現代のビジネスシーンにおいて、リモートワークなど、現地にいなくても業務を行える働き方が増加しています。
遠隔臨場システムもその一例であり、地理的な制約を超越し、効率化と生産性向上の新たな地平を切り開くテクノロジーです。
特に建設業界や製造業、医療分野など、多岐にわたる業界で活用されています。
本記事では、その基本情報から実用例、導入メリットに至るまでを詳細に解説していきます。
遠隔臨場システムとは
遠隔臨場システムとは、ビデオ会議やVR技術を使用し、物理的な距離があっても一箇所にいるような体験を提供する技術です。
このシステムは、映像や音声、データをインターネットを通じて伝送することで、物理的な距離を超えて現場の状況を即座に共有できます。
また、遠隔教育、医療、建設、企業のテレワークなど多岐にわたる分野で活用されています。
遠隔臨場システムを理解し、活用することで、ビジネスの効率化や教育の質の向上など様々な分野での可能性が広がります。
国土交通省が遠隔臨場システムを推進する背景とは?
国土交通省が遠隔臨場を推進する背景には、建設業の人手不足と働き方改革の必要性が大きく関係しています。
監督員や技能者の高齢化が進む中、現場を何度も往復する負担を減らし、生産性を高める手段として遠隔臨場が注目されています。
また、国交省が進める「i-Construction」におけるデジタル化推進の一環として、映像による記録の標準化や品質管理の高度化を実現できる点も評価されています。
さらに、コロナ禍による非対面ニーズの高まりも後押しし、国交省は実証を経て公式に活用を推奨するようになりました。これらの理由から、遠隔臨場は“現場の新しい標準”として普及が進んでいます。
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国土交通省が策定した遠隔臨場システムの実施要領とは
国土交通省は、遠隔臨場を建設現場で適切かつ円滑に実施するために「遠隔臨場に関する実施要領」を策定しています。
この実施要領は、公共工事の品質・安全性を保ちながら、効率的に遠隔臨場を活用できるよう、必要な機材・通信環境・撮影方法・記録方法などを体系的にまとめたものです。
特に、遠隔臨場を行うために必須となる“3点セット”が明確に定義されており、全国の現場で統一的に活用できる基準として機能しています。
遠隔臨場に必要な「3点セット」
- ライブ映像(動画)によるリアルタイム確認
現場の状況をリアルタイムで監督員が確認できるよう、スマートフォンやウェアラブルカメラなどでライブ映像を配信することが求められます。映像は対象物が適切に識別できる画質・角度・光量である必要があり、検査に支障のないレベルでの鮮明さが必要です。 - 静止画(写真)の撮影・共有
検査記録として残すため、静止画による証跡の撮影が必要です。撮影した写真は、日付・位置・内容が明確に分かるように撮影し、共有できることが条件となります。後日の確認やトラブル防止のため、適切な保管も求められます。 - 図面・仕様書など資料の共有
施工図、仕様書、検査基準書などの資料を画面共有やシステム上で相互に閲覧できることが求められます。遠隔でも対面と同等の判断ができるよう、必要資料をその場ですぐに参照できる環境が必要です。
実施要領で定められているその他のポイント
- 安定した通信環境の確保
映像や音声が途切れると検査に支障が出るため、事前の通信チェックやルーターの準備などが必要とされています。 - 記録の保存義務
遠隔臨場で使用した映像・写真・共有資料は、必要に応じて記録として残し、後日確認できる形で保管することが求められます。 - 遠隔臨場の適用範囲の明確化
遠隔臨場は全工程に適用するものではありません。品質・安全性に支障がない範囲に限定し、必要に応じて対面との併用を行う形が基本となります。 - 実施前の合意形成
発注者と受注者の間で、遠隔臨場の対象工程、使用機材、進め方、記録方法などについて、事前に合意しておくことが求められています。
遠隔臨場システムの導入メリット
遠隔臨場システムの導入のメリットはなんでしょうか。
ここでは、建設業を想定したメリットを三つ紹介していきます。
遠隔臨場システム導入のメリット
- コスト削減
- 安全管理
- 品質保証
以下で詳しくみていきましょう。
コスト削減と効率化
隔臨場システムはコスト削減と効率化に役立ちます。
現場へ向かうことに多い建設業の人々の移動時間や人員の配置減による経費削減が期待できるからです。
また、その時間を作業にあてることができるため、業務の効率化も図ることができます。
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安全管理の向上
遠隔臨場システムは、安全管理の局面でも役立ちます。
現場作業のリアルタイム監視を可能にし、万一の事故や異常が発生した際にすぐに対応できる体制を整えることができるからです。
例えば、建設現場や工場の安全監査員が、リモートで映像をチェックし、安全規則の遵守状況を確認したり、緊急時の迅速な判断を下すことが効率化をもたらします。
