今回は、営業職ならぜひ身につけておきたい「イエスセット」についてご紹介します。
様々な場面で活用されている技法です。この記事では、具体例を挙げて詳しく解説します。
イエスセットとは
イエスセットは、精神科医・心理学者であるミルトン・エリクソンが考案した心理技法の1つです。
エリクソンは催眠療法の権威であり、イエスセットも催眠技法の1つとして考案されました。
端的に言えば、「人は、相手の問いにイエス(はい)という肯定的な反応を繰り返すうちに無意識的に相手の存在そのものを肯定しはじめる」という性質を利用した相手と信頼関係を築いていくための心理テクニックです。
話は反れますが、この「催眠療法」。
決して人をだましたり良いように勧めるために生まれたものではありません。
人の潜在意識を呼び起こし、本人が意識下で自覚できていない問題を探るために使われるのが催眠療法なのです。
ぜひ一般教養として、「催眠とは怪しげなものではない」ことを理解してもらえると幸いです。
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3回以上の「イエス」を積み重ねる
話している相手からイエスを引き出すには、まずはイエスと言いやすい「当り障りのない質問」であれば簡単です。
例えば、「今日は暑いですね」「明日も暑いみたいですね」「夜も暑いと、寝苦しいですね」
このような質問に対して、「はい」「そうですね」という肯定的な返答を繰り返すだけでも効果があります。
バックトラッキング(おうむ返し)を併用する
バックトラッキングは、日本語では「おうむ返し」と呼ばれるもので、相手が言ったことをそのまま繰り返す話法のことです。
バックトラッキングを行うことで、相手の話をちゃんと聞いている、理解していることを伝えつつ、相手に「自分自身が発言した内容」を再認識してもらうことができます。
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なぜイエスセットは効果的なの?
では、なぜイエスセットは効果的なのでしょうか?ここで詳しく解説します。
一貫性の原理
人間は、一度「はい」と答えたことに対して一貫した行動を取りたいという心理的傾向があります。
これを「一貫性の原理(Consistency Principle)」と言います。
心理学者のロバート・チャルディーニによれば、人は自分の行動や言動が矛盾しないようにしたいという欲求が強いため、最初に小さな質問に対して「はい」と答えると、次に来る大きな要求にも「はい」と答える可能性が高くなるのです。
自己肯定感の維持
人間は、自分が他人と同意したり、肯定的な返答をすることで「自分は正しい選択をしている」と感じます。
イエスセットを使うことで、相手は最初に小さな肯定的な返答をすることになり、その後も自分の意見を肯定的に捉え続けやすくなるのです。
この自己肯定感を維持するために、相手は次の質問にも肯定的に答える傾向があります。
コミットメントと一貫性の心理
一度小さな「はい」を言わせることで、相手は無意識的にその行動を続ける義務を感じます。
心理学的には、最初の「はい」が小さくても、その後の要求が大きくなると、相手はその一貫性を保つために次も「はい」と答えやすくなるのです。
これは「コミットメントの一貫性」と呼ばれるもので、相手が一度答えたことに対して、その後も一致した行動を取る傾向を持つからです。
ポジティブな心理状態の強化
「はい」という返答をすることで、相手は自分がポジティブな状態にあると感じやすくなります。
最初に簡単で肯定的な質問をすることで、相手は心理的に「賛成」「合意」といったポジティブな感情を抱き、その後の提案や要求にもポジティブな態度で臨みやすくなるという現象が起きます。
このポジティブな心理状態が、次の行動に影響を与えます。
注意の集中とリズムの形成
イエスセットは、相手が「はい」と答えるたびに、そのリズムに乗ってさらに質問を続けやすくします。
このリズムが続くことで、相手は無意識に次の質問にも肯定的に答える準備をしてしまいます。
また、最初に「はい」と答えることで、相手は自分が意図的にコントロールされているとは感じにくくなります。
