2018年に提唱された「スマートエコノミー」という考え方をご存知でしょうか?
少子高齢化、働き方改革などビジネスにおける生産性の課題に一石を投じる素晴らしい考え方なのですが、
2019年現在、いまいち世論に浸透していない状態です。
これを掲げる日本生産性本部は「生産性」という言葉が日本で使われだした頃から活動している
由緒正しい組織なのですが・・・。
難解な長文で、Webへの発信も少ないうえに
日本生産性本部に対する評価も賛否両論なところなのでなかなか浸透していない現状ですが、
この「スマートエコノミー」という考え方そのものは、将来を考えるために重要なポイントで溢れています。
今回は、このスマートエコノミーを少し分かりやすくかみ砕きながら紹介して
組織・企業の在り方について考えてみたいと思います。
目次
生産性における本当の課題
少子化・高齢化ではなく「生産年齢人口の減少」(労働力喪失時代)
少子高齢化が叫ばれて久しい日本ですが、この問題の本質とはどこにあるのでしょうか?
出生率は年々下がってきており、日本の総人口は2015年から2045年までの30年間で、
1億2710万人から1億642人まで低下しようとしているといわれています。
また、高齢化も著しいものです。65歳以上人口は過去40年でほぼ4倍になり、
2017年には日本人口の約27%を占める約3,500万人に達しています。
子どもが生まれず、高齢者の人口が増える・・・経済の面では
この問題は、「働き盛り世代」の減少を指します。
働き盛り世代=生産年齢人口は少子高齢化の煽りを受け、
2015年から2045年までの30年間で、7,728万人から5,585万人まで減少するといわれています。
生産年齢人口がこのまま下がり続ければ、「労働力喪失時代」を迎えます。
今よりも更に厳しく、一人当たりの生産性が問われる時代になっていくでしょう。
高生産性企業を作りにくい、育てにくい環境(供給構造改革の欠如)
労働力喪失時代の到来で、働き手は一気に減少していきます。
これまでなら二人、三人で対応していた業務も、一人で対応しなければならない時代がくるかもしれません。
その時代に向け企業や組織は、従業員一人一人がより高い生産性を上げられる環境を構築しなければいけませんが
どうやら日本の企業・組織にはそれが出来ないかもしれない環境があるようです。
理由は大きく分けて、以下の3つとされています。
- 日本には「競争力の弱い企業は保護すべき」という考え方があり、
いかに経営戦略・事業戦略が脆弱なものであっても金融支援が受けられて倒産しにくい仕組みがある。 - 終身雇用や退職金、年功的賃金制度など、生産性よりも「長く務める事」を良しとする風潮が
未だに根強く残っていて、転職するとかえって生涯賃金が下がってしまうケースがある。 - 労働者に対する低賃金など、経営者サイドに「労働者に高い付加価値をつける」ことへの意欲が少ない。
とくに③は大きな課題です。
というのも、実は日本の労働者は他の先進国に比べても引けを取らないほどの高質と言われているからです。
世界の財政界トップたちが集まる「ダボス会議」を主宰する「世界経済フォーラム」の発表によれば
2018年、日本の競争力は全世界5位(1位米国/2位シンガポール/3位ドイツ/4位スイス)です。
にも関わらず、最低賃金は主要国の中でも最低レベルにとどまっています。
以下は世界経済フォーラムが発表した2016年のデータと、
OECD(経済協力開発機構)が発表した最低賃金に関するデータを国別に集計したものです。
労働者が高い質を保っていながらも、低賃金傾向にあることが分かるはずです。
このデータをもとに、生産性本部は
「日本の経営者は、世界最高の質を誇る労働者を低い賃金で使い、世界で25位の一人当たり付加価値しか上げられていない」
と指摘しています。
IT導入の遅れ
生産性本部は、これから生産性を向上していくためにはIoTやAI、
キャッシュレス化などのイノベーションをITを通じて推進することが必要としています。
とくに、中小規模のサービス産業はまだまだIT活用が置いておらず業務改善の余地がまだまだあります。
積極的に活用したうえで経営改革を行い、次回に即したビジネスモデルに変えていくことが次の成長に繋がるのですが
