強いストレスを受けて傷付いてしまったとしても、そこから回復するための力という意味で使われます。
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レジリエンスの因子
レジリエンスを正確に理解するために欠かせない要素に、『危険因子』と『保護因子』の2つがあります。
本来は医療の現場で用いられることの多い言葉ですが、レジリエンスを考えるうえでも非常に重要な要素です。
危険因子
レジリエンスにおける危険因子とは、『ストレスをもたらす原因』のことです。
具体的な例としては、戦争や災害といった大規模な出来事から、病気や貧困、いじめや虐待といった個人に関する出来事までさまざまなものがあります。
保護因子
危険因子とは逆に、困難な状況やストレスを乗り越えて立ち直りを促してくれるのが『保護因子』です。
ポジティブな性格や考え方などの個人的な特性、周囲にサポートしてくれる家族や友人がいるといった環境、職場や地域コミュニティでの人間関係などが挙げられます。
レジリエンスを高めるためには、この保護因子がとても大切になります。
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レジリエンスを高める6つのコンピテンシー
では、レジリエンスを高めてストレスから上手に回復することのできる能力を身につけるためにはどうしたら良いのでしょうか。
そのためには、次の6つの要素(コンピテンシー)を意識することがとても大切です。
自己認識
1つ目の要素は『自己認識』であり、自分という人間がどのような人間であるのかを正確に理解しておくことを指します。
人はそれぞれ性格が違いますし、長所・短所、価値観、行動パーターンも異なるため、たとえ同じ状況に身を置いていても採るべき対応は変わってきますが、あらかじめ自分の軸というものが決まっていれば、客観的な判断のもとでレジリエンスのための正確な行動を取ることが可能になるでしょう。
逆に自己認識が十分でなければ周囲の人々の価値観や考え方に影響され、より大きなストレスを受けることになってしまいます。
セルフコントロール
セルフコントロールは、自己の感情・思考・行動をコントロールすることです。
大きなストレスがかかれば、どうしてもイライラして感情的になりがちです。
このような状況では物事を冷静に対処することが難しくなりますし、周囲と良い関係を構築することもできなくなります。
困難な状況の時ほどセルフコントロールを心がけ、冷静さを取り戻すことがレジリエンスを高めるために重要な要素となります。
自己効力感
『自己効力感』という言葉は、簡単に言えば「自分には目標を達成するために必要な能力があるんだ」と認識することです。
つまり、「自分ならこの困難な状況も乗り越えることができる」と信じることができるという強い信念を意味します。
この強い信念があることでむやみに他人と比べずに、レジリエンスのために必要な行動を、自信を持って実行することができます。
現実的楽観性
『現実的楽観性』とは、必ず成功できると信じ、そのために最大限の努力をすることです。
人間誰しも困難な状況に身を置けば思考がネガティブになりがちですが、それでは前に進むことができません。
不安感に打ち勝つための楽観的な思考を持つことがレジリエンスではとても重要です。
そのためにも、普段から状況を冷静に分析したうえで正しいプランや戦略を立てることのできる能力を養っておきましょう。
精神的柔軟性
『精神的柔軟性』とは、物事をさまざまな角度から捉え、状況の変化に応じて多様な視点で現実を分析することのできる力です。
困難な状況ではネガティブな面だけが強調されがちですが、精神的柔軟性を持つことで状況をポジティブ・ネガティブ両面から客観的に把握することができるので、ストレスに対して正しく対応することができます。
人とのつながり
自分一人の力だけではとても乗り越えることができそうもない困難に直面しても、周囲の人々のサポートがあれば乗り越えられるかもしれません。
普段から周囲の人々と良好な人間関係を構築しておけば、困難に直面した時にはお互い助け合うことでレジリエンスを高めることが可能になります。
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建設業においてレジリエンスが注目される背景
レジリエンスという考え方は、多くの業界で取り入れられていますが、とりわけ建設業において注目される背景には、建設業界の慢性的で深刻な人手不足があります。
