これまで行ってきた仕入税額控除は、インボイス制度が始まることで大きな影響を受けます。
万が一計算間違いをしてしまうと損も大きくなってしまうことがあり、大変です。
仕入税額控除だけでなく、インボイス制度についてもしっかりと確認しておきましょう。
こちらの記事では、仕入税額控除について適用要件や計算方法、インボイス制度の影響について詳しく解説していきます。
目次
仕入税額控除とは
さまざまな製品を販売する際に係る消費税がありますが、課税売上の消費税額から課税仕入の消費税額を差し引いたものを仕入税額控除と言います。
日本では消費税を取るために、商品を購入した時に代金に消費税をプラスしています。
その消費税は商品を販売している事業者を通して支払われますが、そのまま仕入時の税額も支払ってしまわないように工夫されているのが仕入税額控除です。
本来は1回支払えば問題のない消費税を何重にも取られては大変です。
仕入税額控除を行わないと、二重に消費税を支払ってしまうこととなり、自社の売上にも響きます。
仕入税額控除の対象取引
仕入税額控除は、すべての課税仕入が対象です。
課税仕入になるものは、漏れなく控除の申告を行うようにしましょう。
仕入税額控除の中には、商品や製品などの棚卸資産の購入や事業資産の購入、修繕費や水道光熱費などの支払いも当てはまります。
普段支払いを行っている対象取引のほとんどは、仕入税額控除に当てはまります。
ただ、中には仕入税額控除とはならないものも含まれますので注意が必要です。
自社で人材派遣料がかかった場合や清掃など外部委託を行った費用、給与などの支払いは当てはまりません。
非課税取引の場合も、そもそも課税がないため対象ではありません。
仕入税額控除の適用要件
仕入税額控除を受けるためには、適用要件がいくつかあります。
せっかく仕入税額控除を受けたいと思っても、要件を満たしていないと適用されません。
帳簿や請求書の保存が必要なことなど、覚えておかなければならないことはいくつかあります。
ここからは、仕入税額控除になるための適用要件について詳しく紹介していきます。
帳簿の記載項目
帳簿に記載しなければいけない項目は確認しながらしておきましょう。
記載しなければならない項目として、まず課税仕入を行った相手方の名前や名称、仕入れを行った年月日が必要です。
ほかにも、課税仕入に係る資産や役務の内容、支払対価の額も記載します。
支払対価の額は、消費税額の相当額も忘れずに書くようにしましょう。
請求書の記載項目
請求書で記載しなければならない項目は、作成した人の名前や名称、課税資産の譲渡をした時の取引の年月日などです。
ほかにも、課税資産の譲渡に係る資産や役務の内容を記載します。
もし軽減税率だった場合は、そのことがわかるようにしておくことも必要です。
異なる税率ごとに合計した対価の金額や請求の交付を受ける事業者の名前や名称も必要になります。
保存期間
帳簿と請求書はすぐに捨ててはダメで、保存しなければいけない期間が定められています。
まず帳簿は閉鎖した日から7年間は取っておかなければなりません。
さらに、請求書も受領した日も含む課税期間の末日の翌日から2ヶ月を経過した日から見て7年は保存が必要です。
正直よくわからないという場合は、決められた期間よりも少し長めに保管をしておくと安心です。
ただ、請求書の場合に限っては、支払額が3万円未満の場合は保存しなくても問題ありません。
どのような取引があったのかわかる帳簿を保存しておけば大丈夫です。
請求書の書き方・記載項目に関する記事はこちら
仕入税額控除の計算方法
仕入税額控除の計算方法はいくつもあります。
さらに計算する場合は、非課税売上と区別することも必要です。
ここからは、仕入税額控除の計算方法について詳しくご紹介していきます。
全額控除
全額控除の場合、条件付きで簡単に計算することができます。
課税期間中の課税売上高が5億円以下で、さらに課税売上割合が95%以上の場合は、まとめて課税期間中の課税売上の消費税額から課税期間中の課税仕入等に係る消費税額の全額をそのまま控除可能です。
厳密に細かく計算する必要もないため、計算も複雑にはなりません。
そこまで課税売上の規模が大きくない個人事業主などが対象です。
個別対応方式
個別対応方式の場合、課税売上に対応する仕入れは、全額控除を行います。
対して、非課税売上に対応する仕入れの場合は、控除をしません。
ただ、このどちらにも共通する仕入れがあった場合は、課税売上の割合を乗じて控除を行います。
課税売上に対応する仕入れと、共通する仕入れに課税売上割合を掛けたもので算出可能です。
全額控除に対して少し計算が複雑になります。
一括比例配分方式
個別対応方式のように計算ができない場合は、 一括比例配分方式を活用します。
ほかにも、本来は個別対応方式のように区分が可能な場合でも、使わないと選択した場合はこちらの方式を計算します。
個別対応方式に比べて計算は難しくありません。
一括比例配分方式を使う場合は、仕入税額に課税売上の割合を乗じて仕入税額控除を計算します。
簡易課税制度
全然事業年度の課税売上高によっては、簡易課税制度を活用できます。
条件として、前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下だった場合に利用可能です。
ほかにも利用する場合は適用しようとする課税期間の開始前日までに、必ず消費税簡易課税制度選択届出書を提出しておかなければなりません。
届け出なしに、5,000万円以下だったから活用することはできません。
控除額は、課税仕入などにかかる消費税額に、みなし仕入れ率をかけると出てきます。
第一種事業