これはコミュニケーションの自然な流れとして認識されるため、抵抗感が薄れます。
認知的不協和の回避
認知的不協和とは、人が自分の考えや行動が矛盾していることに不快感を感じ、その不快感を解消しようとする心理的な状態を指します。
例えば、最初に小さな「はい」を言ってしまうと、その後に「いいえ」と答えることに対して矛盾を感じ、不快に思うことがあります。
このため、相手は一貫して「はい」と言い続けることで、認知的不協和を避けようとするのです。
社会的証明と安心感
「はい」と答えることで、相手は他者との共通理解を持つような安心感を得ます。
人は、自分が多くの人と同じ意見を持っていると感じることで、自分の意見に対して安心感を覚えるため、無意識的に賛同を続けることが多くなります。
この「社会的証明」のメカニズムが、イエスセットを効果的にする要因の一つです。
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イエスセットを使うタイミング
では、どのようなタイミングでイエスセットを使うのが良いのでしょうか。
ここでは、イエスセットを使う適切なタイミングをご紹介します。
①お客様との信頼関係を築く
はじめて会ったお客様、まだあまり関係性が出来ていないお客様と信頼関係(ラポール)を構築するためにイエスセットを活用します。
営業「お休みの日は、何をされているんですか?」
お客様「休みの日は、家で読書をしている事が多いですね」
営業「読書をされているんですね!」
お客様「はい」
営業「本がお好きなんですね」
お客様「そうですね」
営業「どんな本を読むんですか?」
お客様「推理小説が多いですかねぇ」
営業「推理小説が多いんですね!」
お客様「はい」
このように、お客様のお話にバックトラッキングを活用しながらイエスセットを使うことで少しずつ距離感を縮めていきます。
ポイントは、バックトラッキングを使う際はお客様の言ったフレーズをそのまま使うことです。
お客様の言葉をそのまま使わずに返してしまうと、微妙なニュアンスの違いで、お客様に「この人はほんとに話が分かってるのか?」と不必要な不安を与えてしまいかねません。
②課題のヒアリング
お客様の課題をヒアリングするときにも、イエスセットを使うことで、営業が「話をしっかり聞いている」「信頼できる」という印象をお客様に与えることが出来ます。
営業「今のお困りことはどんなことでしょうか?」
お客様「キッチン周りがごちゃごちゃしてて、物が多いんで狭かったりして大変なんですよ」
営業「キッチンが使いにくいんですね。」
お客様「はい」
営業「ちなみに、1番それを感じるのはどんな時ですか?」」
お客様「うーん、朝ご飯を作る時かな。朝は子供の弁当作ったりして特に忙しいので・・・」
営業「朝の準備ってバタバタしますもんねぇ」
お客様「そうなんですよ」
営業「なるほど。では、朝の忙しい時間でもスムーズに使えるキッチンにリフォームしましょうか」
お客様「はい、よろしくお願いします。」
このように、イエスセットと合わせて使うバックトラッキングは信頼関係を構築できたあとであれば、お客様の話を「要約する」ことも可能です。
バックトラッキングを通じてお客様自身が自分の悩みを再確認できること、そのお客様の意思で仕事を進められる感覚を得ることができます。
例えば上記の会話でも、いきなり「キッチンをリフォームしましょう」といってもお客様は違和感を覚えたり、反論の理由を探したりするものです。
ですがイエスセットを使った会話の中で提案をしておけば、お客様自身がリフォームをすることを決めたように話が進められるのでスムーズに進めることが出来ます。
③営業での会話
イエスセットを用いた営業会話の具体例をいくつか挙げてみます。
ここでは、営業が商品やサービスを売るために、お客様に肯定的な返答を続けさせ、その後に最終的な提案を受け入れてもらうという流れをご紹介します。
例1:高性能なスマートフォンの営業
営業「こんにちは、お元気ですか?」
(まず相手に簡単な質問をして、「はい」と答えやすくする。)
お客様「はい、元気です。」
営業「ありがとうございます。最近、スマートフォンを買い替える予定はありますか?」
(相手に次も肯定的な回答をしやすい質問をする。)
お客様「うーん、まあ、確かに少し古くなってきているかもしれません。」
