建築業界で働いていると、たまに「グロス」や「ネット」といった言葉に出くわします。
これ自体は食品業界やマーケティング業界などで使われる一般的な言葉なのですが、建築業界ではやや違った使われ方をしていることをご存じでしょうか。
ですので、他の業界の方と交渉する際は認識の違いが生まれないように交渉を進める必要があるでしょう。
混同しないように、ひとつひとつの言葉の意味を解説していきますので、しっかりと覚えるようにしましょう。
グロスとは
grossは英語で「全体」や「総体」を意味する言葉です。
ビジネス業界ではプロジェクトにかかる金額の総計、という意味で使われることが多いです。
たとえば、広告を出稿する際に、これだけのグロスがかかったと言う時は、広告料や手数料を含めた総計の値段をグロス価格としています。
建築業界においてもおおむね同じ意味で使われることが多いです。
たとえば、一つの建物を作る時、人件費や材料費、工費、それから手数料などをすべてひっくるめた値段を総工費と言います。
総工費=グロス価格と考えても差し支えないでしょう。
また、建築業界では見積もりを出すことが必須ですが、この時にもグロス価格を提示するのが一般的です。
グロス価格はこれくらいかかるがどうか、と顧客に提示したうえで、もう少し値引きできないだろうか、などと交渉し、実際に支払うべき金額が決まっていきます。
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マージンとは
marginは英語で差額、余裕などを意味する言葉です。
物を販売するにあたっては売り手と買い手の間に仲介業者がいるのが普通です。
たとえば、野菜を売買するとしましょう。
野菜の生産者と消費者の間には、卸売業者やスーパーなどの仲介業者が入ります。
この卸売業者やスーパーが得る仲介料こそがマージンです。
この仲介の過程で値段が高くなっていき、消費者に届くころには元の値段の何倍の価格にもなっている、というケースは珍しくありません。
あるいは、本当は100万円を払っているのに、たくさんの仲介業者を経た結果、50万円分の仕事しかしてくれなかったというケースもあるでしょう。
そのため、何かとマージンは忌み嫌われがちです。
実際、小売業界などでは値段を安くするためにマージンを少なくして消費者に届けようとする商品も増えてきました。
マージンの少ない商品は、海外では一般的ですが、日本でも徐々にこうした流れが取り入れつつあります。
もしかしたら将来的にはマージンそのものがなくなるかもしれません。
建築業界におけるマージン
とはいえ、建築業界においてはマージンは依然としてなくてはならないものです。
なぜかといえば、一つの建物を作るには多くの建材や人材を必要とするからです。
建築を請け負う元請け業者だけでは人材や建材が足りないので、下請業者に協力を要請するというケースが建築業界では普通です。
マージンの仕組みをうまく利用して利益をかすめ取ろうとする悪徳業者はどの業界にも存在します。
建築依頼を出す際には、仲介業者によってマージンが正当な理由で取られているかを確かめる必要があるでしょう。
グロスとネットの違い
グロスとネットはセットで語られやすい言葉です。
では、具体的な違いはどこにあるのでしょうか。
まず、ネットはいろいろな意味がある単語ですが、ビジネス業界では正味や実質、といった意味で使われることが多いです。
食品業界ではグラム数の横に「NET」という言葉が併記されていることがありますが、あれを例に取ればわかりやすいでしょう。
たとえば、お米に「NET1kg」という言葉が記されていれば、それは袋の重さを抜いたお米だけの重さが1kgということを意味します。
これと同じように、ビジネス業界では手数料などを抜いた正味の値段をネット価格と呼んでいます。
建築業界においても、先ほど述べたようにマージンと呼ばれる手数料は取らなければいけません。
そのため、ネット価格は手数料を引いた人件費や建材費などを指します。
建築業界におけるネット
ただし、建築業界でのネットは、それとはやや違ったもう一つの意味で使われることもあるということを踏まえておかなくてはいけません。
建築業界においてネット価格という時、グロス価格(総工費)はこのくらいだが、場合によってはこのくらい値引きできる、という意味で提示されることが少なくありません。
実際にはこのくらいの総工費を取りたいが、お客様の都合も考えてこのくらいで納めましょう、という意味で使われるケースが多いです。
そのため、グロス価格は業者が本当に支払ってほしい金額、ネット価格は顧客との兼ね合いを考えて提示する金額、と覚えておいたほうが良いでしょう。
このように、ネットは2つの意味で使われるやや紛らわしい言葉です。