また、危険な作業を遠隔から監視することで、作業員の安全を確保し、事故のリスクを大幅に軽減できます。
安全管理の責任者は、時間と場所の制約なく状態を視認できるため、対策の質と速度が向上し、結果的に生産性の向上にも寄与します。
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品質保証
遠隔臨場システムは、品質保証の観点から見ても役立ちます。
作業現場の映像やデータを即座に分析し、問題が発生した際には迅速に対処が可能になるからです。
これにより、作業の正確性を高め、安全管理を強化することに寄与し、品質の維持と向上が図れます。
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遠隔臨場システムの課題
上述の通り遠隔臨場システムにはメリットがある一方で、導入現場からは「上手く使いこなせない」「運用が大変」といった声も多く、実際の現場で活用するにはいくつかの課題が浮き彫りになっています。
ここでは、遠隔臨場システムの代表的な課題を3つに整理し、それぞれ詳しく解説します。
① 現場状況の“伝わりにくさ”と情報精度の限界
遠隔臨場はカメラ越しで現場を確認するため、実際の臨場と比べて細かなニュアンスや空気感、周辺の安全状況まで把握しきれないケースがあります。
映像の角度・画質・光量によって確認精度が左右され、重要ポイントの見落としにつながるリスクも存在します。
特に配筋・コンクリート品質の確認のように細部の判断が求められる場面では、カメラ操作の依存度が高くなり、撮影者の技量によって情報の正確性が変わってしまう点が大きな課題です。
② 通信環境への依存度が高く、途切れ・遅延が発生するリスク
遠隔臨場システムは、安定した通信環境が前提となるため、現場の電波状況が悪いと映像の遅延・音声の乱れ・接続切断が発生する可能性があります。
これにより、検査の進行が止まる、確認が不十分なまま判断が下されるといった運用トラブルが生じやすくなります
また、建設現場は多くが山間部や地下など通信が不安定な環境にあるため、通信機器の追加設置やルーターの携行が必要になるなど、現場側の負担が増える点も課題です。
③ 現場担当者の負担増とシステム運用の複雑さ
遠隔臨場は省人化が期待される一方で、現場の担当者がカメラ操作・撮影ポイントの調整・機材準備など、従来の検査にはなかった業務を担う必要があります。
特に初導入時は「どの角度で撮るべきか」「どこまで映すべきか」といった判断に迷い、検査時間がかえって長引く場合もあります。
また、システムの操作に不慣れだと接続トラブルの対応に時間が奪われ、業務効率が下がることも少なくありません。機材・アプリの使い勝手や現場教育が課題となります。
遠隔臨場システムの選び方と導入ステップ
遠隔臨場システムには、メリットが沢山あることをご説明してきました。
ここでは、遠隔臨場システムの導入ステップとポイントをご紹介していきます。
- システム選定
- 計画立案
- システム導入
システムの選定
遠隔臨場システムを選択する際には、明確な選定基準を設けることが肝要です。
初めに、必要な機能性を洗い出し、運用目的に最適なシステムをリストアップしましょう。
- ユーザビリティ
- セキュリティ
- 拡張性
- サポート体制
- 費用対効果など
次に、コストパフォーマンスを評価します。
初期導入費用だけでなく、ランニングコストも含めた総コストを把握し、予算内で最大の効果が得られるシステムを選ぶ必要があります。
スムーズな導入のための計画立案
遠隔臨場システムの導入によって、事業の効率化を大きく促進させる鍵は計画立案にあります。
導入目的の明確化、ステークホルダーとのコミュニケーション、導入スケジュールの設定、リスク管理計画の策定が必要です。
導入時とその後の運用
遠隔臨場システム導入時は、初期セットアップだけでなく、従業員へのトレーニングにも注力しましょう。
デジタルに苦手を意識を持つ社員もいるので、カバーしていく必要があります。
継続的なシステム評価を通じて、最適化を図りましょう。
遠隔臨場に利用できるおすすめツール
遠隔臨場を円滑に実施するには、用途に合ったツール選定が欠かせません。
映像の鮮明さ、通信の安定性、記録の保存方法など、遠隔臨場特有の要件に対応しているかどうかを事前に確認する必要があります。
本章では、国土交通省の実施要領に対応し、現場でも使いやすい“おすすめの遠隔臨場ツール”をわかりやすく紹介します。
ウェアラブルカメラ「Safie Pocket」

「Safie Pocket」は、クラウド録画機能付きのウェアラブルカメラで、建設・土木などの現場での“遠隔臨場”や安全パトロールに活用されています。軽量かつコンパクトで、装着または三脚設置で利用でき、ライブ映像・音声の双方向通信・静止画撮影などが可能。映像はクラウドに保存され、あとから確認・ダウンロードもできます。
導入実績としては、NEXCO東日本 の道路工事現場での遠隔臨場に活用されたほか、玉名市 における橋梁メンテナンス現場でも導入されており、特に「移動時間の削減」「遠隔確認による業務効率化」で成果が報告されています。