大手に比べると資本力に乏しいなどの理由で、まだまだIT化できていない現状があるようです。
スマートエコノミーとは
ここまでお伝えしてきた3点とともに、そもそも日本経済が他国に遅れを取った理由には「成長戦略」の違いがあります。
これまで重要視されてきたのは「企業を大きくする」「継続させる」といった企業主体の経済規模拡大でした。
これからの時代は、明確に労働者一人当たりの付加価値を高めることに焦点を当てた
「生産性向上戦略」に舵を切る必要があります。
そのために提唱されたのが、スマートエコノミーです。
スマートエコノミーには、大きく分けて3つの考え方が内包されています。
①高効率化供給構造の実現
スマートエコノミーの大前提として、企業主体ではなく労働者主体の「付加価値を高める」施策が必要です。
これまでのように、「企業を大きく、長く存続させる」という方向を続けていると
仮にその企業の戦略に不足があったとしても労働者はなかなか企業を離れることができなくなります。
そのため、国による企業保護策は可能な限り取らず、成長・革新への意欲がある企業への支援を強化することで
淘汰される企業は淘汰され、企業の新陳代謝を進めるべきだ、とする考えです。
年功序列や終身雇用の撤廃、どれだけ長く務めたかではなく「どんな仕事をしているか」で評価する
「同一労働同一賃金」に基づく制度の採用などを通じて、労働者が転職することが不利にならない仕組みが必要になります。
②高革新力産業構造の実現
一人当たりの付加価値を高めていくためには、当然ながら「限られたリソース・時間でいかに生産性の高い業務に集中できるか」がカギです。
そのためには、やらなければならないとはいえ単純なルーティン作業などに時間を費やしている暇はありません。
労働者が高生産性業務に集中できるように、ITの活用を目指す必要があります。
たとえばIoT、AI、RPAなどは生産性向上に高い貢献をしてくれます。
また、これらを活用することの出来るように社内環境整備やITツール販売・導入サポートの充実を図るのも必須です。
特に、サービス産業は日本のGDPのうち7割を占めるにもかかわらず
まだまだペーパーレス化が進んでいなかったり属人的業務が多い現状もあるため、改善が必要です。
③高購買力消費構造の実現
一言でいえば、「高い付加価値には相応の報酬を」を実現させることです。
せっかくITを活用したり経営体制を切り替えて労働者が高い付加価値を持つようになっても
その報酬が労働者に与えられないことには、労働者が会社に定着しないばかりでなく
「付加価値を高めることに意味がない」という感覚に労働者は陥ってしまうでしょう。
日本の低賃金については今更言及するまでもありませんが、
付加価値に見合った報酬を与えることで、国民一人一人の購買力を高めていけば
サービス産業のイノベーションの後押しにもなるはずです。
これから、労働力喪失時代を迎えることで働き手は一気に減り、
労働者の存在そのものが貴重なものになっていくはずです。
労働の質を正確に見定め、適正な評価・処遇を行って行くと同時に、
企業としても労働者の質向上・教育に力を入れていく必要もあるでしょう。
最後に:私たちにできること
今のところ、このスマートエコノミーに関する生産性本部の取り組みがあるわけではありません。
あくまで「提言」に留まっています。
そのため、取り組みについて各社これから考える必要があるところです。
ですがまずは、スマートエコノミーの提言内容よりも
大前提である「労働者一人当たり付加価値を高める」ということへの必要性を理解することから始めるのが
最も重要なポイントではないでしょうか。
スマートエコノミーが提唱されるに至った経緯として、
生産年齢人口が減っていくこれからの時代、労働者一人当たり付加価値をどうやって高めていくかを考える
ことこそが、真の意味で生産性向上戦略、働き方改革といえるはずです。
御社の将来性をより強固なものにするために、
もっと詳しく知りたい方は、ぜひ日本生産性本部のページから詳細をご覧ください。
参考:
第3回 生産性シンポジウム 労働力喪失時代における持続可能な社会経済システム「スマートエコノミー」の実現をめざして