2022年から現在に至るまで、為替相場の動きが一層注目を集めています。
問題となっている円安は、建設業にも大きな影響を及ぼしています。
そこで今回は、円安が建設業に及ぼす影響や今後の見通しについて解説します。
また、円安とは何か、円安の背景には何があるのか、基本的な情報も整理します。
円安とは?
そもそも、「円安」とは何でしょうか。
建設業への影響を確認する前に、円安そのものについて整理しておきましょう。
日本銀行は、円安について次のように説明しています。
円安とは、円の他通貨に対する相対的価値(円1単位で交換できる他通貨の単位数)が相対的に少ない状態のことです。
引用元:日本銀行「円高、円安とは何ですか?」
例えば、100ドルの資材を円で買うとしましょう。
この時支払う金額は、
- 1ドル=100円の場合:1万円
- 1ドル=110円の場合:1.1万円
です。
つまり、「1ドル=100円」が「1ドル=110円」になると、同じ資材を買うにもかかわらず、1000円分多く支払うことになります。
この状態が円安です。
多く支払わなければならない、ということは、それだけ円の相対的価値が下がっている(円安)ことを意味します。
円高とは?
円安の逆で、他の通貨に対する円の相対価値が多い状態を「円高」といいます。
円安の場合と同様に、100ドルの資材を円で買う場合を考えてみましょう。
円で支払わなければいけない金額は、
- 1ドル=100円の場合:1万円
- 1ドル=80円の場合:8000円
です。
つまり円高の時は、同じ資材を2000円分安く買えるということです。
安く買えるということは、円の相対的価値が上がっている(円高)ことを意味します。
円安・円高による影響
円高・円安の概要を確認しました。
ここでは、円安・円高による影響を確認しましょう。
円安になるとどうなる?
円安になると、ドルで支払う場合、より多くの日本円が必要となります。
つまり、海外製品の仕入れ価格が上昇し、輸入品の物価が高くなる可能性があります。
一方で、海外では日本製品をより安く手に入れることができます。
そのため、海外市場での競争力が上がり、輸出業の業績が好転します。
円高になるとどうなる?
円高になると、海外製品をより安価で仕入れることができるようになります。
輸入品の価格が下がるほか、海外への渡航費も安くなる可能性があります。
一方で、海外では日本製品の価格が上昇します。
そのため、日本製品の売れ行きが悪くなり、輸出業はダメージを負う場合があります。
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円安の原因
現在も続く円安は、2022年3月ごろから急速に進行し始めました。
同年10月には、一時1ドル=150円という歴史的な円安水準を記録しています。
これは、1990年以来、32年ぶりに記録された水準です。
ここまで深刻な円安の背景には、一体何があるのでしょうか。
ここでは、円安の原因について、
- 日米の金利差
- 日本の貿易赤字
- ロシアによるウクライナ侵攻
の3つの観点から解説していきます。
日米の金利差
円安が進んだ最大の理由は、日本とアメリカの金利の差だといわれています。
金利とは、お金を預けたり借りたりする際、その金額に付される利息や利子の割合のことです。
アメリカでは、2021年ごろから物価が大幅に上昇しています。
物価の上昇が継続するインフレを抑えるために、アメリカの中央銀行は、金利を上げ続けてきました。
これに対し、日本は金利を上げなかったため、日米の金利差が開き、円安が進行したといわれています。
日本の金融政策
では、なぜ日本はアメリカのように金利を上げなかったのでしょうか。
これには、両国の経済状況の差が関係しています。
日本は長らく、物価が下がり続けるデフレの状態にありました。
物価が下がることは、一見良いことのようにも思えます。
しかし、企業の売り上げは減り、従業員の給料が減り、モノが買えなくなるという悪循環を生みだします。
日本銀行は、このデフレスパイラルから脱し、景気を良くしようと低金利政策を続けてきました。
こうした状況のなかで、アメリカのように金利を上げてしまえば、経済活動はこれまで以上に抑えられ、景気が悪化してしまいます。
つまり日銀は、金利を上げて円安を解消できるほど、日本経済の状態が良くないと判断したといえます。
しかし、長期にわたり低金利政策を推し進めてきた日銀は、2022年12月20日、長期金利の変動許容幅の拡大を決定しました。
長期金利の変動許容幅は従来0.25%程度でしたが、0.5%程度に拡大されました。
貿易赤字