実際に建築業界の方と交渉する際には、どちらの意味で使われているかを質問しながら話を進めていきましょう。
グロス、ネット、マージンの算出方法
ここまでグロス、ネット、マージンという言葉について詳しく説明してきました。
これを踏まえて、実際に見積もりが来た際に、グロス価格のうちどれくらいマージンが取られているのか、ネット価格はどれくらいなのか、といったことを算出するようにしましょう。
たとえば、古くなった建物の解体を依頼したとします。
依頼内容を受け取った業者が、後日見積もりを出して1,100万円の値段を提示してきたとしましょう。
そこにはグロス価格が1,100万円で、手数料は10%であると書かれていたとします。
では、ネット価格とマージンはいくらになるでしょうか。
ネット価格の計算式としては、1100(万円)÷1.1なので、1,000万円です。
マージンはグロス価格からネット価格を引くことで導き出されるので、100万円です。
初めのころはグロスとはなんなのか、ネットとはどういう意味か、と混乱してうまく算出できないケースもあるでしょう。
しかしながら、一つひとつの言葉の意味をしっかり理解できれば算出も簡単になります。
こうした算出方法を踏まえたうえで見積書を読むと、スムーズに交渉を進められるようになるでしょう。
グロスかネットか確認しよう
建築業界において、見積書を出す時に明確なルールはありません。
実際に見積金額を出す際に、グロス価格を提示するのかネット価格を提示するのか、それとも両方提示するべきなのか、といった決まりはないです。
業者の裁量に任されているというのが現状でしょう。
そのため、実際に建築業者に見積もりを依頼する際には、実際に出された金額がグロス価格なのか、それともネット価格なのかをしっかりと確認しなければいけません。
確認をした方が良いケースを以下で見ていきましょう。
CASE01 グロス価格かネット価格かわからない場合
たとえば、見積もりで1,000万円提示されたとしましょう。
建築業者に騙そうという意思はなく、工賃や手数料はすべて明確に記載されています。
もちろん、その価格に納得がいけばそのまま了承しても良いのですが、やはりなるべくならコストは押さえたいところです。
その場合は遠慮なく、この価格はグロス価格ですか、と質問してみましょう。
取引相手がそうだ、と言ったらもう少し値下げできないか、と交渉してみてください。
建築会社としても、交渉を決裂させて依頼を棒に振るよりは、多少値段が安くなっても依頼を受けたほうが良いので、聞く耳を持ってくれるはずです。
CASE02 グロス価格とネット価格の差がある場合
また、グロス価格とネット価格の差額があまりに大きすぎる場合は注意しなくてはいけません。
もちろん、中にはいろいろなコストカットを実施して、本当にネット価格を安く提示できる業者もあるにはあるでしょう。
しかし、普通に考えれば自分たちはこれくらい努力しました、とアピールするために、グロス価格を多めに見積もっている可能性が高いです。
その際は、材料費や人件費などに目を凝らしながら、本当にこのくらいかかるのか、と質問してみてください。
うまく説明できないようだったら、あまり信用のできない業者として交渉を打ち切ったほうが良いでしょう。
CASE03 用途が分かりにくい項目がある場合
また、中には用途がわかりづらい項目を作ったうえでグロス価格を引き上げようという業者も存在します。
建築業者と交渉する際には、事前に建築業界で使われる用語などにも精通しておいたほうが良いでしょう。
加えて、建築の世界では、常に予想外の事態が見舞われやすいことも忘れてはいけません。
たとえば、雨が長く続くと安全を考えて工事はストップしてしまいます。
その間もさまざまな形でコストがかかってしまいますが、これを建築業者が予想しながら見積もりを出しているかはしっかりとチェックしておきましょう。
もし事前にトラブルを予測していなかった中で見積もりを出していた場合、余計な請求を課せられるケースがあります。
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まとめ
マーケティング業界ではこういう意味で使われているけれど、建築業界では違った意味で使われている、という言葉は少なくありません。
今回取り上げたグロスやネットはその良い例と言えるでしょう。
自分たちの業界で使われている意味通りに話したつもりだったのに、取引先はそう捉えなかった、というケースは十分に生じ得ます。
それを防ぐためには、しっかりと話し合いを重ねながら、お互いの認識の齟齬をなくしていく必要があるでしょう。
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