使いやすさの面では、本体が手のひらサイズでありながら、LTE 内蔵で電源や回線を別途準備する必要がなく、屋外や通信環境が整っていない現場でも比較的容易に導入できる点が強みです。また、2023年には「遠隔臨場モード」を追加 — 監督員の映像をワイプで記録に含められるようになり、証跡性・信頼性も向上しています。
システムの特徴・利点
- 現場と本部をリアルタイムでつなぐ「映像 + 通話 + 録画」機能
- コンパクト & 屋外対応 — 現場の多様な環境に適応
- 国の「遠隔臨場」要領に適合 — 公共工事でも使いやすい
| 機能 | ライブ映像+通話機能、クラウド録画・保存機能、静止画撮影、タイムラプス、長時間撮影、モバイル給電、位置情報(GPS)連携 |
|---|---|
| 初期導入費用 | 要お問合せ |
| 保守・更新費用 | 要お問合せ |
| 無料・体験版 | あり |
| サポート体制 | 電話対応 フォーム サポートサイト |
| 運営会社 | セーフィー株式会社 |
遠隔臨場システム「RICOH Remote Field」

「RICOH Remote Field」は、360°カメラやウェアラブル端末を使って、建設現場の映像をリアルタイムで4K/360°映像として遠隔地に配信できる遠隔臨場システムです。
現場を「まるでそこにいるかのように」確認でき、公開されている導入事例としては、安藤・間 が全国約270現場で社内標準ツールとして採用しました。
また、滋賀県建設技術センター など地方自治体・中小規模施工者でも導入され、山間地など通信環境が厳しい現場でも360°映像+高精細映像で遠隔確認が可能になっています。
使いやすさの面では、ブラウザだけで映像を閲覧できる「インストールレス」、撮影中の静止画撮影や録画保存、マルチ画面共有、遠隔でのデバイス制御など多機能を備えつつ、機材を起動するだけで配信可能というシンプル操作が評価されています。
継続的な安全パトロールや品質管理、遠隔点検において、“手軽さ × 高画質 × 安定通信” を兼ね備えた実用的なソリューションです。
システムの特徴・利点
- 360°/4K映像で現場を丸ごと“見える化”できる
- 専用アプリ不要で、ブラウザだけで即利用可能 — 導入が容易
- 全体像と詳細ビューの同時確認 — 柔軟で効率的な遠隔検査が可能
| 機能 | 360°/4K 高画質ライブ映像配信、複数カメラの映像共有、遠隔映像のマイク設定及び配信制御、録画・静止画保存 |
|---|---|
| 初期導入費用 | 要お問合せ |
| 保守・更新費用 | 要お問合せ |
| 無料・体験版 | あり |
| サポート体制 | 要お問合せ |
| 運営会社 | 株式会社リコー |
遠隔臨場システム導入事例
建設現場における「遠隔臨場システム」の導入が進む中、多くの企業や自治体で実績が報告されています。遠隔臨場を活用することで、現場立会いや移動にかかる時間を削減しつつ、安全・品質管理の効率化を実現しています。ここでは代表的な導入事例を紹介します。
大林組:橋梁工事における遠隔臨場
大林組では、橋の床版取替え工事などでRICOH Remote Fieldを導入しました。
現場に常駐せずとも、リアルタイムで映像や音声を確認できるようになり、安全管理や施工確認の効率が向上しました。
特に現場担当者が遠隔で映像を配信し、監督員が本部から指示を出す運用が可能となっています。
西松建設:トンネル工事の遠隔見学会
西松建設は長距離トンネル工事で、360°カメラとVRを活用した遠隔見学会を実施しました。
現場に行かずとも関係者や地域住民が施工状況を確認でき、施工管理と地域説明を同時に実現しました。
過酷な環境でも遠隔で状況確認が可能となり、工事効率の向上に貢献しています。
滋賀県建設技術センター:インフラ点検の効率化
滋賀県建設技術センターでは、地域インフラの維持管理や点検業務に遠隔臨場システムを導入。360°映像と高画質カメラを組み合わせることで、遠隔地からでも現地とほぼ同等の確認が可能になりました。これにより、中小規模の施工者や地方自治体でもコストを抑えつつ効率的に運用できるようになっています。
建築業向けの管理システム「アイピア」
アイピアは建築業に特化した一元管理システムであり、顧客情報、見積情報、原価情報、発注情報など工事に関する情報を一括で管理できるため、情報集約の手間が削減されます。
さらに、アイピアはクラウドシステム。外出先からでも作成・変更・確認ができます。
アイピアはここが便利!6つのポイント
まとめ
遠隔臨場システムは、業界変革における大きな波となり、持続可能な開発への道を拓く鍵として期待されています。
このシステムにより、効率的な運用、コスト削減、環境への負担軽減が実現され、未来のビジネスモデルを形作る基盤が築かれつつあるのです。
ぜひ導入を検討してみてください。
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