「個別原価計算とは?」と疑問を持つ方に向けて、この記事では、個別原価計算の基本的な概念や特徴をわかりやすく解説します。また、総合原価計算との違いについても図を交えながら説明し、具体的な計算方法まで丁寧に紹介します。
業種や受注形式によって、どの原価計算方法が適しているかを知りたい方や、効率的なコスト管理を目指している方に役立つ内容です。この記事を読むことで、個別原価計算を理解し、実務に活かせる知識を身に付けましょう。
目次
個別原価計算とは
個別原価計算は、受注ごとに生産にかかった原価を集計する方法です。
顧客からの注文によって製品を製造する、受注生産のケースで主に用いられる計算方法です。
顧客の希望に応じてオリジナルで製造することやカスタマイズを施すので、生産物の種類や規格がそれぞれ異なります。
そのため、原価もそれぞれで異なるので、個別の原価計算が必要になるのです。
個別原価計算では、顧客から注文を受注し、製造から納品に至る工程で発生する材料費や労務費、経費などの費用を一つひとつ合算して計算します。
原価計算を行う前提として、個別受注生産を行う企業においては、顧客からの注文を受けた後、設計図にもとづき、製品の製造を指示する製造指示書が作成されるのが一般的です。
製造指示書に付された番号ごとに原価を集計していく流れを採るため、個別原価計算を行う際、製造指示書が重要な役割を果たします。
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個別原価計算の計算方法
個別原価計算の計算方法を見ていきましょう。
まず、計算式は以下になります。
「直接材料費+直接労務費+直接経費+製造間接費=単位あたり製造原価」
個別原価計算の計算方法は以下の3ステップが基本です。
手順1:原価を費用項目別に集計
第一に、原価を費用項目別に集計することが求められます。
原価を費用項目別に集計していきましょう。
原価は、材料費、労務費、経費、外注費に分けられるため、発生した費用を各項目に振り分けてください。
手順2:集計した原価を部門別に振り分け
第二に、集計した原価を部門別に振り分けます。
工事現場では、実際に現場で施工を担う建設部門と人事や労務に関する業務を担う管理部門の2つに分かれています。
各項目の費用を部門別に割り振りましょう。
手順3:プロジェクト別に振り分けて集計
第三に部門別に振り分けた原価をプロジェクト別に振り分けて集計してください。
プロジェクトごとに必要な時間・工数・人材数などを、企業ごとの一定の基準にもとづいて振り分けます。
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総合原価計算との違いは
個別原価計算の他に、原価計算の方法として代表的なのが総合原価計算です。
ここでは、個別原価計算と総合原価計算の違いについて、それぞれのメリット・デメリットを踏まえながらご説明します。
総合原価計算とは
総合原価計算では、一定期間に製造された同一製品の総製造原価を総生産量で割ります。この方法で、製品1単位あたりの平均製造原価を算出します。
顧客からの個別注文ではなく、製造者側が設定した生産数量に基づいて行う計算方法です。たとえば、コンビニで販売するおにぎりの場合、これまでの売上データを活用し、1日に売れる量を予測して製造します。
おにぎり1個あたりの原価は、製造にかかった材料費、労務費、経費を合計し、その金額を実際に製造された数量で割って求めます。
大量製造品の場合、製品が小型かつ安価で、1個ごとの原価を算出するのが難しいケースが少なくありません。そのため、一定期間に発生したすべての原価を集計し、その期間に製造された総数量で割ることで、1単位あたりの原価を算出します。
なお、この一定期間は、1ヶ月単位で設定されることが多いです。
向いている業種が違う
個別原価計算は、受注生産や小ロット、限定生産の場合に用いられ、総合原価計算は大量かつ継続的な生産に向いています。
このため、各計算法が適している業種にも違いが生じます。
- 個別原価計算:多品種少量の製品を生産する業種、または一つひとつ独自性の高いサービスを提供する業種に向いています。
【例】企業ごとに注文を受けて独自のシステムを開発するシステム開発業、依頼ごとにオリジナルのWebサイトや広告を制作するWeb制作業や広告業、案件ごとに対応が異なる弁護士などの士業、コンサルティング業など - 総合原価計算:同一の製品や類似した製品を連続的に、または反復的に大量生産する業種で用いられる方法です。
【例】食品メーカー、飲料メーカー、電気製品メーカーなど
生産形態が違う
個別原価計算は、個別受注生産や小ロット生産向きで、総合原価計算は繰返生産や連続生産の形態に向いている方法です。
個別原価計算向き
- 受注生産:顧客の注文を受けてから生産を開始する生産形態で、1回ごとや1回限りの個別受注生産と毎月一定量や必要の応じて小ロットずつ受注生産していく繰返受注生産などの形態があります。
- ロット生産:製品ごとに一定の数量でまとめ、その数量単位で生産を行っていく生産形態です。
一定の数量をまとめて生産することで、生産効率が高まることや生産コストが抑えられます。
ロット単位にすることで、1個単位で製造するより1個あたり単価が安く抑えられます。
総合原価計算向き
- 連続生産:一つの製品を一定期間連続して生産する形態で、繰返生産や継続生産とも呼ばれる生産形態です。
日用品や食料品、生活家電や消耗品、定番品など特定の製品を大量に生産する業種とはじめ、生産ラインが特定の製品に限定している業種で用いられる生産形態です。
建設業に当てはめると、注文住宅をはじめ、多くの建物は一つひとつ設計していくので個別受注生産の生産形態です。
これに対し、ハウスメーカーなどで用いられるパネルやボード、窓ガラスなどの建築資材で定番品として利用されている製品の製造は大量、連続生産の形態にあたります。
計算する費目が違う
総合原価計算と個別原価計算は、費目の分類方法にも違いがあります。
個別原価計算では、原価を「直接費」と「間接費」に分けて算出します。一方、総合原価計算では、材料費以外の費用をすべて「加工費」としてまとめ、原価を「材料費」と「加工費」の2つに分類して計算します。
ただし、総合原価計算でも、同じ製造ラインで異なる製品を作る場合や、複数の工程がある場合は、直接費や間接費を考慮して計算することが一般的です。
基準となる単位が違う
それぞれの原価計算では、基準となる単位が異なります。
総合原価計算では、一定期間に発生したすべての製造コストを集計し、その期間に生産された総製品数で割って平均的な原価を算出します。このため、製品ごとのコストではなく、全体のコストを均等に割り当てる方法です。
一方、個別原価計算では、期間にかかわらず、顧客からの注文や製品ごとに個別のコストを計算します。これにより、各案件や製品にかかった実際の費用を正確に反映できます。たとえば、特注品やプロジェクトごとに発生するコストを細かく追跡し、製品単位で原価を算出します。
活動基準原価計算に関する詳しい記事はこちら
個別原価計算と総合原価計算を使い分けるには?