円安の原因の一つに、日本の貿易赤字があります。
2022年度の貿易赤字は、1979年以降過去最大の21兆7284億円を記録しました。
日本はエネルギー資源や食料品などを輸入に頼っており、これらの多くをドルで支払っています。
すでに確認した通り、円安の場合、輸入品の支払いのためにより多くの日本円が必要となります。
市場に多くの円が出回れば、その分円の価値は下がり、円安が進行します。
ただ、円安の時に輸入すると赤字になるなら、輸出でまかなえば良いと思うかもしれません。
しかし、現在日本は輸出が伸びにくい状況です。
輸出が伸びにくい理由
日本はもともと貿易黒字の国でした。
しかし、円高の時代に輸出品の売れ行きが悪くなり、稼ぎにくい状況となりました。
こうした状況下で、日本企業の多くは、工場を海外に移転しました。
製品の生産や輸入にかかる費用を削減し、円高の影響を最小減に抑えるためです。
海外で生産する体制ができてしまったため、円安になっても輸出数量はなかなか伸びません。
つまり、輸入に際して多くの円を支払う一方で、輸出は伸び悩むという状況です。
ロシアによるウクライナ侵攻
貿易赤字が円安の原因になる仕組みを解説しました。
日本の貿易赤字が大幅に増えた要因の一つに、ロシアによるウクライナ侵攻があります。
ロシアは、2022年2月にウクライナに侵攻し、1年以上にわたって軍事攻撃を続けています。
これを受け、アメリカやヨーロッパを中心に、ロシアへの経済制裁が始まりました。
ロシアへの輸出や輸入に制限をかけることで、ロシアを経済的に孤立させようという動きです。
これにより、ロシアの主要な輸出品目である石油、天然ガス、石炭、小麦などの価格が世界的に高騰しました。
日本はエネルギー資源や食料品を輸入に頼っているため、すぐに輸入をストップするという措置がとれません。
以上のような背景から、日本の貿易赤字の拡大には、ロシアによるウクライナ侵攻が深く関係しているといわれています。
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円安が建設業に及ぼす影響
円安の原因を確認しました。
ここでは、円安が建設業に及ぼす影響についてみていきましょう。
建設資材の高騰
日本は、木材や鉄、半導体など、建設資材の多くを輸入に頼っています。
円安の時は輸入価格が上昇するため、輸入に依存している資材の仕入れ値が高騰します。
また、資材の高騰に付随して、半導体を用いた住宅設備品などの価格も上昇します。
特に、日本の木材の多くは、ロシアからの輸入に頼っています。
ロシアへの経済制裁による価格高騰に、円安の影響がプラスされ、資材不足や価格の上昇が顕著にあらわれています。
ガソリン代・電気代の高騰
建設業においては、資材を現場まで運ぶ、機材を動かすなど、工事をするうえでガソリン代や電気代が発生します。
日本はエネルギー資源を輸入に頼っているため、円安によってこれらの価格も高騰しています。
建設資材やガソリン代・電気代が高騰すれば、工事全体にかかる費用も上昇します。
赤字工事を避けつつ、顧客の需要に応えるにはどうすれば良いか、価格設定やサービスを見直す必要が出てきます。
住宅ローンの金利
住宅ローンには、主に次の二つの種類があります。
固定金利型 | 借入時から金利が一定。金利は高めに設定されている。 |
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変動金利型 | 金利の変動に応じて返済額が変化する。金利は低めに設定されている。 |
近年日本では、金利の変動があまり見られないため、ほとんどの人が変動金利型を選択しているようです。
しかし、日銀による長期金利の変動許容幅拡大により、固定金利への借り換えを検討する動きが出ています。
金利の変動が今後も続くようであれば、変動金利型の返済リスクが上がるためです。
ただ、変動金利型は長期金利ではなく、短期金利を指標にしています。
そのため、今回の政策変更による影響は低いと見積もられています。
一方、固定金利型は長期金利を指標とするため、今回の政策変更を受けて金利が上昇しました。
今後の展開は読めませんが、経済動向の確認を欠かさず、住宅ローンの決定や変更を行うことが重要です。
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円安と建設業の今後
円安が建設業に及ぼす影響について確認しました。
2022年3月以降に加速した円安ですが、一体いつまで続くのでしょうか。
ここでは、為替市場の今後の見通しと建設業資材の価格動向をみていきましょう。
円安はいつまで続く?