営業「そうなんですね。やはり新しいスマートフォンには、もっと速い処理能力や、より長いバッテリー寿命がある方が便利ですよね?」
(さらに肯定的な発言を引き出す。)
お客様「はい、それは確かに便利です。」
営業「それなら、こちらの最新モデルはどうでしょう?特にカメラの性能がかなり優れていて、旅行や日常の写真撮影に便利です。」
(相手がすでに肯定的な気持ちを持っているので、提案がスムーズに通りやすくなる。)
お客様「なるほど、カメラは大事ですね。どういった特徴があるんですか?」
例2: 保険の営業
営業「こんにちは、お忙しいところありがとうございます。最近、ご家族の健康や将来について考える時間は増えましたか?」
(まず相手に答えやすい、共感を促す質問を投げかける。)
お客様「うーん、確かに最近よく考えるようになりましたね。」
営業「そうですよね。やはり将来に備えて、家族を守るために何か対策をしておくことは大切ですもんね?」
(この段階で「はい」と答えさせることで、相手の肯定的な意識を引き出す。)
お客様「はい、そうですね。」
営業「実は、こちらの保険プランは、もしもの時に家族を守るための保障内容が充実していて、特に医療費のサポートが手厚いんです。ご興味ありますか?」
(相手が「はい」と答える流れができているので、具体的な提案が受け入れられやすくなっている。)
お客様「その点は気になりますね。どんな保障があるんですか?」
例3: ソフトウェアやサービスの営業
営業「お疲れ様です!最近、業務で効率を上げるために新しいツールを導入することについて考えたことはありますか?」
(相手に共感を求めつつ、最初に簡単な質問で肯定的な反応を引き出す。)
お客様「そうですね、最近は業務の効率化を考えています。」
営業「業務の効率化を考えておられるんですね。それは素晴らしいですね!効率化を進めると、時間的にもコスト的にも大きなメリットがありますよね?」
(「はい」と答えやすい質問で相手の心理的ハードルを下げる。)
お客様「はい、それは確かに感じます。」
営業「実は、当社のソフトウェアは特にチーム間のコミュニケーションをスムーズにする機能が強化されており、作業時間を大幅に短縮できるんです。これが導入されると、すぐに効率が良くなりますよ。」
(相手が肯定的な気持ちでいるので、具体的な提案をしやすくなっています。)
お客様「その点は非常に魅力的ですね。詳細を教えてもらえますか?」
イエスセットの営業会話では、まずお客様に小さな「はい」を引き出し、徐々に大きな提案や要求へと誘導します。
大切なのは、相手に無理なく答えやすい質問を投げかけ、自然な流れでお客様が「はい」と言うことを繰り返させることです。
最終的に、商品やサービスを提案する段階では、お客様がすでに肯定的な心理状態にあるため、スムーズに受け入れてもらいやすくなります。
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イエスセットを使う際の注意点
とても効果を期待できるイエスセットですが、イエスセットを使う際には、相手を無理に同意させるようなプレッシャーをかけないことが重要です。
相手が納得していない場合、無理に「はい」を引き出すことは逆効果になる可能性があります。
また、イエスセットを使いすぎると、相手に「操作されている」と感じさせることもあるため、自然な流れで使うことが大切です。
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まとめ
今回は、営業が使える「イエスセット」と「バックトラッキング」を紹介しました。
この2つの技法で何より大切なのは、営業が上手く商談を進める技術ではなく、「お客様が自分自身で決断して話を前に進める」ために使われる手法であるということです。
イエスセットやバックトラッキングは、その自覚を高めるための補助でしかありません。
この点に違和感があって無理に進めると、何かトラブルがあったときにお客様の不安が噴出しやすいものになってしまいます。
まずは、簡単な質問から始めてみましょう!
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