せっかく若い従業員が入ってきても、仕事で失敗したストレスからすぐに辞められてしまっては、いつまで経っても労働力を確保することができません。
そのため、たとえ困難な状況に置かれても、その状況を克服するための能力を養うことが業界全体で求められています。
また、レジリエンスを高めることによって仕事に対してポジティブに取り組むようになるため、仕事の効率を高めることやヒューマンエラーによる労災の予防にも効果が期待できます。
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建設業におけるレジリエンス向上のメリット
建設業において従業員のレジリエンスを高めることで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
従業員の心身の健康を維持できる
「病は気から」と言われるように、過度のストレスは心身のバランスを崩し、体調の不良を引き起こします。
うつ病など深刻な症状を引き起こすこともあるため、ストレスからいち早く回復できるようにレジリエンスを高めることは、従業員の健康を守り、離職率の低下にもつながります。
社会の変化に柔軟に対応できる
建設業界の変化は目まぐるしいものがあり、市場で求められるものも日々刻々と変化しています。
このような激しい変化の中で競争に打ち勝つためには、柔軟な対応が求められますし、リスクへの対応も不可欠です。
もし変化に対応しきれずにダメージを受けてしまっても速やかに回復することができる能力を養うこともレジリエンスを向上させる目的の一つです。
企業イメージの向上につながる
近年は、企業のレジリエンスに対する取り組み方を一つの指標として捉えている投資家が増えています。
レジリエンスが高ければ、それだけ社会の変化やリスクに対する対応に長けていると考えられるからです。
レジリエンスの向上は、企業イメージの向上につながるだけでなく、投資を促進するという効果もあります。
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建設業が企業のレジリエンスを高める方法
これまでは、主に従業員のレジリエンスについて見てきましたが、企業全体においてもレジリエンスを高めることは重要です。
建設業において企業がレジリエンスを高める方法には次のようなものがあります。
自社ビジョンを明確にする
レジリエンスを高めるためには、自社のビジョンやミッションを明確に示して、従業員の間で共有することが大切です。
もしも市場に大きな変化が急激に起こったとしても、ビジョンやミッションが確立されていれば企業や従業員が進むべき方向性が明確化しているため、皆が同じ方向を向いて困難に立ち向かうことができるからです。
従業員のレジリエンスを高める
従業員一人ひとりのレジリエンスが向上していけば企業のレジリエンスも高まっていきます。
そのために、企業はマニュアルの作成や研修制度など必要なサポートを提供することが必要です。
チャレンジを積極的に評価する
環境の変化に速やかに対応するためには、新しい挑戦が必要になるケースも多いですが、失敗に対して厳しい風土のある企業では、従業員はミスを恐れて新しい試みにチャレンジすることを躊躇いがちです。
困難から素早く立ち直るためにもチャレンジを積極的に評価し、失敗を活かすことのできる企業風土を作ることが求められます。
BCPへの取り組みに力を入れる
BCPとは『事業継続計画』のことで、大災害やサイバー攻撃などによって事業に大きなダメージを負った際に、素早く事業を再開するために必要な対応策をあらかじめ計画しておくことです。
事業を再開するまでの時間が長くなればなるほど企業の受けるダメージも大きなものとなるため、万が一の事態に備えてシステムやガイドラインの入念な整備が求められます。
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まとめ
変化の激しい建設業界において常に成長を続けていくことは非常に難しく、時には困難な状況に陥ることもあるでしょう。
そのような状況において、いち早く立ち直り、再び企業として成長を続けていくために不可欠なのがレジリエンスの向上です。
レジリエンスを向上させることは、環境変化に強い企業としてのアピールにもなり、投資の促進を促す効果もあります。
企業は研修制度などを充実させて従業員一人ひとりがレジリエンスを高めることができるようにサポートすることが重要になるでしょう。
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