現在問題となっている円安は、2022年3月ごろから加速し、同年10月には1ドル=150円にまで到達しました。
しかし、2023年1月には一時1ドル=127円台まで円高になるなど、変動が激しい状況です。
2023年5月現在は1ドル=137円台後半に留まっていますが、今後の見通しは不明瞭です。
ただ、円安が落ち着くかどうかは、アメリカの金利政策にかかっているといわれています。
円安の最大の原因が日米の金利差であることは、すでに確認した通りです。
アメリカは現在、インフレを抑えるために金利を上げ続けています。
このアメリカの利上げが止まれば、日米の金利差は徐々に狭まります。
つまり、アメリカが利上げをやめた時点から、為替相場の変動が落ち着いていくと予想されます。
建設資材の価格動向
国土交通省の調査によると、令和5年4月1~5日現在、以下の資材の価格がやや上昇しています。
- セメント
- 生コンクリート
- 骨材(砂・砂利・砕石)
- アスファルト合材(新材・再生材)
- 異形棒鋼
- H形鋼
価格上昇する気配のある資材
上記の建設資材のうち、以下の3つは、今後も価格が上昇する気配があるようです。
- 異形棒鋼
- H形鋼
- セメント
建設業に必要な円安対策
円安が進行するなか、建設業ではどのような対策が必要なのでしょうか。
中小企業基盤整備機構のアンケート調査によれば、円安の影響を受けた中小企業は、次のような対応を行っているようです。
- 商品・サービス価格への転嫁
- 経費の削減
- 仕入先・仕入方法・仕入価格の見直し
DX化
上記の3つの対応策は、もちろん建設業にも応用可能です。
ただ、人手不足が問題化している建設業において、人件費などのコストを削減することは現実的ではありません。
少ない人数でも効率的に業務をこなせるよう、ITツールや管理システムの導入を検討すると良いでしょう。
見積書や請求書などの書類を電子化すれば、紙代や印刷代などのコスト削減にもつながります。
助成金や支援の活用
仕入方法や価格の見直し、DX化など、建設業で必要な円安対策を確認しました。
しかし、日々の業務をこなしながら、これらの対応策を実施するのは簡単なことではありません。
特に、経費の削減や価格の見直しには限度があります。
そのため、国や地域、公的機関が実施する助成金や補助金などの制度を活用することがおすすめです。
国土交通省は、経営課題を抱える建設企業向けに様々な金融支援を実施しています。
また、経済産業省の「ミラサポplus」には、中小企業・小規模事業者向けの支援情報がまとめて掲載されています。
円安の対応策に悩んだ際は、ぜひ助成金や補助金、相談窓口などを活用してみてください。
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まとめ
円安が建設業に及ぼす影響についてご紹介しました。
円安がいつまで続くのか、はっきりとした目処は立っていません。
ただ、為替相場の変動が落ち着くカギとなるのは、アメリカの金融政策だといわれています。
円安の影響をなるべく抑えられるよう、市場の動きを注視するようにしましょう。
建設業の円安対策としては、DX化による業務効率化が挙げられます。
国が実施する金融支援を積極的に活用することも有効な対策です。
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