卸売業が第一種事業に当てはまります。
みなし仕入れ率は90%です。
第二種事業
小売業や農業・林業・漁業が第二種事業に当てはまります。
みなし仕入れ率は80%です。
第三種事業
農業や林業、漁業の飲食料品の譲渡に係る事業以外と、建設業や製造業、電気業などが第三種事業に当てはまります。
みなし仕入れ率は70%です。
第四種事業
飲食店などが第四種事業に当てはまります。
ほかにも第一種、第二種、第三種、第五種、第六種以外の事業者が第四種事業になります。
みなし仕入れ率は60%です。
第五種事業
金融業やサービス業、運輸通信業が第五種事業に当てはまります。
みなし仕入れ率は50%です。
第六種事業
不動産業が第六種事業に当てはまります。
みなし仕入れ率は40%です。
簡易課税制度において2種以上の事業を営む場合
中には、第一種事業だけでなく一緒に第六種事業も営んでいる場合もあるでしょう。
2種類以上の事業を営んでいる場合は、計算方法が2つ存在します。
ここからは、2つの計算方法でもある原則法と簡便法についてご紹介していきます。
原則法
原則法の計算式は以下の通りです。
※国税庁「No.6505 簡易課税制度」から引用
計算はやや複雑ですが、名の通り原則的な方法です。
簡便法
条件がありますが、簡便法を活用して計算も可能です。
簡便法の場合、貸倒回収額がある場合や各種事業に係る消費税額に売上対価の変換などに係る消費税額を控除しきれない時は利用できません。
どちらにも当てはまらなかった時だけ消費税額を控除できます。
※国税庁「No.6505 簡易課税制度」から引用
もし第一種事業と第二種事業を行っている場合は、第一種事業に係る消費税額にみなし仕入れ率の90%を掛けたものと第二種事業に係る消費税額にみなし仕入れ率の80%を掛けたものを足すと出てきます。
原則法よりも計算が楽です。
課税売上を事業別に区分していない場合
2種以上ありながら課税売上を事業別に区分していない時は、最も低い仕入れ率を課税売上にして計算しなければなりません。
見積書・請求書の消費税記載に関する記事はこちら
インボイス制度の影響
新しく2023年10月1日からインボイス制度が始まったことで、仕入税額控除にさまざまな影響が出ています。
ここからは、インボイス制度が仕入税額控除に与える影響についてご紹介していきます。
仕入税額控除の適用要件が変更に
これまでと違い、適格請求書でなければ当たり前に行えた仕入税額控除ができなくなってしまいます。
まず適格請求書発行事業者の登録申請を行って、仕入税額控除の要件を満たす必要があります。
適格請求書発行事業者は、消費税の課税事業者しかなれません。
課税売上が1,000万円以下であっても、登録申請を行って消費税の課税事業者とならなければなりません。
無事適用になり取引先とやり取りを行った場合、お互いに適格請求書を保存する必要があります。
期間も定められていて、発行した日が属する課税期間の最終日の次の時から、さらに2ヶ月経った日から7年間と決まっています。
帳簿の保存による仕入税額控除の措置が廃止に
今までは3万円未満の課税仕入の時や請求書の交付が受けられなかった場合は、決まりを守っている帳簿であれば保存のみでも大丈夫でした。
しかし、インボイス制度ではこれらすべてが適用外になってしまいます。
ほかにも、仕入先が発行する請求書の中に、軽減税率の対象品目であることが記載されていなかった時などに、追記もできません。
これまでは可能だったのですが、インボイス制度が始まると同時にできなくなってしまいます。
インボイス制度に関する記事はこちら
インボイス制度による負担軽減のための措置
インボイス制度が始まることによって、これまで免税事業者とやり取りしてきた課税事業者はやることが多くて大変です。
ここからは、インボイス制度で係る負担軽減のための措置についてもご紹介していきます。
適格請求書発行事業者以外との取引における経過措置
一気にインボイス制度を進めると負担が大きいため、適格請求書発行事業者以外からの取引の場合、6年間の経過措置が作られました。
適格請求書発行事業者以外とのやりとりでも、一定の割合で仕入税額控除が可能です。
少額特例
2023年10月1日から2029年9月30日の間であれば、課税仕入に支払う額が1万円未満の時は、一定の事項がしっかりと記載されていれば仕入税額控除が認められます。
課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が少額特例を受けられます。
帳簿保存による仕入税額控除が容認される例
3万円未満の公共交通機関を使った旅客の運送や古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者から品物を買った場合など、一部帳簿保存による容認される例もあります。
請求書などの交付が難しい取引で容認されています。
インボイス制度の影響に関する記事はこちら
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まとめ
インボイス制度が始まったことで、これまでの仕入税額控除とは、ルールが変わっています。
仕入税額控除の適用要件が変更になって、帳簿保存での仕入税額控除措置が廃止されてしまいます。
業務負担も大きいので、インボイス制度に対応したシステムを導入するなどの工夫が必要です。
まだ開始したばかりで負担軽減の措置もあるので、覚えておいて利用すると良いでしょう。
電子帳簿保存法に関する記事はこちら
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