新収益認識基準とは?5つのステップや建設業への影響、適用のメリットを解説

新収益認識基準とは?5つのステップや建設業への影響、適用のメリットを解説

2021年4月から、「収入認識に関する会計基準」という新しい会計基準が適用されました。
本記事では、この新収益認識基準の概要とあわせて、建設業への影響を解説します。

また、新収益認識基準を適用するメリットについて、中小企業の経営の目線からご紹介します。

新収益認識基準とは

2014年、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同で「顧客との契約から生じる収益」(IFRS15号)を公表しました。

近年、グローバル化やインターネットの普及に伴い、ビジネス形式が多様化しています。
IFRS15号は、こうした現状に対応しようと定められました。

以上のような動きを受けて日本では、企業会計基準委員会(ASBJ)が、「収益認識に関する会計基準」を開発しました。
これが、「新収益認識基準」にあたります。

新収益認識基準は、IFRS15号の要素を基本的にすべて取り入れています。
つまり、日本と海外との収益認識基準がほぼ統一されたことになります。

これによって、日本企業と海外企業の売り上げを比較することができるようになりました。

企業会計基準委員会「改正企業会計基準第29号『収益認識に関する会計基準』等の公表」

新収益認識基準の適用対象

新収益認識基準は、2021年度から上場企業に強制適用されました。
中小企業については、これまで同様、企業会計原則や、法人税法の規定に沿った会計処理も認められています。

なお、建設業が従来依拠していた「工事契約に関する会計基準」(以下、工事契約基準)は、新収益認識基準の公表に伴い、廃止されました。
ただし、工事進行基準や工事完成基準といった規定は、法人税法において引き続き存在しています。

そのため、建設業の中小企業は、新収益認識基準を適用しない場合、法人税法の規定に則って会計処理を行う必要があります。

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新収益認識基準の5ステップ

新収益認識基準の概要を確認しました。
ここでは、収益を認識するための5ステップをご紹介します。

ステップ① 契約の識別

契約の識別」とは、当事者同士(売り手と買い手)の契約として認められるものを収益とする、という考え方です。

建設業の場合、書面上で契約を交わし、対価を得られると判断したうえで受注することがほとんどです。
そのため、すでに「契約の識別」の要件を満たしているといえます。

ステップ② 履行義務の識別

履行義務の識別」とは、

  • 顧客との契約のうち、履行すべきものはいくつあるか
  • それぞれどのような内容なのか

をきちんと把握するというものです。

たとえば、バスルームのリフォーム契約を締結し、3年間の延長保証を付けたとします。
この場合、一つの契約の中に、設計や施工、延長保証など複数の履行義務が生じます。

これらの履行義務の内容を一つひとつ明確にする、というのが「履行義務の識別」です。

ステップ③ 取引価格の算定

取引価格の算定」とは、取引の金額を確認するというものです。
取引価格とは、取引によって企業が得ると見積られる金額です。

ただし、値引きやリベート、返金などにより、取引の対価が変動する可能性がある場合は注意が必要です。
この場合は、変動する可能性のある金額を見積り、その分を考慮して取引価格を算定しなければなりません。

ステップ④ 履行義務への取引価格の配分

履行義務への取引価格の配分」とは、全体の取引価格を、一つひとつの履行義務に配分するというものです。
ステップ②で確認した履行義務の一つひとつに、ステップ③で算定した取引価格を割り振っていきます。

ステップ⑤ 履行義務の充足による収益の認識

履行義務の充足による収益の認識」とは、売上を計上するタイミングを確認するというものです。
履行義務には、一時点で充足されるものと、一定の期間にわたって充足されるものがあります。

一時点で充足される履行義務の場合、その一時点で収益を認識します。
一方、3年の延長保証など、一定期間にわたって履行義務が充足される場合、その期間で徐々に収益を認識します。

「履行義務の充足による収益の認識」は、建設業にとって特に重要なポイントです。
以下で詳しく確認しましょう。

新収益認識基準の建設業への影響

新収益認識基準の適用により、

  • 企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準
  • 企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針

が廃止されました。

これにより、建設業にはどのような影響があるのでしょうか。

「履行義務の充足による収益の認識」に関わる収益計上の方法とタイミングについて、

  • 収益認識基準の違い
  • 原価回収基準の新設

の2点を確認していきましょう。

収益認識基準の違い

工事契約基準においては、「工事進行基準」と「工事完成基準」という2つの収益認識基準が存在します。

工事進行基準工事の進捗度に従い、一定の期間にわたって収益を認識する。
工事完成基準工事の完成・引き渡し時の一時点で収益を認識する。

新収益認識基準における、「一定の期間にわたり充足される履行義務」は、工事進行基準と類似しているように思われます。

ただし、関係する履行義務を「一定の期間にわたり充足される履行義務」として判定するためには、次の条件のいずれかを満たす必要があります。

CHECK!

一定の期間にわたり充足される履行義務(第38項)

  1. 企業が顧客との契約医置ける義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
  2. 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
  3. 次の要件のいずれも満たすこと
    ① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
    ② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

引用元:企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準 第38項 一定の期間にわたり充足される履行義務」p. 10

上記のどれか一つにでも該当すれば、工事契約基準における工事進行基準とほぼ同様の会計処理を実施することが可能です。

逆に、上記に該当しない場合は、一時点で収益を認識する方法を採用しなければなりません。

CHECK!

工事契約の期間がごく短い場合

ただし、工事契約の期間がごく短い場合、第38項の定めに関わらず、次のような代替措置が用意されています。

工事契約について、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができる
引用元:企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準の適用指針 第95項 期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア」p. 21

原価回収基準の新設

工事進捗度を合理的に見積ることができない場合、従来は工事完成基準に則って収益計上を行っていました。
新収益認識基準においては、「原価回収基準」が適用されます。
原則として、工事完成基準は認められません。

原価回収基準とは、発生した工事支出金のうち、回収が見込まれる金額で収益を認識するという方法です。

たとえば、工事が途中で中断され、工事進捗度を合理的に見積ることが不可能になったとします。
こうした状況でも、工事の完成に必要な費用の回収が見込まれている場合、原価回収基準を適用できます。

ただし、工事進捗度を合理的に見積ることが可能になった時点で、工事進行基準に切り替える必要があります。

参照:日本建設業連合会「建設業における『収益認識に関する会計基準』の研究報告」

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新収益認識基準適用のメリット

上場企業においては、2021年度からすでに新収益認識基準が強制適用されています。
一方中小企業は、その企業の任意での適用となっています。

ここでは、中小企業が新収益認識基準を適用するメリットを確認しましょう。

経営状態の改善につながる

特に大企業と取引を行っている中小企業の場合、新収益認識基準の適用は経営状態の改善につながります。

新収益認識基準においては、会計処理の根拠が明確に示されています。
そのため、新収益認識基準を適用すれば、根拠を明らかにしながら収益計上の時期や方法の適正化を促すことができます。

大企業との取引を適正化することで、無理のない契約を結び、利益を確保できるようになります。

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まとめ

新収益認識基準の概要や、建設業への影響を解説しました。
新しい基準は、これまでの会計処理とは異なる場合も多く、複雑に感じるかもしれません。

しかし、中小企業にとっては、不利益を被る契約内容を是正するために役立つ基準でもあります。
これまでの工事契約基準と異なる点、同様の点をしっかりと確認し、経営状態の改善に役立てましょう。

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AIPPEAR NET 編集部

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