企業の原価管理において、個別原価計算と総合原価計算はそれぞれ異なる特性を持つ重要な手法です。正しく使い分けることで、コストの透明性を高め、利益を最大化することが可能になります。
ここでは、目的別に使い分ける方法や、両者を組み合わせることで得られるメリットについて詳しく解説します。
目的別で使い分ける
原価計算を行う際、商品1つごとに異なる原価を正確に算出することが重視される場合には、個別原価計算が適しています。たとえば、特注品や少量生産の製品を扱う業種では、この方法が効果的です。
一方、業務を効率化したい場合や、生産全体にかかる費用をまとめて評価したいときは、総合原価計算が有効です。たとえば、食品メーカーや飲料メーカーなど、大量生産を行う業種では、全体のコストを簡単に評価できるため、この方法が広く用いられています
2つの計算方法を組み合わせる
個別原価計算と総合原価計算はそれぞれ特徴が異なりますが、組み合わせることで効率的に原価を管理できます。
たとえば、電子機器のような標準的な製品には総合原価計算を使い、特注の家具やプロジェクトに応じた製品には個別原価計算を使うことで、正確さと効率を両立させることができます。また、総合原価計算で得た情報を個別原価計算に活用することで、より正確なコスト管理が可能になります。
さらに、両方の計算結果を活用することで、製品やプロジェクトに対する戦略的な意思決定がしやすくなります。たとえば、新しい製品を市場に投入する際に、コストや利益を見積もるためのデータが役立ちます。
このように、2つの計算方法を組み合わせることで、柔軟で効果的な原価管理が実現します。
個別原価計算のメリットデメリット
個別原価計算のメリットとデメリットを、それぞれ確認していきましょう。
個別原価計算のメリット
個別原価計算は、現場単位で原価を計算する方法です。製造指示書に記入しながら、各現場でどのくらいの原価が必要かをリアルタイムで正確に把握できます。
これにより、どれくらいの利益が出るのか、あるいは赤字になる可能性があるかを予想しやすくなります。赤字のリスクが早期に把握できるため、赤字が拡大しないうちに迅速に対応策を講じることができるのも大きなメリットです。
個別に原価を計算しても、他の受注に影響を与えないわけではありません。現場単位での原価算出の経験やノウハウを蓄積することで、類似の工事を受注した際に精度の高い見積書を作成できるようになり、赤字になるリスクを防ぐことができます。
建設業では、1回あたりの受注金額が大きくなることが多く、見積もりだけの問い合わせも少なくありません。蓄積された原価計算のデータを参考にして見積書に反映させることで、担当者の手間を省き、実際に近い金額で見積もることが可能になります。
個別原価計算のデメリット
個別原価計算のデメリットは、計算プロセスに手間と時間がかかることです。
現場で実施するため、慣れていない人が行うと計上ミスや計算ミスが発生する恐れがあります。これを防ぐためには、ダブルチェックやトリプルチェックの体制を構築するか、原価計算をサポートするシステムの導入を検討することが推奨されます。
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総合原価計算のメリットデメリット
次に総合原価計算のメリットとデメリットをそれぞれ確認していきましょう。
総合原価計算のメリット
総合原価計算のメリットは計算ルールがシンプルであることです。
一定期間内に生産された同じ製品の単位原価は一つだけなので、計上ミスが起こりにくく、計算も簡単です。
また、計算にかかる手間や時間、コストも抑えられるため、効率的な原価管理が可能になります。
総合原価計算のデメリット
総合原価計算は、同一製品または製品の類似度が高いことを前提としていますが、近年の日本市場で見られる少量多品種化の傾向には向いていません。
また、期末まで原価を把握できず、期間内の原価の変動をリアルタイムで把握しにくい点は、個別原価計算のメリットと対照的です。
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まとめ
個別原価計算は受注ごとに、生産にかかった原価を現場で集計する方法です。
個別受注生産や小ロット生産に向いています。
これに対して、総合原価計算は一定期間に製造された同じ製品の総製造原価を総生産量で割る方式で、大量・継続生産に適しています。
それぞれメリット、デメリットがありますが、そもそも向いている業種や生産形態が違うため、自社や生産しているものに適した方法を用いましょう。
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